モブNo.176∶「ではそうしましょう」
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今度こそ正面対決となったこの状況で、ラニアン・パランストイとプリシラ・パランストイに対して、レイオス・パランストイからの呼びかけがあった。
『愚かな弟妹よ。降伏しろ。私の軍はいくらでも追加出来る。今からお前達を十重二十重に取り囲むことも簡単なのだ』
レイオスは冷たい表情のまま、弟妹に対して降伏を進めてきた。
『ではなぜそれを今やらないのです?』
『慈悲だ。せめてものな』
レイオスがそう言った瞬間、敵艦隊から一斉射撃が放たれた。
警戒はしていたけど、せめて会話が終わってからだろうと考えていたのは甘かった。
ありがたいことに、いきまいていた正規軍が前に出ていた上に、彼らのバリアがギリギリ間に合ったために、被害は最小限に留められたと推測する。
こうして唐突な感じで最後の戦闘が始まった。
そこからはもう滅茶苦茶だった。
無人機は人間離れした軌道で襲ってくるし、周り中敵味方が入り乱れて、敵を撃ったのかフレンドリーファイアなのか判別が簡単に出来るような状態ではなかった。
息をつく暇もなく敵は襲いかかってくるために、常に緊張を強いられる。
照準器に捉えた敵機が、こちらのビームで爆散するのを見て、『ああ、まだ自分は生きているのだ』という実感がする。
そのなかで僕は、とにかく敵の攻撃をかわす事に専念した。
無理に攻撃を当てに行く必要はない。
いろんな方向からの攻撃を躱し、たまたま眼の前に敵機がいたら撃つ。
とにかくこれを繰り返す。
どれだけ戦果を上げるかよりも、生き残ることが重要だ。
そしてそれは、いつ終わるかもわからないものでもあった。
☆ ☆ ☆
【サイド∶衛星デウクイル突入部隊小隊長】
衛星デウクイルの表面には、宇宙港として建設中のドームがあった。
敵軍が放棄したとはいえ、放って置くわけには行かない。
その建設途中の宇宙港ドームを制圧するべく、我々は内部への突入を実行した。
突入する前からある程度は感じていたことが、内部に突入して明らかになった。
それは、この施設内に人気が余りにも少ないことだ。
警報や警備用のドロイドすら完全に沈黙しており、施設内の部屋の施錠、照明すら点灯していない。
ここまでなんの気配もないと、映画なんかでよくある、殺人ウイルスを散布されたか、凶暴な謎生物でも徘徊してるのかって気になってくる。
それでも根気よく一部屋一部屋クリアしていき、目標の一つである港長室にたどり着いた。
室内は無人であったが、デスクの上にはこれ見よがしに補助記憶装置が置かれていた。
部下に解析させたところ、パランストイ伯爵家の領地財政の収支帳簿や、不良役人の一覧やその不当財産の詳細、パランストイ家の収支帳簿といったものや、先代からの脱税の証拠などが収められていた。
どうしてこんな物が無造作に置かれているんだ? という疑問はあるが、施設の制圧という任務を達成するため、先を急ぐことにした。
電源室になにか仕掛けがあるかもと警戒したが、何もなかった。
ここまでくるとはっきり言って不気味極まりない。
わざと拠点から退去する場合は、何かしら罠を仕掛けておくのが普通だ。
が、ここにはそれがない。
これではただ普通に施設を明け渡しただけじゃないか!
レイオスの奴は一体なにを考えているんだ?
まあ、一介の突入部隊員が気にすることではない。
そう考えながら制圧作業をすすめていると、扉の取っ手に鎖の巻いてある扉があった。
その扉はパーティなどができる大広間のもので、重く巨大なため成人男性が2人がかりで開けしめをする。
機械で開くようにすればとは思うが、これが様式美というものなんだろう。
ともかく、中を調べないといけないので、鎖を外し、隊員に扉を開けさせた。
するとそこには、30人程の男女が衰弱した様子で座り込んでいた。
彼等は我々の姿をみつけると、
「やった! 助けが来たぞ!」
「やっとうちに帰れるのね!」
など、嬉しそうに反応をした。
しかし、その男女達の顔には見覚えがあった。
先に見つけた不良役人のリストに載っていたからだ。
ここで捕縛しようとすると逃げ出す可能性があるので、ここはひとまずどちらの陣営かは言わずに、純粋な内部調査隊のふりをすることにした。
「あー皆さん。我々は正規の救助隊ではなく、この建築中の宇宙港の内部調査にきたものです。ですので今から救助用の小型艇を要請します。それまではむやみに動き回らないようにお願いします。怪我人や病人がいたら申告を」
不良役人達は俺の言葉に頷き、
「わかった。怪我人や病人は居ないが、全員丸一日食事をしてないんだ」
リーダーらしい男が、現状の報告をしてくれた。
「残念ながら我々は軍用の携帯食ぐらいしか持っていません。それでよろしければどうぞ。でも、適度な断食は体に良いらしいですよ」
空腹が辛いのは判るが、それでも軍用の携帯食はやめておいたほうがいいくらい、不味い代物だ。
