モブNo.99:「私は傭兵になったばかりです。なのでこれからよろしくお願いいたします」
ゴンザレスの所に行った翌日は、船をおやっさんのところにメンテナンスに出したあと、家の事を色々すませる事にした。
まずは絶対にやっておかなければならない掃除だけど、留守が多いのだから掃除用ロボットなんかを置いておけばいいのだけど、家に帰った時に自分の手でアナクロにやることで、日常にいる感覚が感じられるのでわざと置いてない。
それで出たゴミは、仕事に行っている間は溜まらないが、今日から溜まるので出すのは仕事に行く日かな。
洗濯物は、1週間以上船で寝泊まりした場合は、船のシャワーで洗ったり、近くに有人惑星やコロニーがあれば、コインランドリーにいってそこで洗ったりする。
今回の仕事は1週間かかっているし、コインランドリーもあったのでそこで一度洗濯をしているので、洗濯物は2日分ほどだけど、洗っておくに越したことはない。
それが終われば次は買い出し。
取り敢えず今日の分の食材をスーパーに買いに行くわけだけれど、量には気を付けて買わないといけない。余らせたらもったいないしね。
それを終わらせて帰ってきた時には昼時を過ぎていたので、昼食の準備を始めた。
料理といっても、お手軽男飯だから簡単なもの。お惣菜も多いしね。
それが終わったらやっと趣味の時間。
お喋りサイトやアニメの公式サイト・動画投稿サイトなんかをだらっとしながら閲覧する。
そんな生活を2日程堪能した翌日の3日目には仕事にいく準備を始める。
まずは洗濯をし、掃除をし、ゴミを片付け、朝食・昼食で冷蔵庫の食材を使いきる。
それが終われば、次は船に乗せる着替えやラノベ・漫画等の荷造り等をすませ、大家さんに家賃を払っておく。
夕食は外食にしゴミは極力出さない。出たら地下のゴミ捨て場に出しておく。
その夜はネットなどはせずに早く寝ることにする。
翌朝は、起きて身支度をしたらすぐに家を出て、朝食は喫茶店かファーストフードですます。
そしておやっさんから船を受け取ってから傭兵ギルドに向かう。
傭兵ギルドに到着してまず向かうのが、駐艇場のスタンドに行って、燃料を満タンにしておく。
それが終わってようやくカウンターに向かうことができるわけだ。
もちろん僕がいくのはローンズのおっちゃんのところだ。
「よう。休暇は堪能したか?」
「まあね。あまり代わり映えしない休みだけど」
「落ちぶれ貴族共もかなり逮捕されてきたからな。少しはお前好みの仕事も復活してるだろうぜ」
おっちゃんは一覧を選抜しながら、次々と依頼を見せてくれた。
「あーこれなんかいいなあ」
その中で僕が目を止めたのは、
○
業務内容:コロニー解体作業現場の警備。
業務期間:銀河標準時間で約15日間。
3交代制の8時間連続勤務で16時間の待機休憩。
業務環境:管理コロニー内にある宿泊施設(カプセルホテル式)の無料使用・食事の無料支給。
宇宙船の燃料支給。
業務条件:宇宙船の持ち込み必須。
持ち込み宇宙船が破損した場合の修理費は自腹。
緊急時には、待機休憩時でも対処・出撃すること。
上記理由により、待機休憩時のコロニー外への外出不可。
報酬: 30万クレジット・固定
○
という典型的な警備の仕事だ。もしかするとまたデブリ回収なんかの臨時収入があるかも知れない。
「じゃあこれよろしく」
「コロニーの解体現場の警備か。お前らしいな」
ローンズのおっちゃんは皮肉っぽい笑いを浮かべながら手続きをしてくれた。
元・セターク子爵領。現在はダツレス男爵領となった惑星サノメルコタは、大気成分・重力共に人類生存可能惑星ではあったが、あまりにも大量かつ狂暴、そして稀少な原生生物がいたため、居住惑星ではなく、観光惑星として開発された。
今回解体されるコロニーは、その観光のための拠点になっていたコロニーで、施設の老朽化によりその役目を終えたが、セターク子爵が解体費用を私欲に使い込み、恒星に落下させるという廃棄手段すらできなくなっていた。
しかしそのセターク子爵は先の反乱に自ら参加したために取り潰しとなり、ダツレス男爵が領地を治めることになった。
するとダツレス男爵は、私財を投じてコロニー内部のあらゆる物を再使用目的で販売した上で、コロニー全体を再資源化して販売し、投資の回収・財源の回復・臨時の雇用を発生させる手段を取った。
