モブNo.137 :「もし今度同じ状態になったら、絶対に辞退して私を呼びなさい! いいわね!」
ソレル宙域での戦闘に勝利してから25時間後。
途中進路上にあった有人惑星のラドリスコに停泊して、燃料・弾薬の補給、無人砲撃艦やミサイル艦の消耗分の補充と追加だけすませた後、次の戦闘宙域であるネオット宙域まであと1時間という時に、テノン・カラレマ嬢が、自分の船のチェックをしている僕に話しかけてきた。
「ちょっとあんた!」
彼女が話しかけてきたというだけでも面倒臭いのに、話しかけてきたテンションが怒りぎみなのがさらに面倒臭い気がした。
出来れば無視したいところだけど、そんなことをしたら余計に面倒臭い事になるので、仕方無く返事をする。
「なにか御用ですか?」
「どうしてあんたが『羽兜』や『人喰薔薇』や『白騎士』やシオラちゃんと同じテーブルについてるのよ!?」
やっぱり面倒臭い案件だった。
しかもその出来事があってから24時間以上経過しているから、今さら感が強いんだけど……。
ちなみに『白騎士』というのはアーサー君の事で、彼の容姿がいいのはもちろん、行動・発言が非常に礼儀正しくて騎士っぽいというのと、彼の船が白い事からそう呼ばれるようになったらしい。
どちらかといえば『白馬の王子様』の方が的確な気がしたけど、発言はしないでおいた。
「その時のテーブルに知り合いがいましてね。その人に呼ばれたんでいってみたら、たまたま一緒になっただけだよ」
「だとしても辞退しなさいよ! あんたみたいなよわっちいキモオタが、あんな一流の人達と一緒のテーブルにいて良いわけないでしょう!」
嘘偽りない真実を話してみたけど、どうやら信じてくれたらしい。
「もし今度同じ状態になったら、絶対に辞退して私を呼びなさい! いいわね!」
そして勝手に命令をして、こちらの返答を待つことなく彼女は立ち去っていった。
戦闘開始間近なのに、いったいどういうつもりなのだろうか?
いや、戦闘開始間近だから、ストレスの元になりそうな案件は解消しておこうということなのだろう。
こっちにとっては迷惑でしかないけど。
そんなことがあってから1時間後、ついにネオット宙域に到着した。
ここには、僕が今傘下に入っている第4艦隊だけではなく、第5・第6・第7の4艦隊が揃っていた。
ちなみに親衛隊の人達はいつの間にか姿を消していた。
ああいう人達に対して余計な詮索をすると、大抵ろくなことにならないから、気にしないのが一番だ。
軍と傭兵の航宙戦力の全てが展開され、補給部隊による追加の無人砲撃艦やミサイル艦の配置も終了すると、以前の反乱軍鎮圧の時よりは少ないけど、やはり圧倒されるものがある。
そして展開が終了して戦闘準備が整ったところで、通信用画面に第5艦隊司令官のルナリィス・ブルッドウェル少将閣下が姿を現した。
『兵士諸君! 私は今回の戦闘の総指揮官を拝命したルナリィス・ブルッドウェルだ! 我々は帝国の平和のために目の前に現れるネキレルマ星王国軍を食い止め、撃退せねばならない! 勝利の推移は諸君等の働きにかかっている! 各傘下の指揮官の指示にしたがって戦ってくれ! 諸君らの働きに期待する! 以上だ!』
その少将閣下の激励が終ると同時に、ネキレルマ星王国軍の姿も確認できた。
しかも、こちらの艦隊の真正面に展開されていた。
この状態で戦闘を始めれば、まさに正面衝突するとことになり、乱戦にでもなれば危険度はより上がるだろう。
そして、いつ戦闘が始まってもおかしくない状況で、なぜかネキレルマ星王国側から全員にオープン回線で話しかけてきた。
『私は偉大なるネキレルマ星王国貴族ナルムカス・ハンデルク・ヘンドリックス。侯爵にしてネキレルマ星王国軍第113連艦隊司令官である!』
その画面に現れたのは、ハゲ頭にカイゼル髭を蓄えた中年男性だった。