だが、空腹に耐えられない彼等はそれを欲した。
さて、彼等が不味さに悲鳴をあげているうちに、捕縛部隊を呼んでおこう。
今後は刑務所での暮らしにはなるんだろうが、軍用の携帯食よりはマシな食事が出るだろうからな。
☆ ☆ ☆
【サイド∶プリシラ・パランストイ】
パランストイ家の領地軍と傭兵部隊が、敵であるレイオスの部隊との戦闘中。
私は、パランストイ家の第一夫人のプルファナ様と、我が母である第二夫人のポーラと共に小型艇に乗り込み、ラニアン陣営の拠点である衛星ヤルエに向かっていた。
「どうして私が下がらないといけないの? 味方は優勢のはずでしょう? 私がそこにいなくてどうするの?」
「そうよ。私もあの子の活躍を見たいわ」
こんなセリフを聞くと、責任ある当主の妻、子供思いの母親のように思えるが、実際にはどちらが実権を握れるかどうかをけん制しているだけだ。
「申し訳ありませんがどうかご辛抱を。御二人に何かあったら大変です」
私がそういうと、2人はしぶしぶ押し黙った。
正直この私の母であるポーラも、第一夫人であるプルファナ様も、親としても貴族の妻としても失格だ。
2人とも子育てはせず、父ズーレインの、ひいては領地経営のための資金で贅沢三昧。
そんな状況でもパランストイ家が崩壊しなかったのは、歴代のパランストイ家の当主が、脱税により私財を蓄えていた事と、領地の経済が良好だったためだ。
しかしそれも、この2人の贅沢な散財と、汚職役人達のせいで傾きつつあった。
それに拍車をかけたのがレイオス兄様の暴挙だ。
戦争のせいで父とルイツ兄様が亡くなったのをいいことに好き放題やり始めた。
母ポーラは、毎日毎日パーティやらサロン通いをしながらも、三男のヤルサル兄様と四男のティット兄様は大事にした。
しかし私は女ということで、愛情をむけてくれたことは一度もない。
そんな私に優しくしてくれたのは、レイオス兄様の母である第三夫人のミルリア様だった。
レイオス兄様も優しくしてくれた。
そんな事を思いだしていると、船が急にガタガタと震え、動きを止めた。
そして間を置かずに、部屋の中に兵士達がなだれ込んできた。
「無礼な! 身の程をわきまえなさい!」
「高貴な身分の者が居るところに無断で入り込むというのが、どういうことかわかっているのかしら?」
2人は不機嫌そうに兵士達を睨みつける。
すると彼等の後らから、何者かが現れた。
「身の程は十二分に弁えておりますよ。プルファナ様、ポーラ様」
それは、兄であるレイオス・パランストイその人だった。
「レイオス! この恩知らずが! 恥を知りなさい!」
「のこのこと現れたわね! プリシラ! この男を捕縛なさい!」
2人は興奮してそんな指示を出す。
が、私はそんなものに従うつもりはない。
私はレイオス兄様の隣に行き、2人に向けて銃口を向けた。
「なっ? なにをするの!?」
「プリシラ……裏切ったわね!」
私は2人の驚いた表情を見て、思わず笑ってしまった。
「裏切る? 私は元々レイオス兄様と……ラニアンの味方よ」
その言葉に、2人はさらに驚愕の表情を浮かべる。
「私もプリシラも、ラニアンがパランストイ伯爵家を継ぐのは賛成でした。ラニアンなら良い当主になるでしょう」
「だったら何故反乱を起こしたのよ?」
レイオス兄様の言葉に、プルファナ様は当然の疑問を投げつけた。
「膿を出すためですよ。ストリートギャングに不良軍人に汚職役人。全部綺麗にしてからラニアンに渡すためです。私が殺害したことになっている人達は、よくない連中に狙われる可能性があったので、殺害した事にして保護していたのですよ」
このレイオス兄様の言葉が終わると、私は銃を下ろした。
「なるほど! ではこの領地の生産力は下がらないのね」
「むしろ上昇するかもしれません」
レイオス兄様の言葉を聞き、プルファナ様の顔が晴れやかになった。
おそらく、前以上の贅沢ができると想像したのだろう。
「汚職役人は衛星デウクイルに監禁してありますから、突入部隊がみつけるのも時間の問題です。そしてあと一つだけ、まだ終わっていないことがあるのですよ」
「ではその後一つをすぐに実行しなさい!」
母ポーラがウキウキとしながら、レイオス兄様に命令する。
「ではそうしましょう」
レイオス兄様は、そう返事をした瞬間、懐から銃を取り出し、プルファナ様の額を撃ち抜き、私は色々思うところのあった母ポーラの額を撃ち抜いた。
2人は嬉しそうな表情のまま、力なく倒れていった。
その様子を見届けたあと、
「では兄様、お願いします」
「わかった」
そういうと兄様は私の脇腹を撃ち抜き、そのまま部屋を出ていくのを、朦朧とする意識のなかで見送った。
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マーケットで財布を盗まれました……
犯人コ・◯・ス……
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