モブNo.162:「よう! にいちゃんか! 久しぶりだな!」
何の気なしに闇市商店街の『キュリースガレージ』に訪れたところ、なぜかはわからないが、店主であるグレイシア・キュリースさんに気に入られてしまった。
これが、ろくでもない受付嬢や高校の時にいた、イケてる女集団が言ってきたなら、『はいはいドーモ』と、鼻で笑いながら無視しただろうけれど、そういう輩ではないキュリースさんに言われるのは、なんとなく嬉しいなと思ってしまった。
我ながら女性に慣れていないなあと自覚してしまった。
その後はしばらく商店街をぶらついたあと、例のお肉屋さんで『煮え滾る油泥から産まれし、ミノタウロスの心臓』つまりはビーフ100%メンチカツを買って帰った。
翌日からは、食事の買い物以外は家から出ることなく、漫画やらアニメの取り置きを消化したりして、過ごしていた。
そんな生活も、7日もすればやることは少なくなってくる。
なので8日目の朝には、きっちりと支度をし、傭兵ギルドにやってきた。
「おう。休暇はどうだった?」
「まあ、のんびりはできたかな」
「それでも1週間か。もう少し休んでも良いんだぞ」
「だめだね。怠け癖がつくから」
ローンズのおっちゃんは、最近のお気に入りらしいプラボトルの甘くないコーヒーを片手に書類の整理をしており、しかもなぜかプラペーパーの書類が山のように積み上がっていた。
「なんでプラペーパーの書類が山になってるわけ?」
プラペーパーの書類は、傭兵が依頼を完了した後に保管用に製作されるもののはずだ。
「今、ワーデル業務管理部部長が出張中でな、なぜかしらんが俺に書類チェックの仕事が回って来たんだ」
「そりゃあ大変だね。依頼の一覧を見せてくれたら自分で探すよ」
多分ローンズのおっちゃんが、年齢的にも信頼度合いにしてもトップクラスだったから任されたんだろう。
これ以上仕事を増やすわけにも行かないしね。
するとおっちゃんは、
「ほらよ。お前さんの好きそうな仕事の一覧だ」
そういいながら一覧を渡してきた。
「ありがとう。恩に着るよ」
そうして一覧を受け取ると、小規模海賊の討伐や警備の依頼が並んでいた。
そしてそのなかに、
「これだ……!」
実に僕好みの依頼があったのだ!
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業務内容:惑星ニガバラの衛星軌道上にある様々なデブリの処理の護衛兼作業補助
業務期間:銀河標準時間で約一ヶ月。
銀河標準時間を基準とした3交代制の8時間連続勤務で16時間の待機休憩。
業務環境:管理コロニー(施設集中型作業基地コロニー)内にある宿泊施設(カプセルホテル式)の無料使用・食事の無料支給・宇宙船の燃料支給。
業務条件:宇宙船の持ち込み必須。
持ち込み宇宙船が破損した場合の修理費は自腹。
緊急時には、待機休憩時でも対処・出撃すること。
上記理由により、待機休憩時のコロニー外への外出不可
報酬: 60万クレジット・固定。危険手当支給。
長期化した場合は、超過分を日割り計算。
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「まあ、お前ならそれを選ぶとは思ってたよ」
ローンズのおっちゃんはしてやったりという表情をしていた。
しかしすぐに表情を堅くし、
「お前は喜ぶかもしれんが、大抵の傭兵はこんな感じの仕事を嫌う。特に作業補助ってやつが付いてたりするとな。傭兵の仕事じゃねえってな。だから喜んで受けてくれる連中がいると本当に助かるんだ……」
おっちゃんはしみじみとため息を吐いた。
もしかすると、傭兵には知らされていない、しがらみみたいなものがあるのかもしれない。
ともかく依頼を受けた僕は、まずはパットソン調剤薬局にやって来た。
いままでなら肉屋のなにがしかを買って行ったのだけれど、今回は『ウィッチ・ベーカリー』のパンをチョイスし、たまたま焼きたてだったクリームドーナツを買って行った。
その時は知らなかったのだが、店の常連である魔女の人達曰く、このクリームドーナツは『カロリーの悪魔』と呼ばれていて、ものすごく美味しいが、後々体重計に乗った時に悲鳴が上がるそうだ。
しかしゴンザレスは
「今の俺は絶対に太らないからな」
と、全ての女性を敵に回す発言をしながら、クリームドーナツを食べていた。
ちなみにいただいた情報によると、惑星ニガバラの領主のティウェイター伯爵は、代々宇宙での流通産業と人口問題の解決のために、惑星ニガバラの衛星であるカアシガに専用の研究所を建築し、科学者やエンジニアを集め、新しい宇宙船・宇宙港・コロニー・人工天体などを積極的に開発するなどしていた研究者肌の一族だったそうだ。
しかし失敗や事故が多く、犠牲者も少なくなかった。
その様々な過程で出るデブリの量がかなり多い上に、わからないだろうとばかりにゴミを捨てていく輩まで現れた。
そのため宇宙船の発着が困難になっているうえに、軌道エレベーターもマスドライバーもあるらしいが、危険すぎて使えないらしい。
そして当代のティウェイター伯爵が反乱軍の鎮圧戦に出兵して、名誉の戦死を遂げた後は、息子が幼く、当主になれないこの状況を利用し、研究者やエンジニア達は大学や企業に斡旋し、様々な利権や研究成果を帝国に売却、家財道具を売るなどして資金を集め、専門業者と傭兵ギルドへのデブリ撤去の依頼を発注したらしい。
伯爵夫人曰く、『幸い今までは領民からの反乱はなかったけれど、今後も続けていたらどうなるかわからない。だからこれを機会に色々綺麗にしたい』のだそうだ。
友人宅を出た後は、いつも通り『アニメンバー』に行って新刊や気になる作品を購入し、家に戻ったら長期外出の準備をしてから、大家さんに挨拶にいく。
そうして翌日には、目的地に出発することとなる。
ゴンザレスから、『デブリがものすごくて、惑星の輪のように見えるらしいぞ』とは聞いてはいたのだけれど、実際の現場をみるとそれはそれは凄まじかった。
惑星ニガラバの衛星軌道上に、びっしりといった感じでデブリが浮かび、その中に宇宙港の残骸が3つ・円筒型コロニーの残骸が2つ・人工天体の残骸が1つ浮かんでいたのには、流石に度肝を抜かれてしまった。
よくまあここまで放置できていたものだと感心すらしてしまう。
これだけあるなら、爆弾なり戦艦の一斉射撃なりで消滅させたほうが早いはずだけど、再資源化して販売するのが目的でもあるらしいので、それはできないらしい。
『凄い光景だな……』
『帝国国内にこんなものがあったんですね』
『圧巻です』
そしてなぜか今回、アーサー・リンガード君とセイラ・サイニッダ嬢とシオラ・ディロパーズ嬢がたまたま同じタイミングで惑星イッツを出発したため、成り行きで一緒にやってきていたりする。
まるで主人公のハーレムパーティに紛れ込んだような気分だった。
宿泊地になる管理コロニー(施設集中型作業基地コロニー)に到着すると、傭兵だけではなく、回収作業の要になるデブリ屋も数多く集まっていた。
そうなると、絶対にいるだろうと思っていたのが、
「よう! にいちゃんか! 久しぶりだな!」
「お久しぶりですヴォルバードさん!」
デブリ屋のおっちゃんことリグス・ヴォルバードさんだった。
様々なミスが発覚し、通信機器の名称を一部変更します。
大型端末(ノートPC)は小型端末(ノートPC)になります
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