モブNo.140:『まあ。あんたがどうしてもネキレルマ星王国に居たいっていうなら、ちゃんと帰してやるから、少しだけ大人しくしていてくれ』
危なかった。
白金梟に後ろに付かれた時、何とかして引き剥そうと、焦って姿勢制御用のノズルの向きを間違えた。
しかしそのおかげで、相手の攻撃をかわすことができたのは幸運といっていい。
そしてすぐに体勢を整え、反撃に成功し、命拾いをした。
相手の白金梟は、こっちの予想もしなかった動きに反応が遅れたんだろうね。
それからすぐにネキレルマ軍は完全に撤退し、このネオット宙域の戦闘は帝国軍の勝利に終わった。
ちなみにこの戦闘では、ネキレルマ軍にかなりの逃亡兵・投降兵が出たために督戦隊が出動したという情報があり、それを裏付けるように、敵艦隊の退路方向には大量の戦闘艇の残骸があったという。
周囲の哨戒を終わらせてから帰還した航空母艦では、乗組員達による勝利の宴会が行われていた。
それは、このネオット宙域での戦闘に参加したすべての部隊でも行われていた。
なかでも話題になっていたのは、たった1機で艦隊を全滅させ、惑星上に20は点在する要塞を壊滅させ、人工天体型機動要塞を破壊したといわれている、白地に片翼が金色の部隊の翼に不死鳥のマークが抜かれていた隊長機、たしかシャルラ・アトベーレっていってたっけ。そのネキレルマ星王国No.1パイロットを倒したランベルト君が注目を浴びていた。
以前の偵察時にはいなかったけど、そんなすごい女性の隊長さんがいたのか。
僕と戦った梟の人も凄かったけど、それより凄いって相当なはずなんだけど、それでもロスヴァイゼさんにはかなわないってのは、何とも言えない気がする。
それにしてもネキレルマに人工天体の要塞なんかあったんだ。
確かゴンザレスに見せてもらった情報にはのっていなかったように思うんだけど。
そして宴会の最中に、他の宙域でもネキレルマ軍が敗北したという情報がもたらされた。
この結果を踏まえて、帝国政府はネキレルマ星王国側が停戦なり降伏なりを打診してくるものと考えていたのだが、彼等はなにを思ったのか、自国内の残存勢力をすべて首都惑星であるネキレルマに集中させたそうだ。
そのため首都以外の有人惑星は丸裸になり、イコライ伯爵領になった惑星テウラ同様に放置されたという。
その放置された惑星の調査に向かった偵察部隊からの情報によると、惑星防衛のための艦隊も要塞コロニーもなく、惑星上の警備もなく、食糧や燃料の備蓄もなくなっていたそうだ。
そして住民は全員に生気がなく、すべてを諦めたような表情をしていたという。
その報告を聞いた公爵閣下曰く『私が幼い頃に見た、祖父や父が統治していたころの帝国民は、皆、そんな感じだったよ』ということだそうだ。
この現状から考えるに、開戦時、もしくはそれ以上前から準備をしていたのではないかと推測されている。
ネオット宙域での戦闘が終了してから3日。
僕達は首都惑星ネキレルマに向かっていた。
もちろん首都への直通ゲートがありはするけれど、罠がある可能性があるので使えないため、まわり道をしている。
その間に、皇帝陛下は、ネキレルマ政府に放置されたそれらの惑星の実効支配の証拠として、彼らへの様々な支援を決定した。
甘いとの声もあったが、支援と同時に潜伏している敵勢力の捜索も同時に行われることになったために、即座に実行された。
同時に首都惑星を包囲しての戦闘が提唱されたが、用意周到な引きこもりを怪しんで慎重な行動を取る軍部と、ネキレルマ侵略後の領地獲得を考えた貴族達とで意見が対立した。
そしてその結論がでないうちに、一部の貴族達が先走り、首都惑星ネキレルマに攻めこんでいった。
すると、真っ白い光の帯が首都惑星の衛星軌道上から発射された。
