モブNo.15:『総員コロニー方向に退避急げ!』
大小取り混ぜて100隻の中型以上の戦闘艇。
これに、搭載していた小型艇や無人機を放出すれば、それはまるで惑星上でたまに発生するイナゴの大群のようだ。
だが、それであるからこそ勝機もある。
俺様君の様に突貫してきた相手を追いかけようとしても、味方が邪魔になったり、砲を撃って外したら味方に当たったりする。
しかも海賊たちは、軍隊ほどの統制はできていない。
さらには、彼等はずいぶん仲間思いのようだ。
その辺りを考えて動かないと、などと考えていると、
『先に行ってるわ!』
ノスワイルさんが飛び出していった。
なんで飛び出すかなあの人は!
自分が人気者って自覚がないのか?
いや、あれが彼女の戦闘スタイルなのだろう。
ともかく後を付いていってフォローといくか。
しかしその必要はなかった。
そう思えるほどに彼女の動きは凄まじかった。
ロスヴァイゼさんのような、人間では出来ない動き程ではないが、『漆黒の悪魔』に匹敵する動きをしていた。
機体はくるくると回転・旋回をし、その光跡には敵機体の爆発が伴っている。
とはいえ囲まれるのは時間の問題だ。
なので僕は、最初に考えていた戦法をとることにした。
一番近くにいた中型戦闘艇に接近し、砲の1つを潰す。
そして近距離を保ったまま、中型戦闘艇の回りをまわりながら砲や銃座、噴出口を潰していく。
こうすれば、他の船がこちらを撃てば味方の船に当たり、小型戦闘艇や無人機が襲ってきたらわざと中型戦闘艇に最接近して射撃を誘い、ギリギリでかわして中型戦闘艇に当てる。
時折周りを攻撃して挑発し、攻撃をさせて味方の船に当てさせる。
僕にはりつかれている船はまわりが味方の船が多いために回避行動がとりにくく、砲撃をしたとしてもかわしてさえしまえば周りの船にあたることになる。
そのためどうしても手数は減る事になる。
さらに、周りの連中の攻撃意識が僕にむいているということは隙ができるということだ。
つまり周りの船達は、ほかの傭兵達の攻撃を受けることになる。
海賊たちが仲間思いなのを逆手にとる。
実に卑怯な戦法だけど、生き残るため、ノスワイルさんへの攻撃意識を少しでも少なくするためには必要だ。
その間にもノスワイルさんはばんばん敵を落とし、大型戦闘艇まで沈めていた。
さすが僕の中古艇なんかより火力が段違いだ。
僕の船の攻撃力ではなかなか大型戦闘艇は落としづらい。
もちろん他の傭兵達も、相手の数が多いのを逆手にとったやり方を駆使して順調に数を減らしている。
ただあの俺様君だけは、旗艦らしい超大型戦闘艇に何度もアタックしては、小型艇や無人機に阻まれている。
まあそのお陰で小型艇や無人機が向こうにいってくれるのはありがたいけど。
それでも数は向こうの方が圧倒的。
こちらの撃墜者はまだ出てないけど、全体がジリジリとは押されている感じだ。
『不味いわ。ビームの残弾も燃料も心許ない』
それはたぶん味方全員がそうだが、補給に下がったところから突破されそうで、なかなか補給に戻れない。
「ノスワイルさんは下がってください!それだけ活躍すれば十分ですよ」
僕は、最初の中型戦闘艇をノスワイルさんに落としてもらい2隻目に取りついていたが、向こうがそれなりに対処をしてきたのでなかなかうっとうしい。
最悪、民間人のノスワイルさん達『クリスタルウィード』の人達と、管理コロニーの人達だけでも逃がさないとヤバイ。
そんなことを考えていたその時。
ノスワイルさんを含めた僕たち傭兵全員に向けての一斉通信が入った。
『総員コロニー方向に退避急げ!』
モニターに意思の強そうな30代半ばのイケメンが映り、退避を促した。
全員が援軍と理解し、次の瞬間には全員が退避を始めた。
『俺に指図するな!』と喚いていた俺様君を除いて。
そして俺様君以外の全員が引いた瞬間、海賊達から見て、『上』と『左』からビームの雨が降りそそいだ。
