モブNo.12:「お願いです!船を貸してください!」
8時間の警備兼デブリ除去の補助の仕事が終了し、きちんと交代してから管理用コロニーに戻ってきた。
戻ってまずすることは、船につけたポリマーを剥がすことだ。
このポリマーに吸着した極小デブリをはじめ、資材として再利用できるものは分解したり溶かしたりするらしい。
それを剥がし終わり、燃料を満タンにして船体を軽くチェックをしてからようやく休憩だ。
そしてコロニー内にあるカプセルホテル式の宿泊施設に向かう。
船でも寝られなくはないけど、せっかく用意してくれているのだから利用することにしようと思う。
ありがたいことに入浴施設もあるらしいので、まずは部屋を確保し、荷物をいれて鍵をかけてから入浴施設に向かった。
入浴施設でさっぱりしたあと、食事をするために食堂に向かったのだが、メニューも豊富で味もなかなかだった。
そして食事のあと、談話室的なところでテレビをぼんやりとみていると不意に大声が響いてきた。
「ふざけんな!これのどこが傭兵の仕事なんだよ!傭兵ってのは海賊ぶっ殺したり、戦場で暴れまわるもんだろうが!」
「仕方ないじゃない。戦場での仕事はないし、依頼があった海賊退治は私たちの階級じゃ受けられなかったんだから」
多分傭兵になったばかり、しかも期待の新人ってやつだろう。
しかもパートナーに可愛い女の子がいる、間違いなく向こう側の人だ。
僕の所属する惑星イッツ支部では見かけた事がないので、僕とは違う傭兵ギルドからきた連中なのだろうが、ブリーフィングの時に見かけたから同じシフトだったのだろう。
ともかく関り合いになりたくないので、早めに部屋に戻ることにした。
戸締まりと目隠しをして目覚まし用のアラームをセットしてから、持ってきたラノベを読んでいると、馴れない事への疲れもあったのかいつのまにか寝てしまった。
翌朝。
というか交代の3時間ほど前に目が覚め、朝食?を食べ終わり、駐艇場で船の点検をしていると、
「お願いします!」
という声が響いてきた。
どうやらなにかを頼み込んでいるらしいが、断られているらしい。
「だめだめ!」とか「ふざけんな!」とかの荒々しい返答をされている。
そのうちその声がこっちに近付いてきた。
お願いをして回っていたのは、あの談話室的なところで大声をだしていた新人の片割れの女の子だった。
彼女はこっちに近付いてくると、
「あの!すみません!」
と、必死な様子で声をかけてきた。
「なっ、なに?」
「船を貸してもらえませんか?」
「はあ?」
何を言ってるんだろうこの子は?
この仕事は船の持ち込みが必須。
つーか、最初のシフトの時はちゃんと船で参加していたはずだ。
「いや、船貸せって…。君、最初のシフトのときちゃんと船があったよね?」
「フィディクが…一緒にきたもう1人が、「海賊ぶっ殺してくるからあとよろしく」って船に乗って行っちゃったんです…」
あーなるほどね。
それ契約違反だね、思いっきり。
契約書に書いてあったよね。
緊急時には待機休憩時でも対処・出撃すること。
上記理由により待機休憩時のコロニー外への外出不可って。
「止めなかったの?」
「私が寝ている間に書き置きしてでていっちゃって…」
女の子は悲痛な表情を浮かべ、
「お願いです!船を貸してください!」
と、頭を下げてくるが、こっちだって仕事に必要なのだから貸すわけにはいかない。
「無理だよ。傭兵が自分の船を貸すってよっぽどだし、なにより俺は君達と同じシフトだからさらに無理。せめてシフト違いの人にお願いしなよ」
僕がそういうと、女の子はガックリとしながらもシフト違いの人達がいるであろう休憩室?に向かって歩いていった。
そうしてまた次のシフトが始まった。
呼吸の合うデブリ屋のおっちゃんと息のあった作業を繰り返していると、だんだんとデブリの数が減ってきたのがわかった。
ちなみにあの女の子は、船を借りる事ができず、ゲート管理の人と自分が所属してる傭兵ギルドの人にこっぴどく叱られたらしい。
相棒があんなのであるにもかかわらず、この依頼を受けたのは金銭面で何かあったからなのかもしれない。
早いうちに解散した方がいいと思うよ…。
そうこうしてるうちにシフト終了時間が近付いてきた。
その時オープン回線から通信が入った。
いままで一度もなかったので軽く焦ってしまった。
海賊の通信だったりすることもあるので、デブリ屋のおっちゃんには作業を中断してもらった。
「こちらはサーダル宙域ゲートの換装作業の警備のものです。そちらの船名・作業エリアへの接近理由を述べてください」
『こちらはプラネットレースのチーム『クリスタルウィード』のコンテナ船『シード1』だ。ゲートの使用許可と支払いをしたかったのだが…換装作業中とは聞いてないんですが?!』
モニターにでてきたのは、中間管理職っぽいおじさんだった。
「けっこう前から通知は出てたはずですよ?」
『いろいろばたばたしてたからなぁ…情報確認してなかったわー』
中間管理職のおじさんは、疲れた顔で深いため息をついた。
『早いとこ惑星ダペトンに行きたいのに…』
ちなみに惑星ダペトンは、今換装中のゲートの行き先だ。
ゲートは基本一方通行で、惑星イッツからサーダル宙域までは直通があったけど帰りは3ヶ所を経由しないといけない。
往復切符はもちろんそれに対応している。
しかしプラネットレースのチーム『クリスタルウィード』か。
出来ればこのプラネットレースチームにはあまり関り合いたくはない。
僕がリオル・バーンネクストと一緒に参加させられた事件で生き残ったもう1人が、このチームにパイロットとして所属しているからだ。
名前はスクーナ・ノスワイル。
藍色の髪で、学生時代はポニーテールだったが、卒業してからはショートに変えている。
身長180㎝でスタイルも抜群で、学生時代から男より女にモテまくっているイケメン美女というやつだ。
パイロットには不利といわれる高身長をハンデにもせず、数々の賞レースを総嘗めにしているプラネットレース界の王子様なんて呼ばれている。
彼女とバーンネクストは、事件直後から一躍時の人であり、イケメンコンビとしてマスコミに引っ張りだこだったが、僕は今までと変わらない日常を過ごしていた。
彼女と話したのは例の事件での戦闘終了後のわずかな時間。
そのあとは、クラスも別々だったし接点はなかった。
なのでバーンネクストと違って会ったらムカつくということはないが、有名人になった彼女にはなんとなく近寄りがたい。
それ以上に、男女共に人気のあるトップレーサーの彼女に、僕のような人間が話しかけたりしたら、本人はともかく周囲が絶対に許さないだろう。
ともかく彼らが作業現場に近付いて事故を起こしたり巻き込まれたりするわけにはいかないので、
「とりあえず管理コロニーに連絡しますんで、どうするかはそっちに行ってから決めてください。作業区域に近付かれると危ないので」
管理コロニーに連絡して引き取ってもらうことにした。
そうして連絡をしたところ、管理コロニーの人達は有名なレースチームの登場にずいぶん驚いたが、こういうことは通常のメンテナンスの際にもよくあることらしい。
まあメンテナンスは2時間内で終わるらしいが、換装作業はあと16時間以上はかかる。
これより早い回り道があれば、そっちを使って移動してほしいものだ。
生き残り3人目の登場近し…
契約違反をした少年傭兵の行動は、俺様系主人公ならやりそうなことと思っています
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします




