モブNo.183∶『傭兵や警備兵の人達は仕事をサボったりはしていませんよ。それぐらいは指揮官として理解できる筈では?』
惑星エルガレヴァブの惑星上にあるコンビナート群は、陸上だけではなく海上にもあり、海岸線の10km先までひしめき合っている。
作業員には専用の社宅街があり、それに伴って商店街や学校・病院などもあり、惑星中が工場町状態になっている。
もちろん自然が残っているところもあり、怪しいものがあるのはだいたいはそのあたりだ。
もちろん工場町や工場区域にも搜索の手は入っていて、そちらは地元の警察と警備兵、そして軍の突入部隊が担当している。
流石に建物の中は僕らにはどうにもならないからね。
さらに、軍の一部艦船は水中航行可能なものがあり、それを使って海底も調査しているそうだ。
そんな巡回警備及び調査の初日に、貴族の勧誘と中将閣下の襲撃? があってから1週間。
いろんなところから、ぽつぽつと怪しいものの報告が上がっているらしい。
親衛隊や第10艦隊は、その度にいそいそとでかけていっては手ブラで帰ってきているらしい。
そんな感じで、掴まされるのはハズレ情報ばかりの状況に、中将閣下のストレスは限界に達していたらしい。
そんな2週間目に突入した日の夕方。
『貴様らは何時になったらテロリストの基地を発見するのだ!』
ちょうど交代のタイミングで、地上基地の全館放送で、中将閣下の怒鳴り声が響いた。
間違いなく親衛隊長殿に良いところを見せてアピールしたいのだろうが、こればっかりはどうしょうもない。
親衛隊長殿は、成果が無かったとしても、『見逃すよりマシ』『居ないなら居ないほうがいい』と、気にしていないが、中将閣下はなんとしても戦果をあげたいらしく、普段から――なんで見つけられないんだ?!――といった怒りと焦りの表情をしていた。
『そもそも貴様らはきちんと真面目に巡回警備及び搜索をしているのか? ただ怠惰に過ごし、「何もありませんでした」としか報告出来ない無能ではないか! このままなにも見つからないなら、貴様ら傭兵も警備兵も契約違反として無報酬にし、契約不履行の罰金も払ってもらうからな!』
中将閣下はそう宣言すると、憤怒の表情のまま全館放送を切った。
その次の瞬間、地上基地にいた傭兵と地元の警備兵から、怒号が響き渡った。
――最高責任者の親衛隊長殿が『居ないなら居ないほうがいい』と言っているのに、なんであの赤毛女は『見つからないなら無報酬の上に罰金』などと抜かしやがるんだ――と。
正直仕事を真面目にやっているのに、自分の想い人に良いところを見せられないからといって、無報酬の上に罰金とは理不尽この上ない。
とはいえ相手は貴族な上に軍の高官なため、直談判はなかなか難しいし、出来たとしても聞き届けてくれるかどうかも分からない。
皇帝陛下はこういう理不尽は許さないかもしれないが、何しろ住む世界が違う人だから伝える手段がない。
もしかすると傭兵と地元警備兵によるストライキが起こるかなと思っていた。
その場合、参加しない方向で考えていた。
なにしろ相手は軍隊。
面倒くさいからと、殺りに来るかもしれないからね。
☆ ☆ ☆
【サイド∶アミラ・ロイラープス・ピシュマン】
『このままなにも見つからないなら、貴様ら傭兵も警備兵も契約違反として無報酬にし、契約不履行の罰金も払ってもらうからな!』
私は宇宙港に停泊している、第10艦隊旗艦のブリッジから、地上基地の放送を使い、そう宣言した。
まったく。平民の傭兵と警備兵が持って来る情報は外ればかり。
これだけ探して見つからないなど、連中が怠けているか、私に手柄を立てさせまいと、わざと情報を隠しているかに違いない。
ああ言って脅せば、隠している情報を話すはずだし、
それでも有益な情報をもたらさなかったら、無報酬と罰金を実行すれば良いだけだ。
もちろんテロリストの仲間が潜んでいる可能性もあるから、それも炙り出さねばな。
そのためにも、貴族出身の傭兵は一刻も早くスカウトして軍属にしてやらないとな。
「私は艦長室に戻る。後は頼むぞ」
「「「了解しました!」」」
そうして艦長室に戻った私は食事を運ばせ、料理とワインを楽しんでいた。
そこに、エルンディバー様から連絡が入った。
私は直ぐに食器を片づけると、身だしなみを整え、エルンディバー様からの連絡に出た。
「アミラでございます。なにかご用命でしょうか? エルンディバー様」
私は最高の笑顔を浮かべる。
私の想い人、将来の私の夫になる方に会うのだから、最高の笑顔になるのは当然といえば当然だ。
『ピシュマン中将。君は先ほど、傭兵と警備兵に対して、テロリスト潜伏地発見の情報がないからと、無報酬かつ罰金を支払えと宣言したそうだね?』
「はい。確かにその内容の通達はいたしましたが、それがなにか?」
あれだけ搜索をしているのに何も見つからないということは、連中がサボっているか、私への嫌がらせか、テロリストとつながっている可能性があるということにほかならない。
それを炙り出すための通達だ。
エルンディバー様も褒めてくださるに違いない。
しかし、エルンディバー様の口から飛び出したのは、信じられない言葉だった。
『君は何を考えている? あのような通達を出しては傭兵と地元警備兵から反感を買うだけだというのに。直ぐに撤回して謝罪したまえ』
その言葉を聞いた瞬間、私は一瞬で身体を強張らせた。
そのエルンディバー様の表情は冷たく、こちらを蔑むような目をしていらした。
どうして? あれは怠け者と敵対者と裏切り者を炙り出すための作戦なのに!
「あれはまともに仕事をしない連中への警告と、テロリストとの内通者を炙り出すためのものです!」
私は自分の真意をエルンディバー様に伝える。
すると、
『傭兵や警備兵の人達は仕事をサボったりはしていませんよ。それぐらいは指揮官として理解できる筈では?』
第3艦隊司令官ラスコーズ・ハイリアット大将閣下の娘で、親衛隊副長兼プロパガンダクイーン、プリシラ・ハイリアットが画面にしゃしゃりでてきた。
「その司令官から見て、サボりや内通者がいると判断したのだ! それをお前に判断できるのかハイリアット大尉」
私とエルンディバー様との通話に割り込むなんてどれだけ無礼なのだ!
しかも画面の情報から考えると、エルンディバー様と同じ部屋にいるようだ。
くそっ!天然ビッチのくせに私のエルンディバー様にちかよりやがって!
いずれ痛い目をみせてやる!
そう決意していると、
『では、同じ司令官という立場から見て、彼らは仕事をサボってはいないし、今の所彼らの中に内通者はいない。明日朝の交代のタイミングで、発言を撤回して謝罪したまえ! これは今回の作戦の責任者であり、上官である私からの命令だ!』
と、エルンディバー様に叱られてしまった。
「了解いたしました……」
私は素直に命令に従うことにした。
あ! いまハイリアットのやつが目で私を笑いやがった!
あの女! いつか思い知らせてやる……。
★ ★ ★
ちなみにハイリアットの目で笑ったのは幻覚です
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