モブNo.121:『おい貴様!演習は終了だ!何を勝手な事をしている!』
『それではこれにて演習は終了です。各自所属部隊に帰還するように。傭兵の皆様は航空母艦の方にお戻り下さい』
フロス中佐の通信があり、ようやく面倒な演習が終了したわけだけど、多分このまま解散にはならないだろう。
名目は慰労会か反省会か。少なくとも飲みの席があり、明日の朝までは拘束されることは間違いない。
そうなったら、頭にだけ顔をだして、直ぐ様船に戻って寝てしまおう。
僕が撃墜した人に絡まれるのも嫌だし、ダッシド・デノーガーに絡まれるのも面倒臭い。
そんな事を考えながら、傭兵用の航空母艦に戻ろうとした時、警告が鳴った。
僕が本能的に舵を切ったところ、さっきまでいた空間をビームが走っていった。
しかも訓練用ビーム兵器のフェイクザッパーではなく、本物のビーム兵器であるブラスターキャノンのものだった。
ビームがきた方向には軍の戦闘艇があり、すぐに次弾を放ってきた。
明らかに僕を狙ってきている。
訓練用のバリアでは本物のビームを防げないし、訓練用のビーム兵器では相手に攻撃したところでダメージすら与えられないだろう。
おまけに演習でかなり燃料が減っているから、そんなに長時間は逃げ回れないし、かといって航空母艦に逃げるのは悪手なんだよなあ。
『おい貴様!演習は終了だ!何を勝手な事をしている!』
そうやって逃げ回っていると、将軍閣下が僕に攻撃を仕掛けてくる人物に対して、オープン回線で怒鳴り付けた。
すると僕を攻撃している人は、
『エリートである自分が敗北したままでは、第1艦隊の名誉に傷が残ります!自分にその汚名を雪がせてください!』
と、将軍閣下の言葉にも聞く耳をもたず、独自の解釈をぶちまけながらも、こちらを追い回してくる。
『エドワルド・ナーディルス伍長!今すぐ戦闘を停止しろ!』
彼の直属の上官らしい人物も制止を呼び掛けるけど、将軍閣下の言葉で止まらない人が、直属の上官の言葉で止まるわけがないよね。
しかも向こうは僕と違い、燃料も満タンにしているだろうから、長時間の戦闘も可能だ。
第1艦隊から戦闘艇が出撃してきたけど、距離があるからちょっと時間がかかるかもしれない。
幸い陽子魚雷風の接触式閃光ミサイルはまだ残っているから、これを使って時間稼ぎは出来るかもしれない。
相手、エドワルド・ナーディルス伍長殿は、今僕を撃墜しようと必死だ。
でも『撃墜騙し』を見ているだろうから、一筋縄では無理だろう。
でもだからこそ引っ掛かるかもしれないので、仕掛けてみる価値はある。
いつものとおり、スロットル全開で飛ばしながら相手を自分の真後ろに誘導する。
ここまではいつもの『撃墜騙し』の手順。
ここからはちょっと手順が変わる。
相手が真後ろにきたら機首を上げる前に、船体を180度回転させる。
つまり、相手から見て逆さまになったように見せるわけだ。
そして回転が終了した瞬間に、機体下部にある姿勢制御用のスラスターを一瞬だけ全力噴射・メインブースター停止を、タイミングを合わせて同時に行う、普段の『撃墜騙し』を発動する。
すると、機体は回転しながら相手の機体の下を潜る形になり、その胴体下部に陽子魚雷風の接触式閃光ミサイルを、通常の速度で発射した。
爆発はしなくても、物体が衝突するわけだからそれなりにダメージがあるだろうと考えていた。
ところが、エドワルド・ナーディルス伍長殿は『撃墜騙し』を見ていたのもあって、僕からの攻撃をかわすべく、すぐに反応して同じことをやってきた。
一度見ただけで同じことが出来るのは流石だね。
しかしその『撃墜騙し』の方向は、今回僕がやったのとは違う、本来の方向だった。
つまりどういう事かというと、僕が撃った陽子魚雷風の接触式閃光ミサイルが、『撃墜騙し』で回転中の敵機のメインノズルに吸い込まれていったのだ。
爆発しないとはいえ、推進剤は入っているし、閃光用の炸薬剤も入っている。
何よりも、それなりの質量の物体がかなりの勢いで衝突したのだから、被害がでないわけはないし、メインノズルは推進力を得るための機関であるからには、エンジンに繋がっているわけだ。
