モブNo.102:「私より弱い貴方に守ってもらう必要はありません。これ以上つきまとうなら、次は容赦はしませんよ?」
ヒロインサイド:シオラ・ディロパーズ
私は優秀だった。
学校での訓練で、先輩・同級生・後輩はもちろん、教師にすら負けた事はなかった。
教師は負け惜しみのように、歴戦の傭兵や軍のエースにはまだまだ及ばないと言っていたが、私なら勝てると思っていた。
父の名代として反乱軍に参加した時も、私が撃墜されるなんて夢にも思わなかった。
事実、最初は何機もの敵機を撃墜していた。
軍の正規兵、傭兵のどちらにも私の敵は存在しなかった。
実力を周囲の人間に誇示できた前哨戦が終了し、本格的な戦闘が開始され、私の部隊が対峙したのは、第11艦隊とその配下の傭兵部隊だった。
もちろん初めは何機も落とした。
そして、何機か撃墜した次のターゲットにした薄茶色の機体も、すぐに撃墜できると思っていた。
しかし。
照準に薄茶色を捕らえたと思った瞬間に視界から消え、いつの間にか後ろに回り込まれ、ビームを放たれる。
それをなんとかかわして食らいついていって、こちらがビームを放ってもスルリとかわされる。
しかも相手は、私からの攻撃をかわしつつ、他の機体をも撃墜していた。
まるで、撃ち落とされる事の無い弱い私を囮にして、獲物を誘き寄せているかのように。
それも一度や二度ではない。何度もそれを実行させている。
それに憤慨して、薄茶色に食らいつこうとしてもまたスルリとかわされ、他の機体を攻撃する。
そのうちに、もしかしてあの『薄茶色』は、私がどんな行動を取るのか完璧に予測しているのではないか?もしくは私の頭の中身を超能力かなにかで見透かされているのではないか?という、おおよそまともではない考えが頭に浮かんだ。
そんな考えが頭に浮かぶと、まるで自分が巨大な何かの掌の上に乗せられているような気分になり、得体の知れない恐怖が襲ってきた。
その時、教師が負け惜しみに言っていると思っていた、『歴戦の傭兵や軍のエースにはまだまだ及ばない』という言葉が真実だったとようやく理解した。
そして次の瞬間、私の船が激しく振動した。
撃たれた。私が恐怖を感じた『歴戦の傭兵』に。
幸い、いや、わざと噴射口に当てられた。
それが分かった瞬間、私は周囲の確認もせずに緊急脱出装置を作動させた。
幸い撃ち落とされることなく戦線を離脱しながら、死ななかったという安堵と、囮として使われ、用済みになったので落とされたという悔しさ。自分がどれだけ思い上がっていたかという恥ずかしさから、思わず嗚咽を上げていた。
そして、味方後方にいた貨物船に救出される寸前、赤い光の帯が戦場にいた味方陣営に向けて走ったのを目撃した。
その光が走った後にはなにも残っていなかった。
私が所属していた部隊も一緒に。
その赤い光が何かは分からなかったが、どうやら私は『薄茶色』に落とされたおかげで命拾いしたようだ。
その後、赤い光の帯は味方陣営を蹂躙し、反乱軍の敗北を決定づけた。
戦後処理の皇帝陛下の恩情で、私は投獄されることなく両親の元に帰ることができた。
幸い父の病気も回復し、両親は国立ルトーラム学院高等部への復学を示唆してくれたけれど、皇帝陛下に逆らった形になる私の復学は許可されないだろう。
元々軍人になるつもりだったが、反乱軍に与した事は事実なので入り辛い。
こうなると、自分のスキルを発揮させられるのは、傭兵しかないと結論づけた。
その時思い出したのが、私を手玉にとり、私のプライドをへし折ってくれたあの『薄茶色』の事だった。
仕返しをしたい。勝ちたいという気持ちはある。
しかし『戦場での事は遺恨を残さない』というのが昔からの不文律だ。
なので私は、あの『薄茶色』がいる傭兵ギルドに入りたいと考えた。
あの戦闘を近くで見る機会があるかもしれない。それは自分の成長に役に立つと思ったからだ。
しかし、あの『薄茶色』がどこの傭兵ギルドに所属しているかは分からない。
なので、母方の従姉であるシュネーラ姉さんに聞いてみる事にした。
シュネーラ姉さんことシュネーラ・フロスは母の兄であるおじさんの娘だ。
帝国軍中佐であり、現在は中央艦隊討伐部隊第1艦隊で副官をやっている。
私はそんなシュネーラ姉さんにあこがれて、軍人を目指していただけに、先の戦争で敵対してしまったのは残念だけど、情報通であるシュネーラ姉さんにたよるしかなかった。
有り難いことに、シュネーラ姉さんは私のお願いをきいてくれて、私が生き残ったことを心から喜んでくれた。
「話を聞いて色々調べた結果、貴女が対峙した『薄茶色』の傭兵はジョン・ウーゾス。惑星イッツの傭兵ギルドに所属しているわね」
シュネーラ姉さんのその言葉に、私は緊張を隠し得なかった。
写真をみる限り、少し太った、くたびれた冴えない感じの人物だった。
でも、この人の強さを実感している私からすれば、強そうに見えないのがより恐ろしく感じる。
シュネーラ姉さんからは、この人と戦った時の様子を事細かく尋ねられた。
優秀な傭兵の情報は詳しく知りたいそうだ。
情報の交換をした後、シュネーラ姉さんから軍への入隊を打診された。
自分の第1艦隊なら気にする人間はいないと。
