モブNo.135:『はぁい。傭兵の皆さん初めまして。私がこの第4艦隊の司令官、ロイネス・ヴェスコーレス中将よ』
朝起きると、とんでもないニュースが飛び込んできた。
ネキレルマ星王国が帝国に対して宣戦布告をしてきたというものだ。
と、なれば、当然僕にも緊急招集が掛かる。
しかも午前11時までにギルドに出頭というタイムリミット付き。
幸い今は午前9時15分。
支度をして、メールでゴンザレスに情報をお願いしておこう。
公共交通サービスは麻痺する可能性があるので、住人なら誰でも借りられる三輪のカートスクーターに乗る。
管理人さんに事情を話しておけば、翌日にはギルドに回収にいってくれるはずだ。
そうやってなんとか傭兵ギルドに到着すると、既にかなりのピリピリ状態で、すぐにホールに向かうように指示された。
ホールでは以前の海賊退治や反乱軍制圧の時のように、軍人が何人かステージ脇に控えていた。
流石対処が早いなあと感心しているうちに、予定時刻の午前11時になると軍人がステージにあがり、
『諸君!ただいまより皇帝陛下からのお言葉がある!ありがたく拝聴するように!』
と宣言があったあと、皇帝陛下の立体映像が投影された。
『将兵、傭兵の諸君。よく集まってくれた。
すでに聞いていると思うが、本日午前8時15分。ネキレルマ星王国が我が国に宣戦布告をしてきた。
かの国はこれまでにも様々な手段で帝国の牙城を崩しにきた!
しかし!我々はその全てをはね除けてきた!
ならば今回も、華麗にはね除けてやろうではないか!
ネキレルマ星王国では、未だに過去の我が国のような理不尽がまかり通っているという!
かの国の侵入を許せば、蹂躙されるのは我々の家族だ!
皆と皆の家族を守るために!私に力を貸して欲しい!』
相変わらずの美声で、傭兵や将兵相手に宣言を行った。
その後は以前と同様に、様々な部隊の配下として割り振られることになる。
今回僕たちイッツ支部の傭兵が所属する事になったのは第4艦隊だ。
今回は航空母艦が何隻か用意されており、作戦宙域まで連れていってくれるらしい。
つまり、複数の箇所に出撃させられると考えられるわけだ。
その航空母艦の一つ、『ケアレ・スミス』の船内にあるすべての通信用画面に、1人の人物が映し出された。
『はぁい。傭兵の皆さん初めまして。私がこの第4艦隊の司令官、ロイネス・ヴェスコーレス中将よ』
画面に現れたのは、身長約190cm、筋肉質で角刈り、顔はイケメンの部類にはいる20代後半から30代前半ぐらいの男性だった。
が、化粧をし、真っ赤な口紅を引き、しなを作っているのを見て、一瞬固まったのは僕だけじゃないと思いたい。
この時代にああいうオネエ的な人は非常に少ない。
なぜならトランスジェンダー(トランスとも略され、ジェンダー・アイデンティティ(性自認・性同一性)が出生時に割り当てられた性別と一致しない人のこと)であると認知された場合、その性別にあった身体に転換できるからだ。
『貴方達は今回ソルレ宙域とネオット宙域で戦闘をしてもらうわ。指揮権はもちろん私。敵の駐留艦隊がいるはずだからこれを叩くわ。確実に居ると断言できないのが残念だけど、居ないなら居ないで、そのまま別の部隊の援護にいくことになるから、その辺りは納得してちょうだいね』
見た目と口調はともかく、嫌味な人物でないのはありがたいね。
『それともう一つ。勝手な行動は許さないわ。正規兵でも傭兵でも私の命令に従わずに勝手な行動をするなら……私がたっぷりとお仕置きしてあげる。まあ、ご褒美になるかもしれないけどね♪』
ヴェスコーレス中将は画面の向こうからウィンクとキッスを投げてきた。
実際はどうなのかわからないけど、そのお仕置きは絶対に受けたくないなぁ……。
『ああそれから、お客様がいらっしゃってるから粗相のないようにね』
そして最後に不思議かつ嫌な予感のする連絡事項をしてから、ヴェスコーレス中将は画面から姿を消した。
ヴェスコーレス中将の激励?を受け、僕達が仮所属している第4艦隊はソルレ宙域に向かっていた。
この航空母艦『ケアレ・スミス』には、イッツ支部の傭兵しか乗っていない。
少しでも仲間意識のある連中を一緒にしておいて、戦意高揚させるため、ということらしい。
なので、別の航空母艦には別の支部の連中だけが乗っているわけだ。
その格納庫の中にある自分の船で、ゴンザレスからの情報を受け取っていた。
といっても、なかなか情報が取りづらかったらしく、前線の大体の配置図とある程度の兵数くらいだった。
それを見ながら、味方や敵はどんな風に動くのかな。なんて考えていると、不意に船外が騒がしくなった。
何だろうと外を見てみると、3人の女性が口論をしていて、その回りに人だかりができていた。
その口論をしている女性達は誰かというと、
1人はランベルト・リアグラズ君のパートナーで、意思のある古代兵器の電子戦機が本体の金髪美女のロスヴァイゼさん。
1人はアーサー・リンガード君の相棒にして婚約者のセイラ・サイニッダ嬢。
そして最後の1人は、帝国軍親衛隊副隊長をつとめるプロパガンダクイーン、プリシラ・ハイリアット大尉だった。
なんで親衛隊副長を勤める彼女がこんなところにいるんだろう?
と、一瞬不思議に思ったけど、良く考えればさっきヴェスコーレス中将がお客様がいるって言っていたね。
人だかりのなかに、親衛隊の制服を着ている連中が何人もいるし、いったい何しに来たんだろうか。
関わり合いになりたくないのは当然の事だけど、口論の内容は気になるので、ドアを開けてこっそり覗いてみる。
「ですから、アーサー・リンガードさんとランベルト・リアグラズさんを我が親衛隊の一員としてお誘いしたくお声がけしただけです」
「で・す・か・ら!アーサー様は以前にもお断りしましたよね?!性懲りもなくまた勧誘とは、いい性格をしてらっしゃいますこと!」
「私は貴女が気に入らないし、ランベルトは貴女が苦手なの。だから勧誘しても無駄だから関わらないでくれる?」
どうやらハイリアット大尉が、今回の任務のついでに、2人をスカウトするべく声を掛け、パートナーの女性2人に阻まれたといったところだろう。
部下らしい親衛隊の人が諦めの表情をしているので、どうやらよくある事らしい。
もしかすると、カティ・アルプテトさんや王階級の人達にも声をかけたりしているのかもしれない。
ちなみにアーサー君とランベルト君は、何とか止めようとしているが役にはたっていないようだ。
「私は同時に貴女達も親衛隊にお誘いしたいのです。それならパートナーと離れ離れにはなりませんよ」
「たしかにそれならアーサー様と一緒にはいられるけど……」
「私は嫌よ」
セイラ嬢は揺らいでるけど、流石にロスヴァイゼさんは揺るぎないなあ。
これ以降は口論の内容が予測できるし、顔を見せていてからまれても嫌だから、船のドアをそっと閉じて、ラノベを手に取った。
色々あって遅くなりました。
私の好きなキャラクターパターンの1人、
『頼れる?マッチョオネエ』です。
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