モブNo.155:『ともかく、道中は私達の指示に絶対に従ってくださいね』
結論から言うと、肥満以外は健康に問題がなかった事は非常に喜ばしい。
が、その病院で出くわした人物のせいで、精神的にはとてつもなく疲労してしまった。
なんで軍の人は僕なんかに目をつけるんだ?
そこはアーサー君とかランベルト君じゃないの?
それともあれかな、惜しみなく使い捨てができるからか?
だとしたら冗談じゃないけど、軍に喧嘩売るわけにもいかないしね。
まあ一番の回避方法は仕事をしていることなので、普通ならもう一日くらい休むんだけど、人間ドックから帰った翌日には、傭兵ギルドに仕事を探しにきた。
「どうしたんだ?随分顔色が悪いが……要再検査でもでたのか?」
ローンズのおっちゃんは、僕が人間ドック帰りなのもあって、身体の心配をしてくれた。
僕が病院でのことを話すと、
「なんか軍に目をつけられてるみたいなんだよね……」
「ヤバイなそりゃ……」
おっちゃんも軍に目をつけられるのがヤバいというのはわかっているので、親身になってくれて、
「ある商会の護衛の仕事があるが、やるか?」
「やる」
イッツから離れられる仕事を紹介してくれた。
この護衛任務というものは、基本的に複数人で行うもののため、期限までに規定の人数が揃う必要がある。
その期限は明後日までだったが、翌日には規定の人数が揃ったと、ローンズのおっちゃんから連絡があった。
護衛の仕事の時には、必ず事前にミーティングがおこなわれる。
ミーティングとは、こういった商船団護衛のような、小規模複数人での依頼の場合に行われる護衛計画の打ち合わせだ。
その事前のミーティングに集まったそのメンバーは、
「にしても見事に知り合いばっかりだな」
最近、騎士階級に上がったレビン君は、闇市商店街で見つけたらしい怪しげなゴーグルを首から下げていた。
「まあ変なのが紛れるよりはいいさ。それにしてもおっさん。新人に階級抜かれちまってんじゃないのさ!」
モリーゼはテーブルに足を上げ、メタルボトルのノンアルコールビールを飲みながら、バーナードのおっさんをからかっていた。
「俺は身体を労りながら仕事を受けてんだよ」
そのバーナードのおっさんは、タバコを咥えながらモリーゼを睨みつける。
ちなみにこの会議室は禁煙だから火はついてない。
「よっ……よろしくお願い致しますっ!」
功績が認められ、晴れて城兵階級に昇進したディロパーズ嬢は何故か緊張していた。
「大丈夫シオラちゃん?随分緊張してるけど」
その彼女に声を掛けているのは、この中で一番高い女王階級のカティ・アルプテト嬢だ。
何故か見事に知り合いばかりという、まるで主人公のような都合のよさだった。
いや、この場合はレビン君かディロパーズ嬢が主人公かな?
きっとそうだ! そうに違いない!
ちなみにアーサー君とランベルト君は残念ながら指名の仕事があったらしい。
と、いうか、なんで女王階級が混ざってきてるんだ?
もっと割のいい、階級にふさわしい依頼があるだろうに……。
しかし僕以外は誰も気にした様子はなく、ミーティングは委員長気質のディロパーズ嬢の仕切りでサクサクと進んでいった。
その結果、リーダーはもちろん女王階級のアルプテト嬢。
護衛のフォーメーションも直ぐに決まり、一番範囲の広いレーダーは僕の船だったので、また探査役だ。
そうしてあっさりと護衛計画が決まり、その後の依頼主とのミーティングはアルプテト嬢にお任せした。
そしてあっという間に依頼当日。
依頼主の目的地は惑星ポルトグラスで直通のゲートまでが約3日。
そこまで行けば目的地までの直通ゲートがあるので、惑星の宇宙港に到着すれば依頼終了となる。
依頼主の船は中型の旅客船で、岩石破壊用以外の兵装はついていなかった。
『はじめまして。ザクウン商会の会長のアマス・ザクウンです』
ザクウン会長は、商会長というよりは貴族っぽい感じの人物だった。
その後ろには、身なりの良さそうな様々な男女がならんでいた。
まあ、貴族が商売をやってることは別におかしくはないから、気にすることはないだろう。
今回は会長含めた幹部達だけによる社員旅行なのだそうだから、後ろにいる人達が幹部なのだろう。
アルプテト嬢から聞いた話だと、曰く、『会長や幹部の我々が居ないほうが社員ものんびりできるでしょうからな』と、言うことらしい。
会長さんの挨拶が終わると、幹部の人達が一斉に話し始めた。
『いやしかし、女王階級の方に依頼を受けていただけるとは思ってもみませんでしたな!』
『これなら道中は安心ですわね!』
『会長から話は聞いていましたが、いや実にお美しい!』
『なんなら私と愛人契約など結ばんかね?』
『俺はそっちの明褐色の肌に金の眼に黒髪の子が好みかな?』
商会の幹部の人達は、護衛のメンバーに女王階級のアルプテト嬢がいたことに、かなり興奮していた。
本来、司教階級を含む上階級に護衛の依頼をするためには、相手を指名して、最低でも七桁の報酬を用意しないといけないと言われている。
相手指名しない場合は、それなりの高額報酬を用意し、向こうが依頼を受けてくれるのを待つしかない。
なので、騎士階級までの依頼だったのに、そこに女王階級が応募してくる事自体、大変な幸運だ。
だから興奮するのはわかるけど、一部の幹部の人の言動が下品すぎる。
アルプテト嬢の眉毛がぴくついてる。
かなりイラッときてるなあれは。
ディロパーズ嬢もかなり渋い顔してるわ。
『止めんか! 失礼な事をほざいているんじゃないっ!』
流石にヤバいと思ったのか、会長さんが下品な言動をする幹部達に見事なラリアットを食らわせていった。
自分達の身の安全を確保してくれる存在に、余りにも失礼が過ぎれば自分の身が危なくなるからね。
当然と言えば当然の処置だ。
『申し訳ない! 此奴は絶対に操縦室には入れない事を約束します!』
会長さんは必死に謝罪し、他の幹部の人達も謝罪をしてきた。
『ともかく、道中は私達の指示に絶対に従ってくださいね』
アルプテト嬢は、にっこりと微笑みながらも、しっかりと釘を刺しにいった。
ともかくこうして、惑星ポルトグラスへの護衛任務がスタートするのであった。
アルプテト嬢が依頼を受けた理由なんかは次話で。
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