本当ならすぐにでも飛び付きたかったが、これは自分へのけじめでもあるので、丁重にお断りした。
そうして私は、傭兵ギルド・イッツ支部にて、傭兵デビューをはたすことになった。
私が傭兵になって初めての仕事は、私の傭兵登録をしてくれた、凄い美人な受付嬢のゼイストールさんに紹介された、解体コロニーの警備の仕事だった。
有り難い事に、現場に到着してすぐにウーゾスさんを発見した。
声をかけたかったけれど、何て声を掛ければいいか分からず2日ほど悩んだ。
声を掛けようと決めた3日目も、朝からタイミングに悩みまくり、シフト終わりにようやく話しかけることができた。
そうして話してみたところ、やはり彼は私の事をしらなかった。
私が貴方に撃墜されたと聞いてもマウントを取ることもなく平然としていた。
そして写真を見て感じたとおり、戦場で感じたあの圧迫感は微塵も感じられなかった。
本当なら空き時間に模擬戦の一つも申し込みたいところだけど、警備の仕事は何時でも出れるように待機しておくのも仕事なので我慢した。
さらには、学校に行っていた時は周りは全部ライバルという環境な上に、私の性格に事務的な会話以外が苦手なのが相まって友人ができなかったが、ここでは同年代の作業員の女の子達と仲良くなれた。
そんな感じで楽しくしていた時に、同年代の男の子でやたらぐいぐいくる人が居た。
同年代だから、敬語を使えとは言わないが、あまりにも馴れ馴れしいその態度に、私は良い印象は受けなかった。
それから数日後。
あの馴れ馴れしい人がウーゾスさんにからんでいた。
さらには私のためだ。復讐だ。退治だと、喚き散らしていた。
なので、いままでの馴れ馴れしい態度の事も含めて釘を刺しておいた。
その後ウーゾスさんに、どうやって自分を探しだしたのか?どうして自分の船の色を二つ名みたいに呼んだのか?そしてあの馴れ馴れしい人になぜ自分の身の上話をしたのかと聞かれ、正直に答えたところ、身の上話は控えるようにと注意をされてしまった。
それからは、ウーゾスさんとは会釈をするぐらいの関係で収まってしまった。
本当ならタイミングを見計らって、この仕事の終了時にでも模擬戦をお願いしたかったのだけれど、それも出来なくなってしまった。
これがあの馴れ馴れしい人のせいだと思うと腹が立った。
それでもなんとか仕事をこなし、最終日のシフト終わりに、友達になった女の子のミヤちゃんとテノイちゃんとでスイーツパーティーをすることになった。
ちなみにシフトが終わっても、全員のシフトが終了するまではここにはいないといけないのがルールだ。
そうして、コロニー内の喫茶店でケーキやパフェを楽しんでいると、あの馴れ馴れしい人がやってきて、
「聞いてくれシオラ!あの卑怯者がドッグファイトで俺に敗けを認めやがった!2度とシオラに近づくんじゃねーって命令しておいたからもう安心だぜ!」
と、ドヤ顔で一方的にまくしたてた。
民間人のこの人が、歴戦の傭兵であるウーゾスさんに勝てるとは思えない。
そもそも戦闘艇をもっているとも思えない。
すると、
「今日の朝に、この人が太めの警備の人に喧嘩売ってたの見たよ。VRで勝負とか言ってたけど、『はいはい。君の勝ちでいいよ』てな感じであしらわれてたわ」
その現場を見たらしいテノイちゃんが詳細を教えてくれた。
なるほど。ウーゾスさんは自分の評判みたいなものは興味がないみたいでしたから、簡単にあしらったのでしょう。
それにしてもこの人はどういうつもりでしょうか?
馴れ馴れしく名前を呼ぶなと釘を刺したはずなんですが。
それに、ウーゾスさんに私に近寄るなと命令したなんて、ますます模擬戦が頼みづらくなってしまった。
「以前にもいいましたが、貴方に親しげに名前を呼ぶことを許可した覚えはありません。これ以上つきまとうなら警察につきだしますよ」
私はこの馴れ馴れしい人にそう通告した。
「何でそうなるんだよ!俺はシオラのことを思ってやってるんだ!守ってやってるんだぞ!?」
すると馴れ馴れしい人は、怒りを露にしながら、右手で私の左手首を掴んできた。
「放してください。一応立派な暴行罪ですよ」
「俺はこの手を放す気はない!」
通告しても放してくれなかったので、自衛をすることにした。
まずは椅子から立ち上がり、掴まれている左手を引きつつ右手で相手の肘を押し上げて関節を極め、左から足を払い、腕を使ってそのまま床にたたきつけた。
「ぐはっ!」
手加減はしたつもりだけど、どうやら勢い良くたたきつけ過ぎたらしく、痛みで動けなくなった。
その動けない状態の馴れ馴れしい人に、
「私より弱い貴方に守ってもらう必要はありません。これ以上つきまとうなら、次は容赦はしませんよ?」
と、腰の銃を軽くさわりながら警告を突きつけたところ、
「わ…わかった! わかった!」
怯えながらの了承の返事をもらった。
そうして馴れ馴れしい人が店員に連行されていくと、ミヤちゃんとテノイちゃんが私に掌を向けてきた。
なので私は、教えてもらったように、勢いよく掌をあわせた。
ヒロインサイド:終了
今回はこっちが先になりました。
モブは出ませんでした。
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