相手の船は激しい振動をし、ミサイルが当たった勢いのまま押されていき、暫くしてから、内部で燃料に引火でもしたのか、爆発してしまった。
パイロットが脱出する様子は、ミサイルが当たった直後に確認していたし、出動してきた第1艦隊の戦闘艇に回収されたから大丈夫だろう。
暴走したエドワルド・ナーディルス伍長殿をなんとか退け、傭兵用の航空母艦にもどると、ダッシド・デノーガーの一味以外の全員が帰還を喜んでくれた。
そしてそのまま自分の船で朝まで一休み。と、いきたかったのだけれど、ハルイトック宙域に常設してある軍用コロニーで慰労会をやるらしく、この航空母艦のまま向かうらしい。
一応、世話役のエイルード少尉に体調不良での欠席を訴えたが、コロニーには医療施設も良いのがあるから、下船して診察をうけることを薦められた。
因みにエイルード少尉とトーデル少尉からは、部下であり後輩がとんでもない事をして申し訳ないと謝られてしまった。
そのお詫びも兼ねて、出席していただきたいと言われてしまった。
こうして、僕みたいな人間にとっては苦痛でしかない慰労会兼反省会に出席することになった。
慰労会は、軍用コロニー内部のホテルっぽい建物内にある大きなホールでおこなわれる。
実際にこのホテルっぽい建物は、王族や高位貴族や軍の高官なんかが寝泊まりするためのものらしい。
「それでは!今回の演習、ちょっとしたトラブルはあったが、無事に終了したことと、協力してくれた傭兵達に、乾杯!」
壇上にあがった将軍閣下は、乾杯の挨拶が終わると同時に、手に持ったビールを一気に飲み干した。
食事の方は立食式だったので、取り皿にローストビーフとクラッカーを少しと、スパークリングワインを取って、ホールの端に避難した。
これを食べ終わったら、トイレに行く理由をつけて航空母艦に戻って、自分の船に帰る予定だ。
幸い、ダッシド・デノーガーがしてもいない自分の指揮のお陰で勝てたと言い張っていたり、ロスヴァイゼさんとセイラ嬢とシオラ嬢が男連中に囲まれ、アーサー君・ランベルト君・レビン君・ユーリィ君は女性達に囲まれていたり、軍人さん達も仲間内で騒いでいたりと、かなり賑やかなので僕一人くらい居なくなったところで問題ないだろうし、バレもしないだろう。
そうして無事に食事も終わって帰ろうとしていた時に、
「よう。楽しんでるか?」
将軍閣下に捕まってしまった。
「はい。十分楽しませてもらったのでそろそろおいとましようかと」
「そうかそうか。帰るのは構わんがその前にちょいと話がある」
どうやらこちらが早々に逃げ出そうとしているのはお見通しらしい。
すると、
「今回、部下が暴走してしまってすまない。俺の監督不行き届きだ。演習は終了している上に、いや終了してなくても選ばれてない人間が参戦するのは駄目なんだがな。演習装備の相手に対して実戦用の兵器で攻撃したんだ。軍法会議は間違いない。俺にもそれなりの処罰はくるだろう。今は旗艦の牢に拘束してある。本当に申し訳なかった」
と、深々と頭を下げてきた。
ああいった連中をあぶり出す為に、今回の演習をしたのだろうけど、あそこまでのは想定していなかったんだろうね。
「じゃあ今後、僕を軍隊に勧誘したり、強引に依頼を押し付けたりしないでくださいね」
なのでこれくらいは要求してかまわないだろう。
あまり無茶をいうと向こうも怒るだろうから、これくらいで十分だろう。
「わかった。俺や俺の部下にはお前さんを勧誘しないように厳命をしておく」
俺の部下にはってとこに抜け道を感じるけど、少しでも減るならありがたいことだ。
「そうだ。お前さんの父親の追突事故な。帰ったら解決しているかもしれんぞ?」
しかし次に放った将軍閣下の一言に、僕は眼を見開いた。
本編が終わったら今度はおまけと後書き……
そして後書きの方が悩む事実…
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