第一話 追放
「残念だがエクシオ・スクライア。今日を持ってお前はパーティから抜けてもらう」
「……はっ?」
上級冒険者達が集う高級宿屋のとある一室。
話があるとリーダーの「ヴェイド・レヴォーグ」に集められ、パーティメンバーが集まる中、唐突にクビを通達された『エクシオ』は目を瞬かせた。
「今回のダンジョン攻略の時、お前は何をしていた?」
ヴォイドにそう言われて今回の自分の行動を思い返す。
「何をしていたも何も、いつも通り皆の補助をしていたけど……」
そう返すと、唐突に笑い声が聞こえた。
「補助をしていた、だぁ?笑わせんなよ。まるであたかも自分が役に立っています、みたいにほざきやがって」
そう吐き捨てるのはパーティーメンバーのイルム。剃り込みを入れた茶髪のチンピラの様に見えるが、このSクラスパーティーの斥候である。
「まあまあ、一応役には立ってたでしょ?荷物持ちくらいは」
フォローになっていないフォローをしているのは紅一点である弓手のリース。スレンダーな見た目ではあるが、男の扱いには慣れているらしく、ヴォイドの寝室へ向かっているのをエクシオは何度か見たことがあった。
ここにエクシオとリーダーのヴォイドを入れて、Sクラスパーティーとして活動していた。
「まあそういうことだ。この中の誰も、お前を必要としていない」
そしてヴォイド。彼はこの街で5本に入る冒険者パーティ「金の翼」のリーダーで有名な貴族の息子でもあった。
均整の取れた顔立ちに柔らかいブロンドの髪は神に愛されてると評判の人気者だ。そして実力も申し分ない、とあらゆる女性の視線を釘付けにしていた。
だが貴族であるが故に傲慢で気に入らなかった者に対しては一切の容赦がない。それをエクシオはこのパーティに入ってからの一年で嫌というほど知った。勿論『気に入られなかった側』の人間として。
「そんな……!でも僕は補助だけじゃなくてヒーラーを担当している!そこはどうするの?」
このパーティに入る時、エクシオは元々魔法使いとして勧誘を受けた。しかし回復も担当できると分かり、ヒーラーを雇う手間が省けたとエクシオに任せたのだ。
「まあ確かにヒーラーは必要だな」
そう言ってヴォイドは考えた素振りを見せる。
「だが、お前の職業は僧侶ではなく魔法使いだ。治す事が本業ではないお前の代わりなど、探せばいくらでもいるだろう。違うか?」
「……っ!」
違う、と言いたかった。しかし治癒が本質では無い職業であることは事実であり、自分より治癒が得意な人間を知っているため、言い返す事には少し自信がなかった。
「ふん、全くの無名から突然Aクラス冒険者に浮上した奴がいるからと期待して声をかけたが……とんだ期待外れだった。まさかおこぼれをもらって上がっただけの寄生虫だったとはな」
「こんなお前でもSクラスに上がらせてもらえた事に感謝するんだな。無能」
「まあヴォイド様の甘い汁を啜れるのは今日までだけどね〜」
そう心無い言葉を口々にいうパーティーメンバーにエクシオは絶句した。
「ずっと黙ってたけど、もしかして……皆、気付いて無かったの?」
「あ?何がだよ」
怪訝そうに睨むイルムにエクシオは恐る恐る問いかける。
「……ほら、自分たちの動きが良くなった、とか思い通りに体が動く、とか」
「あー、確かにアンタが入ってくる前よりずっと強くなったわね」
なるほど、やはり効果はあったとエクシオは確信する。自分が掛けた魔法が不発していたわけじゃなかったのだ、と。
「それは僕の__「まあアタシ達の努力の賜物ね!」……え?」
だが次に放たれた言葉の意味が分からず、エクシオはまた立ち尽くしてしまった。
「ああ、俺達がこんな役立たずを抱えてダンジョンに潜ったから強くなれたという点に関してはある意味感謝しねぇといけねぇなぁ?」
「フン、コイツがいなければもっと早くSクラスに上がれていた、の間違いだろう」
「ちげぇねぇ!ハハハッ!」
ヴォイドの言葉にエクシオを除いて部屋に笑い声が響く。
「つまり……今までの力は全部自分たちの能力だったって言いたいの……?」
「それ以外に何がある。お前が入ってから俺達は力が増し始めた。簡単な話だ」
何も言葉が出て来なかった。彼らにはもう何を言っても通じないことをエクシオは悟ったのだ。
「分かったらとっとと荷物をまとめて消えろ。我慢の限界だ。ああ、パーティー共有の袋は置いていけよ。そのまま持っていかれたらたまらん」
「……はい」
今までやってきたのは何だったのか。自分は一体『何』と肩を並べて戦っていたのか。
もう考える必要も無い、と思ったエクシオは最低限の荷物をまとめて宿を後にした。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
「これからどうしよう……」
街の中心にある噴水広場のベンチに腰掛けながらエクシオは項垂れていた。
この一年エクシオはやれることは全てやってきた。
魔法学園を卒業後、エクシオは特別資格冒険者として活動し、すぐにAクラスとなった。
そしてヴォイドに勧誘された時、この町でトップクラスのパーティだと知り期待したものの、攻撃を務めるにはパーティーメンバーを巻き込む危険性があるほど実力がかけ離れていた。
しかしエクシオは生来のお人好しな性格から断れず、彼らを強くしようとサポートに徹していたのだ。
自分のサポートで味方が強くなれば、最終的には自分も攻撃手として参加できるかもしれない。そうすればパーティとしての頂点を目指せる、そう思っていた。
確かに皆は強くなった。しかしその強さには大きな代償があった。
「まさか皆が強化込みの力を自分の力だと思い込むなんて……」
エクシオは彼らの傲慢さを完璧に見抜くことができなかったのだ。そしてその肥大した傲慢さが今日爆発した。簡単な答えだった。
「所持金は……あと2日持つかどうかかな。これじゃあ別の街に行くのもキツいぞ……」
しかし今は彼らの事より今の生活について考える必要があった。
新しいパーティーを探そうにも自分はあの人気者のヴォイドから無能というレッテルを貼られた傷付きの冒険者。当然誰も自分をパーティーに迎え入れようとする者はおらず、この町では肩身が狭い事この上なかった。
また、普通の仕事に就こうにも、見る者によっては頼りないと捉えられる顔立ちに細い体つきのエクシオを雇ってくれる所はどこにも無かった。
「うう、このまま餓死しちゃうのかな……」
思わず残酷な未来を想像してしまったエクシオは身体をぶるりと振るわせ、必死にどうにかこの状況を打開する手立てを考える。しかし良い案は一向に出てこない。
万策尽きたか、と思われたエクシオだったが__
「あれ?こんな所で項垂れてどうしたのエクシオ?」
「ん?もしかして……ソフィア?どうしてここに?」
学生時代の友人であり、共に戦った仲間でもあった白髪の少女、ソフィアがエクシオの前で怪訝そうな顔をして立っていた。