モブNo.107:「馬鹿息子が……」
いや~危なかった。
以前は置きミサイルに反応してたから、深読みして反応してくれるかなと思って仕掛けてみたら見事にはまってくれた。
情報を得るためには生かしておきたかったけどそんな余裕はなかった。
ノズルに当てて大人しくさせて、なんてやっていたらこっちが撃ち落とされていた。
向こうは殺す気できているのだから、こちらだって殺す気で抵抗するのは当たり前だ。
とはいえ脱出するぐらいの時間はありそうだし、捕らえるにしても爆発寸前だから近づくと危ない。
なので脱出をされて逃げられてしまうだろうと諦めていると、護衛の船の方向から何発ものビームが走り、爆発まで何秒かはあった『青雀蜂』の機体を即座に爆発させた。
『ヒャッホー!ネームドらしいのを撃墜だ!良くアシスト出来たなキモオタ!褒めてやるぞ!』
それは、先だってランベルト君を締め上げ、ロスヴァイゼさんを自分の女にしようとした司教階級の傭兵とその取り巻き達だった。
こういう事は新人の時にはよくあった。
場合によっては、今回みたいに撃ってないどころか出撃すらして無いのに自分の手柄にしていく奴までいたから、それよりはましだ。
そしてなにより、今回は手柄は立てたくなかったので願ったり叶ったりだ。
はしゃぐ彼らを尻目に、燃料と弾薬を補充するため航空母艦に向かうことにした。
格納庫内では、アーサー君の機体だけでなく、何機かが修理を受けていた。
現在、輸送部隊は完全に停止しており、動ける機体の全てを使い、撃墜時に脱出できた人を捜索・救助する時間、同時に遺体を収容する時間に当ててくれている。
もちろんこの場合は敵味方は関係ない。
僕も燃料と弾薬を補充し、機体のチェックで破損がないのを確認すると、捜索・救助の為に航空母艦をでていった。
とはいえ何十時間も捜索するわけにはいかないため、せいぜい2時間ほどだったが、何人かの脱出者を救助することができたし、身体が残っていた遺体は回収できた。
そうやって救助ができても、待機場所には何ヵ所かに空きが出来ていた。
傭兵という世界に生きている限り、これは日常的な光景であり、僕だっていつあっち側へいくかわからないしね。
不思議なことに、海賊と雀蜂部隊らしい人間は1人も救助されなかった。
さらに遺体には、身元を証明するものは何一つなかった。
もしかするとこの中にあの青雀蜂がいるのかもしれないが、解るはずないので、全員の冥福を祈っておこう。
殺した側が何を言ってんだと思うけどね。
そうして救助活躍を終えて再び出発することになり、シフトどおり警備につくと、すぐにアーサー君から通信があった。
『ウーゾスさん。ちょっといいですか?』
「やあ。怪我とかしてないの?大丈夫?」
アーサー君は怪我をした様子はなく、後ろにはセイラ嬢の姿もあった。
『こっちは大丈夫です。それよりいいんですか?』
アーサー君は真剣な表情で尋ねてきた。
「青雀蜂撃墜の手柄関係?」
『そうです。いいんですか?勝手にアシスト扱いされて手柄をとられて』
アーサー君の表情からは、怒りの感情がみてとれる。
まあ、普通は自分の手柄を取られたりしたら怒って当たり前だ。
「僕が新人の頃はよくあったからね。それに今回は手柄はあげたくなかったし」
そんな嫌な事も何度も何度も経験していると、割と慣れてくる。
それに今回は明確に手柄を上げたくない理由がある。
そのとき誰かが回線に入ってきた。
『軍がからんでるとなると、手柄は上げたくないよな』
『同感だね。あたしらみたいなのが軍に入ったら、『手柄自動発生装置』か『無敵の肉壁シールド』に使われるだけだからね』
『なんですかそれ?』
回線に入ってきたのは、同じシフトのため、船の操縦席にいるダンさんと、休憩シフトのモリーゼだった。
アーサー君は2人の発言内容が理解できずに困惑していた。
もしかするとアーサー君は帝国領地の出身なのかもしれない。