『銀河大帝国の貴族諸君! 君たちは今の帝国に納得しているのかね? 先代・今代の皇帝は君達貴族の権利を大幅に削り取り、あろうことか平民に有利な政策をとっている!』
そしていきなり、身振り手振りを交えての、貴族に向けての演説を開始した。
『このままでは、貴族という優位性は失われ、平民と同じになってしまう! しかし我が国であるならば、永にその権利が失われることはない!』
内容は帝国貴族の現状と、それを産み出した先代・今代の皇帝への不満、将来の不安を煽るものだった。
確かに貴族の特権のいくつかは、先代陛下の御代に廃止されている。
代表的なものは、平民への違法行為の容認や、階級下位の者への献上要請(恐喝)の権利などが挙げられる。
『事実! 今現在我が国の部隊には、帝国に見切りをつけた貴族たちが続々と帰順を願い出ている! 今からでも遅くはない! 正当にして神聖な帝国貴族の諸君! 愚かな小娘を皇帝の座から引きずり下ろし、貴族の誇りを取り戻そうではないか!』
これはつまり、今この場にいる貴族たちに寝返れと言ってるんだろう。
先だっての反乱で、かなりの反皇帝派の貴族達が大量に取り潰しになったけど、まだまだ残っている反皇帝派の貴族は多い。
この戦場にどれだけ居るかは分からないけどね。
『そして帝国の生活に見切りを付けている平民の者共! 今ここで我らが王国に与すれば、貴族としての地位を約束しよう!』
更には平民の勧誘活動も始めた。
多分その約束は守られないと思うけどね。
しかし戦争の直前に勧誘活動とは、はっきり言って非常識極まりないのだけど、もしかすると戦力に不安があったりするのかな?
まあ今この瞬間に裏切ったら普通に撃たれるから動きはないだろうけど。
戦闘中は警戒しておいたほうが良さそうだ。
しかし向こうの司令官はそうではなかったらしく、
『おのれっ! 侯爵たる私がせっかく手を差し伸べてやったというのにっ! もうよいっ! 殲滅しろっ!』
自分に味方するものが一切居なかったことにかなり頭に来たらしい。
こうして敵司令官の癇癪から、ネオット宙域の戦いは幕をあけた。
☆ ☆ ☆
【サイド:親衛隊(第三者視点)】
補給部隊に所属する大型輸送艦『ウェーブウィンド』の船内で、親衛隊員達が画面の向こうにいる親衛隊長であるキーレクト・エルンディバーに報告を行っていた。
「……では、以上で報告を終了いたします」
『うむ。皆、御苦労だった。あとは同胞達が戦に勝利するのを祈るだけだな』
整列し画面の親衛隊長に視線を向ける親衛隊員たちの背後には、ネキレルマ星王国に内通していた者たちを拘束している貨物シャトルがあった。
「それにしても、かなりの数の裏切り者が紛れ込んでいたのは驚きました」
「正規部隊にはそれなりの数が紛れ込んでいましたね。第5艦隊には1人もいませんでしたが」
『あそこは厳しいからな。そんな暇はないのだろうよ』
「傭兵部隊はほぼゼロ。どうやら事前に引き抜きのような事をして、既に向こうの部隊に所属しているようです」
隊員達は、上司であるエルンディバーも交えながら軽口をかわす。
すると、いかつい感じの男性隊員が、プリシラ・ハイリアットに視線を向けながらため息をついた。
「私は調査より、ハイリアット大尉の悪癖のほうが大変でしたがね」
『またやらかしたのか?』
「だって。有能な人材はほしいじゃないですか!」
「だからといって修羅場をほいほい作らないで下さい!」
彼女の人材スカウトは全員の知るところであり、全員が苦労をしているようだった。
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何とか搾り出し…
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