モブNo.152:「わかったわ。お通ししてちょうだい」
襲撃者を退け、砂嵐が過ぎさると、改めて敵味方双方の被害が確認できた。
まず味方側だが、防衛組、捜索組両方に数人の死者がでていた。
犬型ドロイドの奇襲で、噛み殺されたらしい。
まあリボロス氏が異常なだけだよね。
なお怪我人のほうは、大小とりまぜて、それこそ数え切れないくらい居た。
襲撃者側の戦力は、人間は12人、うち2名はサソリ型輸送機のパイロットだった。
犬型ドロイドはコンパクトになるらしく、約400ほど持ってきていたそうだ。
戦闘での死亡者は3名。
捕縛後、昏睡状態になった者は5名。うち2名は死亡。
残り4名も命に別状はないが、かなりの過労による衰弱状態。
これをみると、たとえ装備があったとしても、砂嵐の中を行軍するのは命がけというのがよくわかる。
命に別状のない襲撃者の話によると、ここの元々の責任者であるダッサリアヌ男爵とその夫人は言われていた通りの人物で、調査費用を着服し、さらに重税を課して贅沢三昧をしていたそうだ。
夫が戦争で死去して、未亡人となったダッサリアヌ男爵夫人は、帝国が支配することになっても、同じように調査を任されるだろうから、同じように着服し、さらには帝国なら増額されるかもと考えていたらしい。
これは噂だが、帝国の有能な青年将校とのラブロマンスなんかも期待していたそうだ。
さらには彼らの情報で、ダッサリアヌ男爵夫人の潜伏先も判明したため、第6艦隊の司令官が制圧部隊と一緒に捕縛に向かうそうだ。
なぜ今回のような無謀な作戦をしたのかと聞いたところ、ダッサリアヌ男爵夫人が『協力者』なる人物に、ネットで教えてもらったとのこと。
水や食料や乗員の状態なんかも聞いたらしいが、短期決戦だから不要だと言われたらしい。
正直そんな杜撰以下の命令で出撃させられてはたまったものじゃないね。
こうして襲撃者への尋問などが行われている間、僕ら傭兵には自由時間が与えられた。
基地を守り、一般職員や調査員に一人の被害を出さず、情報も守りきったご褒美らしい。
もちろん自由であるから、基地の掃除(主に砂)を手伝ったりするのも自由だ。
しかし正規の軍人さん達は、襲撃者たちの護送や、ダッサリアヌ男爵夫人の捕縛と、忙しくしていた。
普通なら、僕達傭兵を使って捕縛くらいさせそうなのに、第6艦隊司令官であるピルオネス・ヘンドリックス准将は随分良い人だ。
まあ、功績をあせっているというのもあるのかも知れないけど、威張って何にもしない連中よりはましだね。
☆ ☆ ☆
【サイド:モルジュ・ダッサリアヌ男爵夫人】
砂嵐に乗じての奪還作戦は失敗しましたか。
『協力者』の策もあてにありませんわね。
私は巨大な岩山をくり抜いた別荘の一室で、部下からの報告を受け取っていました。
本来ここは私の父の領地。
代々この何も無い土地に国が支援をするのは当たり前。
領民は領主に奉仕し、敬うのが義務。
入り婿であった夫が戦場で亡くなってからの行動は当然の事ではありますが、今回の行動は貴族としての意地みたいなものね。
岩山をくり抜いた別荘のなかで、唯一のバルコニーへの扉を開け、生まれ育ったこの星の大地をみつめていると、
「奥様! 帝国軍が近づいてきます!」
メイドの一人が慌てた様子で駆け込んできたわ。
「そう……。意外と早かったわね」
作戦が失敗したらこうなることはわかっていました。
しかしそれならそれでやるべき事があります。
少しでも希望がありますからね。
「奥様! 早く脱出を!」
「かまいません。全員に抵抗しないように通達しなさい。それと、敵の指揮官殿をこちらに案内なさい。失礼のないように」
「かしこまりました」
メイドが出て行くと、私は軽く身だしなみを整え、敵の指揮官殿をまった。
情報によると、帝国軍第6艦隊司令官であるピルオネス・ヘンドリックス准将は、無能ではないが有能でもない凡才とのこと。
さらにはまだ若い20代前半。
私から見れはまだまだ初心な坊やでしかないわ。
私の掌で転がして、もしエネルギー鉱脈がみつかったら、その管理を全て私に譲渡して貰うことにしましょうか。
そこに先程のメイドがやってきて、
「奥様。帝国軍側の司令官様がご到着です」
良い知らせを持ってきてくれた。
「わかったわ。お通ししてちょうだい」
さあ。ここからがこの私の魅力の見せ所ね!
☆ ☆ ☆
【サイド:ピルオネス・ヘンドリックス】
ダッサリアヌ男爵夫人の私兵達は、最初こそ反撃をしてきたが、すぐに降伏をし、こちらを受け入れるべく、岩山をくり抜いた別荘の扉を開いた。
こんなにあっさりと降伏されると、罠である可能性も疑われるが、無駄な死人が出ないだけありがたい。
しかしこんなにあっさり降伏するなら、始めからテロなどしなければよかっただろうに、なぜ夫人は無駄に抵抗するようなことをしたのだろう?
しかも無謀な作戦を採用して。
ともかく首謀者のダッサリアヌ男爵夫人を捕らえる事だ。
メイドに案内された部屋は、豪奢な扉で仕切られた、執務室兼私室のようなところだった。
「失礼する。私は帝国軍第6艦隊司令官ピルオネス・ヘンドリックス。モルジュ・ダッサリアヌ男爵夫人。素直に捕縛に応じていただきたい」
「来ましたか。私は逃げも隠れもいたしません。捕縛にも応じましょう」
モルジュ・ダッサリアヌ男爵夫人は、赤いドレスを身に纏い、俺をじっと見つめてくる。
凛とした印象があり、悪い噂は本当なのかと一瞬疑いたくなった。
しかし次の瞬間、
「ですがそれは明日の朝にしてはいかが?」
ダッサリアヌ男爵夫人がシナを作りながら俺にしなだれかかってきた。
俺にはこんな80を超えた婆さんを相手にする趣味はない。
「残念ですかそうはいきません。貴女を捕縛次第、帝国首都に連行するように指示をうけております」
「あら。我慢しなくてもよいのよ?」
なんで自信満々なんだこの婆さん?!
歳を考えろ歳を!
「構わん! つれていけ!」
「ちょっと何?私は准将殿にお話があるのよ?」
まったく……80も超えた婆さんが色目使ってくるってどうなってるんだよ……。
後から聞いた話だけど、あの婆さん本当は、若い姿のバイオロイドに脳を乗せ換える予定だったらしいんだけど、その時は長年の贅沢三昧で金がなく、バイオロイドが買えなかった。
それでもやらないといけなかった使用人たちは苦肉の策として、サイバーアイには自分の姿が若くみえる仕掛けをほどこし、脳の触覚の部分に若い身体だと錯覚するチップを埋め込んだのだそうだ。
だから自信満々だったわけか。
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暑さのせいで筆が止まりがち……
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