もちろん作業環境を充実させるために、管理コロニー=施設集中型作業基地コロニーも設置してくれている。
この施設集中型作業基地コロニーは、通常の円筒形コロニーより少し短く、3つある島の内2つが駐艇場になっていて、後の1つには島の敷地の半分を占める、宿泊施設・飲食施設・リラクゼーション施設・スポーツ施設・大小の多目的ホールなどがはいった、巨大な建物があり、もう半分の敷地には、緑地の公園と物品倉庫があり、期間中はここで寝泊まりをすることになる。
そして残念ながらデブリ作業の手伝いはなかった。
管理コロニーで注意事項やシフト表をうけとると、僕は早速仕事と相成った。
それから2日は何事もなかった。
僕にとって事件が起きたのは3日目のシフト終わりだった。
シフトが終わり、夕食と風呂をすませ、部屋に戻ろうとした時、
「ちょっとすみません」
廊下で誰かに声をかけられた。
「あー…なんでしょう?」
僕に声をかけてきたのは、モスグリーンのパイロットスーツを着た、明褐色の肌に金の瞳、黒い髪をポニーテールにした、身長は僕よりは少し低いぐらいの、多分高校生ぐらいの女の子だった。
僕が足を止めると、彼女は直立不動の姿勢を取りながら、
「貴方がジョン・ウーゾスさんで間違いありませんか?」
と、真剣な表情で訪ねてきた。
ものすごく嫌な予感がしたのだけれど、誤魔化しても無駄っぽかったので正直に答えた。
嘘を言ったところで名簿をみれば一発だしね。
「はい…そうですが…」
「そうですか。私はシオラ・ディロパーズ。貴方を探していました」
「どんな御用件で?」
「私は先の反乱軍鎮圧戦において、病床だった父、オースチン・ディロパーズ男爵の名代として反乱軍側に参陣し、貴方に撃墜されたものです。幸い脱出に成功し生き残る事ができました」
彼女、ディロパーズさんは、冷静な表情で驚きの事実を聞かせてきた。
まあ、女の子が僕を探している時点でまっとうな話じゃないよね。
「はあ…左様ですか…」
僕は悟られないようにゆっくりと腰の銃に手を伸ばした。
『戦場での事は恨むものではない』とはいうけれど、どうしても恨みに思うことは仕方ない。
特に貴族はその傾向が強い。
とはいえ殺されたくはないので、銃撃戦は苦手だけどやるしかない。
そう考えていると、
「ですがそのお陰で、銀に黒のラインの戦闘艇の紅いビームに撃たれなくてすみました。それに私が落とされたのは私が未熟だっただけです。貴方を恨む理由にはなりません」
やっぱり冷静な表情のまま、攻撃の意思がないことを伝えてきた。
まあ、ゲルヒルデさんの『プロミネンス・アロー』でやられるよりはよかったの…かな?
ともかく彼女に攻撃の意思はないようなので、僕は銃から手を離し、
「それで本当に何の用なんですか?」
と、尋ねてみた。
撃ち落とされた恨みじゃないなら、いったい僕に何の用があるんだろう?
「幸いにして皇帝陛下の恩赦をいただき自由の身になり、父も病床から回復しました。本来なら国立ルトーラム学院高等部・宇宙船戦闘学科を卒業して軍に入る予定だったのですが、今回の参陣のために退学したため、復学も軍への入隊も心苦しいので、傭兵として帝国の治安維持に貢献しようと思いました」
学校に、参陣するなら辞めろとかいわれたのかな?
実際無理矢理だったわけだし、復学や入隊を希望しても問題ないとは思うけど、本人としてはけじめ的なものなんだろうね。
彼女も大変だな~とか思っていたのだけれど、彼女の次の言葉に、僕は完全に混乱してしまった。
「それでですね。せっかくなら私を撃ち落とした『土埃』がどんな人かと思いまして、こうしてお声かけした次第です」
え?なんで?普通自分を撃ち落とした相手になんか会いたくないよね?
それともこれから社会的に復讐する宣戦布告かなんかなの?
撃墜された時の相手の船の色を二つ名みたいに覚えてて、わざわざ捜し出すってことは、かなり恨みに思ってるって事だしね。
そんな考えが頭に浮かんで、完全に混乱しているところに、
「私は傭兵になったばかりです。なのでこれからよろしくお願いいたします」
と、彼女は見事な敬礼で挨拶をし、にっこりと笑顔を浮かべた。
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