いわゆる十字砲火というやつだ。
この雨を降らせたのは、銀河大帝国軍の艦隊と集められた傭兵達の部隊だった。
総数はわからないが、かなりの数がいるのは間違いない。
その一閃で残っていた海賊達の船の5割が大破・撃沈し、形勢は一気に逆転した。
そしてすぐにさっきのイケメンがオープン回線で海賊達に対して投降を呼び掛けた。
『こちらは銀河大帝国軍第7艦隊のサラマス・トーンチード准将だ!グリムリープ海賊団に告げる!降伏するならエンジンを停止させ、無人機・小型艇を収容させろ!3分内に実行されない場合、再度砲火を浴びせる!』
一番近くにいた艦隊が来てくれたのだろうけど、よりにもよって第7艦隊とは『黒髭』も運がない。
この第7艦隊司令官、サラマス・トーンチード准将は、トーンチード伯爵家の人間ではあるけれど、母親が平民ということで不遇な境遇で育ったが、15歳で軍隊に入隊し、わずか15年で准将まで成り上がるほどの功績を積み上げた。
その艦隊運営・戦術・戦略・人材育成においては帝国軍に並ぶもの無しといわれている。
その彼の部下は、平民やあぶれ者といった、貴族からバカにされたり嫌われたりした連中ばかりだが、その能力は帝国軍内でもトップクラスを誇っている。
以前のカイデス海賊団も、そしてこのグリムリープ海賊団も、第7艦隊には出くわさないように動き、仕事をしていたと言われている。
はっきりいってこの場にロスヴァイゼさんがいたら、即座に逆ナンパするに間違いない本物のエリートだ。
そして勧告から3分後、
『『鬼神』にここまで詰め寄られちゃあ、もはや打つ手はねえ…降伏する。野郎共!武装解除しろ!俺達はグリムリープ海賊団だ!見苦しい真似をするんじゃねえぞ!』
グリムリープ海賊団は降伏した。
「ふう…何とか今回も生き延びたかな…」
操縦席の窓越しに海賊達が投降する様子が見える。
下手を打てば、いや、少しでも歯車が違えば自分達がああなる可能性も十分にあり得た話だ。
そう考えると改めて安堵のため息がでる。
それにしても、トーンチード准将は海賊達から『鬼神』なんて呼ばれてるのか。
そこにノスワイルさんから通信がきた。
『ウーゾス君。生きてる?』
画面に現れたノスワイルさんはかなり疲れた表情をしていた。
まあ僕もそんな感じだろう。
「生きてるよ。そっちが敵機を落としまくってくれたお陰だね」
敬語も忘れ、僕はノスワイルさんに称賛と感謝の言葉を贈る。
『私から見れば、君がヘイトを稼いでくれたお陰だとおもうのだけど?』
「だとしても落としたのはそっちだから」
実際に撃破したかどうかで撃墜数は換算される。
だから彼女の方が落としているのは間違いない。
「さあ、帰りましょうか。燃料がヤバイ」
本当なら彼女が納得するまで説明したいが、それ以上に本気で燃料がヤバくなっていたのでそっちを優先することにした。
『あ、本当だ。動くうちに戻らないと!』
それは向こうも同じで、直ぐ様帰路につくのを優先した。
たとえガス欠でも軍がすぐそこにいるわけだから助けてはもらえるだろう。
本当に空で動けないならともかく、コロニーにたどり着けるだけの燃料があるのにというのは、なかなか恥ずかしいものがある。
なので、噴射と慣性を使用してなんとかコロニーにたどり着く事に成功した達成感は、なかなかに気持ちのいいものだった。
あ、俺様君ことフィディク・ルトンダン君は、十字砲火の直撃をなんとか免れ、燃料が空になっていたので第7艦隊の船に曳航されていった。
なお戦闘中のあの船に、振り回された女の子、フィノ・フォルデップ嬢は乗って無かったらしい。
だったら後ろから撃ってたらよかったお…
お腹立ちの方もいらっしゃるとおもいますが、
生き恥というのは、死ぬより辛い罰になることがあります
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします
『狩り』を始めてしまいました…