「つまりね。僕達みたいな植民地民は、帝国出身者が上層部を占める帝国軍なんぞにはいったら、そうやって雑に扱われて早死にするのが定番なんだ」
僕もダンさんもモリーゼも植民地出身なので、軍や中央省庁に入った人達が、どんな目に遭わされるかはよく知っている。
もちろん全員が全員ひどい目に遭う事はないが、ひどい目に遭う人の方が圧倒的に多いのは事実だ。
「だから今回は手柄を取られた方がありがたいんだよね。ごめんね。心配してくれたのに」
するとセイラ嬢が後ろから、
『だから心配はいらないっていったじゃないですか。不満があるなら最初から抗議してるって』
『確かにそのようだね…』
どうやらセイラ嬢の方は僕を含めた植民地民の感情を理解してくれているらしい。
まあ、僕もダンさんもモリーゼも宮仕えは真っ平御免な感じだから嫌がってるだけで、植民地出身でも、軍や中央省庁で活躍している人達もいるからね。
「まあ、そういう事だから気にしなくていいよ。それに、もっと派手な人もいるしね」
そういった僕の視界には、燃料と弾薬を補充してきたランベルト君=ロスヴァイゼさんの機体があった。
『凄いですよね…彼』
アーサー君は、尊敬と嫉妬が入り雑じった表情をうかべた。
おそらくアーサー君の船の画面にも映し出されているのであろう、ランベルト君=ロスヴァイゼさんの機体を見つめているのだろう。
その表情は、腐った女性達が見たら涎を垂らしそうな表情なのは間違いないだろう。
雀蜂部隊を引き連れた海賊達を撃退した以降は、例の彼等以外騒ぐ連中はおらず、交代の時間までは実に静かだった。
そして翌朝には、首都まで一気に飛ぶことのできるゲートがある惑星ガロスティダルに到着した。
サイド:トーバル・サークルース
サークルース伯爵領・惑星ブロスラントにあるサークルース伯爵家の本邸の一室で、トーバル・サークルースは、実兄であり領主であるフイガス・サークルースと、兄弟ではなく、主君と家臣として対峙していた。
「御当主様。御報告が御座います」
「なんだ?」
「例の協力者との作戦は失敗。隊長のタイアスは……撃墜されたことが確認されました」
「相手は?」
「最初は土埃と格闘戦を繰り広げていましたが、激戦の末に被弾。土埃からの追撃はなく、脱出の時間はあったのですが、そのあと横から割り込んできたものに止めを刺されたようです」
「脱出に手間取ったか……。戦場では周囲に目を配り、警戒する事が大事だと口酸っぱく言ってきたつもりだったのだがな。機体のトラブルであったなら仕方ないが」
息子の死を知らされても顔色一つ変えず、手に持ったウィスキーのグラスを傾ける実兄の様子に、トーバルも表情を変えることなく報告を、つづける。
「雀蜂部隊はどうなさいますか?」
「雀蜂部隊は解散させ、正規軍に組み込め。以降はサークルースの正規兵として作戦に参加させろ」
「かしこまりました」
そうして報告が終わると、
「兄上。タイアスの仇はどうします?」
トーバルは兄弟の顔に戻り、自分も可愛がっていた甥っ子の事を尋ねた。
「戦場での事は仇にはせぬものだ。敵とて殺されぬために必死になる。その鬩ぎ合いにタイアスは負けた。それだけのことよ。それに敵の陣営から見れば我等とて愛しき者の仇になる。遺体発見は不可能だろうが葬儀はせねばな。死因は海賊退治の最中に撃墜された。だな」
「……わかりました」
兄・フイガスの淡々とした物言いに激情することなく、トーバルは部屋を出る。
その扉を閉める寸前、
「馬鹿息子が……」
俯いて声を圧し殺した呟きと、手にあったウィスキーのグラスに水滴が落ちたのを見逃すことはなかった。
サイド:終了
前回の部分で、脱出ポッドのスイッチを起動していれば逃げる事ができました。
後悔の後の振動と操縦席の火花は、襲撃を企んだ連中のビームによるものでした。
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