モブNo.114:「だったら自分達だけでやりやがれ!」
第三者サイド
作業員達が戦闘の素人であるのは、傭兵達には一目瞭然だが、起爆スイッチである汎用端末の通話待機画面を見ると、どうしても一瞬たじろいでしまう。
そこに、決起に参加してない作業員達がやって来た。
彼等は決起した連中を見て、驚愕と困惑と怒りの表情を浮かべていた。
「なにやってんだおまえら!そんな物騒なものごてごてと身に付けやがって!」
「俺たちはもう限界なんだ!貴族どもをぶち殺す!お前らだって貴族には嫌な目にあわされてるだろうがよ!」
「だからってこんなことをして、なにになるんだ?軍隊や警察に殺されるだけだぞ!」
「そんなことが恐ろしいものか!俺たちはこんな生活から1日でも早く抜け出したいんだ!」
決起したメンバー達は、同僚である作業員達の言葉にも耳を貸す様子はない。
むしろ、決起していない作業員のなかには、彼等の魂からの叫びに共感を覚えている者まで居るように見えた。
起爆スイッチを持った、決起した作業員のリーダーは、今のやり取りを聞いていた傭兵達に、
「だからお前らも協力しろ!同志になれ!そうして共に貴族どもをぶち殺すんだ!」
と、再度自分達の同志になるように促した。
「そりゃつまり、自分達が素人だから、傭兵の俺達に貴族を攻撃させて、自分達は高みの見物を洒落込むって事か?」
その呼び掛けに対し、先頭にいた傭兵が怪訝な表情を浮かべながら疑問をぶつける。
「俺たちも攻撃には参加する!他人任せにはしない!」
その疑問に対して、決起した作業員のリーダーは、自分達も攻撃に参加すると宣言するが、
「だったら自分達だけでやりやがれ!」
先頭にいた傭兵は中指を立てながら完全拒否の態度をとる。
他の傭兵達も同意見らしく、彼等を嘲笑うような表情を見せていた。
「それにだ。俺達傭兵をタダ働きさせようってのが一番気に入らねえ!参戦してほしけりゃ1人頭3千万クレジットを今すぐ払いな!そうすりゃしっかりと仕事をしてやるぜ?」
その言葉に同調した傭兵達は、決起した作業員達に向けて、ゲラゲラと笑い始めた。
もちろんだが、この報酬額は正規の料金ではなく、彼等の要求を突っぱねるために提示したものだ。
「そんな額を払えるわけないだろう!」
当然、決起した作業員達は激怒する。
ただでさえ苦しい生活をしている自分達に、そんな額が払えるわけわけがないだろうと。
「だったら交渉は終わりだな」
先頭にいた傭兵は、相手を笑うような仕草をしながらこっそりと腰の銃に手を伸ばしていた。
「金の亡者共が!」
そして決起した作業員のリーダーが起爆スイッチを押す意思を示したと同時に、先頭にいた傭兵がその汎用端末をリーダーの手ごと、光線銃で撃ち抜いた。
それを合図に他の傭兵達も、決起したメンバーの防具のない足や持っている武器を狙って、光線銃や熱線銃を叩きこみ、あっという間に制圧してしまった。
「素人が俺達に勝てるはず無いだろう。これ以上抵抗するなよ」
先頭にいた傭兵は、光線銃をリーダーに向け、降伏を促す。
手を撃ち抜かれたリーダーは、悔しそうに項垂れ、自分の汎用端末をチラリと見つめて小さく呟いた
「なんで爆発しなかったんだ……」
第三者サイド:終了
気絶した作業員、いや、反帝国活動家の人を拘束していると、すぐに職員の人達がやって来たので、
「この人が、爆弾仕掛けてた人です」
と、紹介すると慌てて確保してくれた。
その時に、反帝国活動家の本隊は、駐艇場への通路を占拠し、傭兵から同志を募っていたというのを聞いた。
それを聞くと、その現場にいてその他大勢になっていても良かったかなと思ってしまう。
まあ爆弾が阻止できた方がもっといいんだけどね。
反帝国活動家の人をそのまま事務室に連行し、警察を待つ間にその場にいた職員さんに頼んで手続きをしてもらった。
これでいつでも帰ることができるようになった。
そうして警察がやってきて、反帝国活動家の人達を逮捕し、現場検証や事情聴取等が終了してから駐艇場に行ってみると、どうやら反帝国活動家の人達とメインで交渉していた傭兵が、ちょっとした英雄になっているようだった。
傭兵達は、やれ英雄だとからかったり、マスコミに囲まれた時の対処を、冗談混じりで話し、若い女性の職員や作業員や新人傭兵なんかは、きゃーきゃー言いながら彼等を取り囲んでいた。
おそらくそんなに時間を置かずマスコミが来るかもと考えると、さっさとここから立ち去った方がいいだろう。
僕は彼等の端っこをすり抜け、静かにそのコロニーを後にした。
作業員サイド:第三者視点
コロニーのなかにある喫煙室の一つで、決起に参加しなかった作業員達のなかの10名程が、重い表情をし、深いため息をついていた。
「まったく……あいつらはとんでもないことをしてくれたな……」
「ああ…俺達の役目はこの国の情報を集めること。そのために反帝国活動とやらに参加していただけなのに、どっぷり浸かりやがって!」
「まあ解らなくはないさ。向こうでもこっちでも同じ目に遭えばな。なまじこちらは改革が少しずつ浸透しているだけに捌け口になっちまったんだろう」
「ただでさえ先の内乱であの変な赤いビームをぶっぱなす戦闘艇の情報がなくて、状況が追い詰められてるのに阿呆をやりやがって!」
彼等は全員が落ち込んだ様子を見せ、怒りと焦りの表情に変わっていった。
「あいつらどうする?助けた方がいいのか?」
「心配はない。俺達はあんなことを言い出した同僚に驚き、止められなかった事を申し訳なく思っていればいい。実際あんなことをやらかすとは思ってもみなかったしな」
彼等は逮捕された同僚の心配をするが、そのなかでのリーダーらしい作業員が彼等を切り捨てる発言をしたと思うと、汎用端末を取りだし、どこかに電話をかけた。
しかし会話をすることなく、そのまま通話を終了した。
「さあ、次の現場だ!遅れないようにしないとな」
リーダーは気持ちを切り替えるように、手を叩いて仲間達に発破をかける。
「休みねえの?」
「シフトは今回と一緒だから大丈夫だ」
「そうだ!この前のプラネットレースの賭けの時にかした2万クレジットそろそろ返せ」
「給料入ったらな……」
それぞれくだらない話をしながら、作業員達は喫煙室を後にしていく。
『――では次のニュースです。本日、惑星レオエオデュドのゲートメンテナンスの現場にある作業用コロニーが一時占拠されました。爆発テロも発生しかけましたが、幸いにも現場の警備に当たっていた傭兵達の手により未然に防がれ、実行犯達は全員逮捕されました。しかし警察の連行中に、実行犯達全員がいきなり吐血し、そのまま死亡してしまいました。司法解剖の結果、毒物が入ったカプセルが体内に仕込まれており、それを破壊したことで毒が体内に回り死亡したとの事です。彼等は反帝国活動家である疑いが強く、情報漏洩を防ぐための自殺と判断し被疑者死亡のまま書類送検しました――』
来週にはコロナウイルスワクチンを接種予定なのでお休みさせてください。
病院の先生に『今回は副作用出る率高いよ』と、脅されたので…
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