モブNo.149:「主人公さんにはぜひとも活躍してほしいね」
文章を一部変更しました
挨拶も終わり、それぞれのシフトに分けられた後、僕は即座にゴンザレスに連絡をいれた。
「おい! どうなってるんだ?! 開発の責任者が違ってるじゃないか!」
『すまん! 元々惑星封鎖の為に第6艦隊が派遣されてるってのは教えただろう? 多分お前に情報を渡した後に、突然担当を変更したんだ!』
「つまり現場での急な変更だから解らなかったわけか?」
『流石に現場レベルの変化は無理だ!』
ゴンザレスの様子から、騙したわけではない事は理解できた。
まあ、僕を騙す理由は今のところないしね。
それに、前兆すらなかった現場での変更まで事前に察知しろと言うほうが無茶だ。
「その急な変更には、なにか目的があるわけ?」
現場でのいきなりの変更には、何か理由があるはずだ。
責任者の失踪とか、権力者の横槍とか。
『ああ。それは掴んである。どうやら惑星ザライツ支部のエースの、ラエーシャ・サホルってやつを勧誘するのが目的らしい。同時に優秀な人材の発掘も視野に入れている様だ』
て、やっぱり人材確保か。
元々の責任者だったモールイ男爵を、伯爵家と第6艦隊の圧力で下がらせたんだろう。
とりあえずそのサホルさんとやらは、他支部の人だからよく知らないし、名前からして女性っぽいから絶対に近寄っちゃだめだね
「主人公さんにはぜひとも活躍してほしいね」
『まあ、勧誘されたくないなら大人しくしておくんだな。あ、代金は帰ったら半額返すわ』
「そうしてくれ」
もらった情報と違っているなんてのはよくある事だから、代金を半分返さなくとも構わないとは思うが、そのあたりはゴンザレスのプロとしてのけじめなのだろう。
今回の巡回の仕事は、管理基地の惑星基準銀河標準時を軸として、
朝番:5時00分〜13時00分。
昼番:13時00分〜21時00分。
夜番:21時00分〜5時00分。
の3班に分かれていた。
僕はシフト的に夜番になった。
幸いにもカプセル式の宿泊施設内部に、風呂もシャワーもトイレも付いていたので、食事以外の時間はひきこもれる仕様だ。
そしてその仕事の流れはこうだ。
昼番からの引き継ぎをして、バディをくむことになった人といっしょに出発する。
ちなみに今回も陽子魚雷は取り外し、空対地ロケット弾である『石礫』2基と、熱探知・光量増幅・赤外線という3つの暗視装置と各種レーダーやソナーを取り付けてもらった。
ロケット弾は一機で30発あるので、余裕が持てるのが嬉しい。
巡回のルートは、点在するいくつかの調査隊基地のビーコンを頼りにその上空を飛び、各種の装置で周囲を探って、調査隊と通信して現状確認、終了すればまた次の調査隊のポイントに移動というのを繰り返す感じだ。
惑星を何周もする巡回なので、8時間の間に昼と夜を何回も繰り返す事になる。
昼間の砂漠は光の反射もすごく、風で動き、幾重にも山が連なる状態は、まさに海の波のようだった。
そして夜の砂漠は本当に真っ暗で、ぼんやりしていると墜落してしまいそうになる。
そしてそれを回避するためにあるバディシステムでバディになった人物はロバート・リボロス氏という惑星ワーレイ支部の人で、僕より背は少し低いけど、かなりマッチョな人物だった。
筋肉と格闘技が趣味な人だけど、筋トレの話を押し付けてこないのがありがたい。
ゲーム全般も好きらしく、非番の時間にハンターアクション『クリーチャーハンタープラネット』をプレイしていたので、思わず一緒にローカルプレイをしたりしていた。
しかも今回の傭兵たちには、このゲームのユーザーが結構いたらしくてかなり盛り上がり、最初の引きこもりプランとは真逆にはなってしまったが、契約期間の半分の2週間、不穏分子からの襲撃もなく、平穏な時間が過ぎていった。
そんな平穏な3週目が始まった、その日の午前4時半を過ぎたときに、ある調査隊が巨大な砂嵐の兆候を確認したという一報が入った。
以前の惑星テウラでは出くわさなかったが、砂漠や荒野の惑星での砂嵐は、超大型戦闘艇クラスの船でも風に煽られるうえ、水の粒子のように細かい砂が、船や精密機械などの様々なところに入り込み、大変なことになる。
そのためその日は、調査隊を管理基地に避難させる作業が優先され、本来睡眠を取る予定だった遅番の僕達も、他の2班と第6艦隊の人達と一緒に避難作業を手伝った。
その避難の最中、巨大な砂嵐を遠目で見たのだけれど、成層圏の直前まで舞い上がった砂がまるで壁のようになっていて、その中に未知の怪物が潜んでいるような気がした。
そうして決死の避難が完了し、基地や船や工作機械に完全防塵対策ジェルを塗布し終わり、基地内の警備対策を強化し終わったのが昼の14時ごろ、それから1時間も経たないうちに、管理基地を砂嵐が襲った。
ちなみに完全防塵対策ジェルというのは、粘液性のコーティング剤で、これを隙間なく塗ることで砂塵の侵入を防ぐ事のできるシロモノだ。
つまり、極小デブリを吸着するポリマーの砂塵バージョンだ。
デブリポリマーと違い、噴射口などにも塗らないといけないので、動かせなくなるのがネックだが、精密部分に砂塵が入り込むよりはいいので採用されている。
砂嵐に包まれた管理基地は、昼間の時間でも真っ暗で、砂が砂に当たって軋む音や、暴風が走り抜ける音が常に鳴り響き、本当に怪物の胃の中に飲み込まれた気分になる。
調査員や基地の職員、傭兵の中にも惑星バルダルの出身者がいるのだけど、避難の最中に彼等から興味深い話聞く事が出来た。
それは、この砂嵐と共に死者の軍隊がやって来て、町をいくつも滅ぼしたというのだ。
もちろんこれはおとぎ話だが、これの元になった史実があるらしい。
この惑星バルダルが、まだ宇宙に進出する前の時代、色々な国があり、覇権をかけて争っていた時代。
ある小国が大国に攻められて滅ぼされようとしていた。
その大国の軍が進軍中に砂嵐に遭遇し、途中にあった街で砂嵐が収まるまで待つことにした。
この砂嵐なら敵も動けないと判断しての事だった。
しかし追い詰められていた小国は、砂よけの工夫をした兜に、防塵のフード付き外套というスタイルで砂嵐の中を進軍し、街にいた大国の軍を奇襲しこれを打ち破った。という話だった。
もしかして警備体制を強化したのは、この方法を使ってくるのではないかと考えているのだろうか。
でも確かにありえなくはない。
太古の昔から考えれば、防塵装備は遥かに進歩しているわけだから、出来なくはないだろう。
僕は宿泊施設に向かいながら、とりあえずいつもは弱くしている、タテレベム社製出力調節型ブラスターP―11。別名『ムルビエラ』の出力を最大にしておいた。
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