モブNo.163:「知ってるかいにいちゃん。俺達デブリ屋の間にゃ、『お宝デブリ』に纏わる話が山程あるんだよ」
管理コロニーとして機能する、施設集中型作業基地コロニーの内部にある大きなホールに、デブリ屋と傭兵達が集められた。
人数的には千人ほどは居るようだ。
そのホールの壇上に現れたのは、燕尾服を身に着けた上品そうな老人だった。
『えーお集まりいただいた皆様。私は惑星ニガバラの領主のティウェイター伯爵家の筆頭執事であり、今回のデブリ清掃の責任者であるジョルジュ・デアソンともうします。今回皆様にお願いした期間の約1ヶ月では到底終了できぬほど、当惑星ニガバラにあるデブリは膨大であり、とても片付けられるものではありません。ですので皆様には、今後長期的にデブリ処理の拠点となる人工天体の周囲を清掃してもらいます。集めたデブリは選別専用のコロニーに集荷を。皆様自身の休憩は、管理コロニーであるこの施設集中型作業基地コロニーでお願い致します。皆様は第一陣ですので、この集会が終了次第、作業に移って下さい。その間に第二陣・第三陣が来ますので、シフト表にしたがってローテーションを回して下さい。最後に、今は亡きティウェイター伯爵の奥様であり、現ティウェイター伯爵家当主であるプレイアナ・ティウェイター様のお言葉をお伝えします。『我が夫のやらかしの後処理をお願いする皆様、お集まりいただきありがとうございます。デブリは膨大ですから焦ることはありません。安全第一で進めて下さい』とのことです。それでは集会を終了いたします』
こうしてデブリ掃除の仕事が始まった。
僕は当然ながらヴォルバードさんと組んで仕事をはじめた。
『よし。次は8時方向・上昇40度・距離200だ』
「了解」
かなりの時間が空いていたはずなのに、長年組んでいたかのように息がぴったりだった。
どうせなら傭兵を辞めてデブリ屋に転職しようかなと思ってしまうレベルだ。
ヴォルバードさんが調子良くデブリを収集していくためか、僕等が就業時間内の8時間で集めたデブリは、かなりの量になっていた。
☆ ☆ ☆
【サイド:シオラ・ディロパーズ】
『じゃあ次は3時方向・下降36度・距離350だ』
「了解しました」
私よりはるかに歳上の男性のデブリ屋さんの指示にしたがい、船を所定の位置まで移動させるべく、私は慎重に操縦桿を握る。
バーニアを吹かし、姿勢を安定させ、目標のデブリに近づいていく。
そして距離が詰まると、ここだといったタイミングでブレーキをかける。
すると、所定の位置の3m程の手前で止まった。
『やるねえ! 今回が初めてのデブリ撤去の補助なうえに、デブリへの接近は数回やっただけなのに、もう目標までの距離を5m内で止めるなんて!』
「いえ。まだまだです」
デブリ屋さんは褒めてくれますが、私としては納得してはいません。
『白騎士』の異名をもつアーサーさんは1mぐらいの距離につけていますし、ウーゾスさんに至ってはほぼ零距離にピタリと停止させています。
アーサーさんから教えてもらった、『デブリ撤去の補助は、機体の操縦技術を鍛えるのにいいよ』という助言に従い、このデブリ撤去の依頼を受けましたが、たしかにこれはかなり高度な操縦技術を必要とします。
これをずっとやっていたら、操縦技術はかなり上達するでしょう。
『よし。じゃあ次の目標は、9時方向、上昇20度、距離300だ。よろしく頼むよ』
「了解しました!」
デブリ屋さんの次の指示を聞き、私は気を引き締めながら、操縦桿を握りしめた。
★ ★ ★
初日の仕事終わり。
久しぶりということで、僕はヴォルバードさんと一緒に夕食をとることにした。
施設集中型作業基地コロニーの食堂はセルフ式で、食べ終わったら自分で食器を戻すやり方だ。
ヴォルバードさんは、いつもならアルコールは1日休日の前日と決めていたらしいけど、今回は1日休日がないので、仕事終わりに500mlメタルボトルを一本だけ開けることにしたらしい。
「これなら明日に残らねえからな」
そんな事をいいながらも、本当はもう5、6本は飲みたそうな表情をしていた。
その寂しさを紛らわすためなのか、ヴォルバードさんは奇妙な話をしてきた。
「知ってるかいにいちゃん。俺達デブリ屋の間にゃ、『お宝デブリ』に纏わる話が山程あるんだよ」
「何ですその怪しい話は……」
明らかに都市伝説的な話を振って来たことに対して驚きを隠せなかったが、聞いてみたいと思ったのも事実だった
「実際にあった話もあるんだぞ。その中でも一番有名なのがあってな……」
ヴォルバードさんはビールを一口飲むと、真剣な表情で語り始めた。
「20年前だか30年前だかの話だ。ある日、デブリ屋の男がいつも通りデブリを拾っていると、旅行用のでっかいトランクが浮いていた。まあ、事故かなんかで放り出されたものの一つだろうと思っていたら、なんと中身は純金のインゴットが目一杯詰まってたんだそうだ。インゴットは1つが1kgで、それが150個も入っていたそうだ。希少金属や希少土に比べりゃ安いかも知れんが、一生遊んで暮らせるくらいの額にはなる。デブリは捨てられた時点で基本誰のものでもない。ゆえに手にとって所有権を主張すれば自分のものになる。男は当然自分のものにしようとしたが、そう上手くは行かなかった」
「持ち主が何人も名乗り出て来たわけですね」
ヴォルバードさんがそこまで語ったとき、僕は思わず口を挟んでしまった。
しかしヴォルバードさんは気にする様子はなく、
「そのとおり。何人もの貴族が『その純金のインゴットは自分の物だ』と、名乗り出てきたわけだ。しかし全員が証拠不十分で訴えは却下。純金のインゴットは晴れて男のものになった。男は即座にデブリ屋をやめ、派手な暮らしをしていたらしいが、いつの間にか姿を消したらしい。インゴットと一緒にな」
特にオチを語るわけでもなく話はそこで終わった。
「それって……」
「まあ想像はつくわな」
僕の想像通りなら、男は貴族の誰かに殺され、インゴットを奪われたのだろう。
でもそうなると疑問が湧く。
「でも、何で拾ったことを開示したんだろう? 黙っておけばバレなかっただろうに」
そう。拾ったことを黙っておけば貴族には狙われなかったはずだ。
「それはな。俺達デブリ屋の宇宙服のヘルメットにはカメラが付いててな。リアルタイムで本部で監視と録画をしてるからだ。それに所有権を主張したとしても、警察での手続きは必要だからな」
なるほどそれなら納得だ。
「それからはよう。トランクの中身は絶対に開けないって習慣が出来たって話だ。開けずに警察に丸投げするわけだ」
「お宝っていうより教訓話ですね」
「かもな」
ヴォルバードさんは笑いながらビールを飲み干すと、
「じゃあウーゾスのにいちゃん、また明日もよろしくな」
そう言いながら食器を下げにいった。
僕も食事を終わらせると、食器を下げ、与えられた部屋に向かった。
その時。ヴォルバードさんの話を聞いて、目を光らせた連中がいたことに、誰ひとり気がつくことは無かった。
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