モブNo.136:「では、今回の勝利を祝し、今後の戦(いくさ)での勝利を祈願して、乾杯!」
女性3人の口論を見かけてから約6時間。
僕たちはネキレルマ星王国との戦闘が待ち受けるソルレ宙域に到着した。
戦場そのものはまだ少し先だが、艦隊全体から緊張が伝わってくる。
船を磨いたり、チェックしたりと、必要最低限の音と声だけが響き渡っている。
そこに第4艦隊の司令官、ロイネス・ヴェスコーレス中将の声が全ての船の通信用画面から流れてきた。
『全員聞いてちょうだい。後50分ほどで戦闘宙域に突入、すぐに戦闘を開始することになるわ。作戦、というほどもないけど、まずは敵部隊の中央に集中砲火して敵艦隊の分断を狙うわ。分断に成功したら敵右翼側を艦隊で包囲殲滅を。敵左翼側を傭兵部隊で抑制・撹乱して時間稼ぎをしてもらうわ。敗走する連中は決して深追いはしないこと。せっかくいなくなってくれるんだから、そのまま無視していいわ。右翼側に余裕ができたら左翼側にも兵力を回すから、それまではなんとしても頑張ってちょうだい』
たしかに作戦というほどでもないけど、なんにも考えずに突撃を繰り返すなんてのよりははるかにましだ。
そこに航空母艦『ケアレ・スミス』からも指示が下った。
『全傭兵部隊は発艦して前方に展開して待機せよ。繰り返す、全傭兵部隊は発艦して前方に展開して待機せよ』
その指示に船全体が慌ただしくなる。
待ってましたとばかりに即座に発艦する者、再度チェックを始める者など、おそらく他の航空母艦でも同じことになっているだろう。
僕はその最中、パッチワーク号でラノベを読んでいる。
全員が発艦するまでは10分はかかるだろうから、のんびりしたものだ。
そうして最後の人がでた後に、時間を空けずに発艦すれば問題はないしね。
傭兵部隊の展開が終了すると、ヴェスコーレス中将からの号令がかかった。
『正規軍部隊全艦に告ぐ!目標、敵艦隊中央部!真っ二つになるまで撃ちまくってやりなさい!』
その号令と同時に、無人の砲撃艦とミサイル艦、そして第4艦隊全ての艦が、敵艦隊中央に向かって一斉射撃を開始した。
それは、ビームとミサイルの『雨』というよりは、火事の火元に向けて発射される『放水』のようだった。
そしてその攻撃により、敵が左右に退避したのを確認すると、
『今よ!艦隊は敵右翼側に!傭兵部隊は敵左翼側に展開!ぬかるんじゃないわよ!』
遂に僕たち傭兵の戦闘が開始された。
艦隊の方は、敵右翼側を左翼側に行かせないように広く包み込むように展開していく。
一方傭兵部隊は、分断された敵艦隊に突撃と後退と撹乱を繰り返し、少しずつ数を減らしていった。
もちろん僕は一隻の戦艦に張り付き、周囲を周回しながら戦艦の兵装を破壊していく戦法をとった。
僕以外もかなりの船がこの戦法を実践していて、結構な数の艦が足止め状態になっていた。
それ以外にも、敵戦闘艇と格闘戦を繰り広げる者。無人砲撃艦やミサイル艦を専門に狙う者。敵右翼側に向かおうとするものを止める者などがいて、それぞれが戦場を生き残るべく奮闘していた。
それから約1時間ほど経過したころ、ぼつぼつと逃げ出す船がでてきた。
小型艇はもちろん、駆逐艦や巡洋艦、果ては様々な艦の脱出艇までもが射出され、後退を始めた。
これはあくまでも僕の推測だけど、軍への入隊が志願制である帝国に対して、ネキレルマ星王国は徴兵制だ。
そのため何らかの不満がたまって、船内で反乱でも起こったか。もしくは艦の責任者が出来る人で、勝てないと判断しての撤退をした。艦長以下の幹部が部下を放り出して早々に逃げ出した。というところだろうか。
ともかくこのまま引いてくれるならありがたいので、ほとんどの傭兵が無視をしているなか、一部の連中は嬉々として追撃に向かおうとした。
その中にはテノン・カラレマ嬢の機体も見てとれた。
しかしその直前に、
『敵右翼側は殲滅・敗走したわ!艦隊は右旋回して敵左翼側に攻撃開始!逃げる船は放置しなさい!深追いは駄目よ!』
敵右翼側を撃退した正規艦隊が、敵左翼側に攻撃を開始した。
流石にこれを潜り抜けながらの追撃は危険なため、追撃は諦めたらしい。
ともかくこれで、ソレル宙域での戦闘は帝国側の勝利に終わりそうだった。
ソレル宙域での戦闘に勝利すると、宙域維持のための駐留部隊が到着するのを待ってから、次の戦闘宙域であるネオット宙域に向かっていた。
ネオット宙域までは26時間ほどかかるらしく、その間はいい休息の時間になっていた。
僕は帰還後はすぐに船のチェックと燃料と弾薬の補充をし、戦果報告の情報をチェックをしてからすぐに提出した。
それから航空母艦の風呂に入ってから食事と行きたかったけど、浴室はまだ準備が出来ていなかったので、パッチワーク号のシャワーを浴びてから航空母艦の食堂に向かった。
そこでは傭兵達が賑やかに食事をしていた。
次の戦場まで時間があるために、少量だがアルコール(ビール350ml缶1本)が振る舞われていたからだ。
当然僕にも支給されたが、飲む気はないのでどうしようと思っていると、
「よう。こっちだこっち」
と、僕を呼ぶ声があった。
いってみると、そのテーブルには何故か知り合いが勢揃いしていた。
モリーゼとバーナードのおっさん。レビン君にダンさん。アーサー君とセイラ嬢はまあいい。
問題は、ランベルト君とロスヴァイゼさんの『羽兜』コンビと、シオラ・ディロパーズ嬢。そしてカティ・アルプテト嬢が居ることだ。
なので思わず回れ右をしようとしたところ、声の主であるモリーゼ・ロトルアに肩を思い切りつかまれた。
「どこ行くんだよ。一緒に祝盃をあげようぜ」
こう言われては断るのもなんとなく無粋に感じてしまうので、仕方なく空いている席に座った。
そうしてまずは乾杯をとなったが、僕・アーサー君・セイラ嬢・レビン君・ランベルト君・ディロパーズ嬢の6人は、アーサー君が用意してくれたジュースにし、その飲まなかったビールは、ロスヴァイゼさん・モリーゼ・バーナードのおっさん・ダンさん・アルプテト嬢の5人が嬉しそうに確保していった。
そうして飲み物がいきわたると、
「では、今回の勝利を祝し、今後の戦での勝利を祈願して、乾杯!」
アルプテト嬢の音頭で乾杯とあいなった。
まあまだ戦争は終わっていないから、はしゃいだりする事は出来ないけどね。
早くも3巻の準備が始まり、リアルの仕事がたてこみ、家人が怪我をしての看病と病院の送り迎え等で時間が取れませんでした…。
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