その光は貴族達の艦隊を一瞬で消滅させ、勢いそのままに、自国領地であった惑星イトタキアに直撃し、その惑星に残された住人と、支援ついでに惑星内を調査にきていた偵察部隊ごと消滅させた。
この事実により、楽勝ムードだったネキレルマ星王国との戦争は、敗北すら感じさせる緊張感漂うものに変わってしまった。
【サイド:ジャック・トライダル】
「ついてねえ……」
撃墜され、脱出装置で逃げてきた俺に対して近づいてきたのは、督戦隊の連中だった。
『我々は481督戦部隊のものだ。お前は『第156戦闘隊・別名:黄金の翼』所属のジャック・トライダル大尉だな。脱出装置の機体照合から判断した。言い逃れは出来ない』
「ああ。間違いない」
『お前を敵前逃亡の罪で撃墜する』
督戦隊の奴は、感情のこもってない口調で淡々と要件を突き付けてきた。
「脱出装置で脱出してきた人間を敵前逃亡か。あのお荷物のパパの差し金だな」
おそらくそれだけの命令で来たわけではないだろうが、目的の一つなのは間違いないだろう。
もはやどうにもならないのだからと諦めていると、相手がわけのわからない質問をしてきた。
『お前、今、宇宙服を着てヘルメットを被っているか?』
「ああ。それがどうかしたか?」
『そうか。だったら宇宙遊泳を楽しむんだな』
普通に考えれば、死体になって漂えという意味だが、その言葉になぜか違和感を感じた。
『10・9・8・7』
そしてカウントダウンを始めた事で確信に変わり、俺は脱出装置のハッチを開いた。
『6・5・4・3』
シートから立ち上がり、宇宙服についた小型ブースターを全開にして脱出装置から離れる。
『2・1・0!発射!』
カウントダウン終了と同時に督戦隊の機体からビームが放たれ、脱出装置に着弾する。
俺は爆風に煽られ、かなり吹き飛ばされた。
ふきとばされながら、俺はこの状況について考えていた。
督戦隊の連中が始末をする時にカウントダウンなどするわけがない。
今のように逃げられてしまうからだ。
だがそれをやったということは、こちらを逃がすつもりだったということだ。
だがその理由がわからない。
そんなことを考えながら、このまま永遠に宇宙をさまようのかと思っていたが、不意に身体がある方向にひきよせられた。
その正体は人間サイズ用のトラクタービームで、それを照射していたのはステルス加工をした真っ黒な輸送船だった。
俺の身体が輸送船に近づくと、船体後部のハッチが開き、俺を収容するべく待ち構えた。
それはまるで、鯨に飲み込まれてしまうようだった。
そうして鯨に飲み込まれた俺を待っていたのは、宇宙服を着た人間だった。
『ようこそ『キャッチホエール』へ。俺達は少なくともあんたの敵じゃないから、攻撃とか船内の制圧とかはやめてくれよ』
遮光式ヘルメットのせいで顔はわからないが、やけにお調子者の雰囲気がする。
しかしそんなことはどうでもいい、
「この船はいったいなんなんだ?それとあの督戦隊とはどういう関係だ?」
一番気になる事をストレートに尋ねた。
『あんたに攻撃した督戦隊は我々の仲間で、この船はくそったれなネキレルマ星王国からの脱出艇だ』
てっきり「今はまだ言えない」とか「いずれわかる」などと、はぐらかしたりもったいぶったりするかと思っていたが、そんなこともなくあっさりと答えてくれた。
『まあ。あんたがどうしてもネキレルマ星王国に居たいっていうなら、ちゃんと帰してやるから、少しだけ大人しくしていてくれ』
こいつの言うことがどれだけ信用できるかはわからないが、せっかく拾った命だ。
もう少しあがいてみることにしよう。
★ ★ ★
取り敢えず梟さんには生存してもらいました。
あとのメンバーは不明。
3巻原稿の修正とおまけの執筆
他作品の書籍化作業
家と仕事の事情がかさなり、
ウェブでの更新は難しいかもしれません
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします