同級生にディスられたけど僕は平気です
初めての薬草採取から1ヶ月経過した。
おじさんのアドバイス通りに図書館に通って、森や動植物の理解に励みながら薬草採取を続けている。
勿論、その後に鍛錬も怠っていない。
薬草採取で重要なことは幾つかあるが、最も重要なことは滞在時間だ。
森には早朝から昼下がりまで。6時〜15時までを滞在時間にした方がいい。
これはモンスター討伐においても当てはまる事柄だ。
余程のことがなければモンスターが活性化する17時以降の時間は極力避けた方がいい。
つまり一番最初の薬草採取こそが最も危険だったわけだ。
もしも森を出るのがもう少し後だったら何か良くないものと遭遇していたかも知れない。
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「よう、坊主。薬草採ってこれたか?」
「ええ、採ってこれました」
「ニャー」
「そうなんだぁ、ベルちゃ〜ん」
時間は昼下がり15時きっかりに戻ってくる。
1ヶ月の間で変わったことの一つとして、ギルド施設にベルの入室が特別に許されたことが挙げられる。
薬草提出の度に入り口から覗き込むから、おじさんも気になっていたらしい。
今では、ギルド内のアイドルとして君臨している。老若男女問わず、皆ベルにメロメロだ。
「赤黄白ハーブ、バランス良くとれてきたな」
「ええ、お陰様で」
ハーブが入った袋を3つ提出する。
黄ハーブは赤と白の中間、2番目に効きの良いハーブだ。
赤ハーブの2倍の価格で取引され、袋パンパンに採ってこれれば銀貨6枚になる。
分量を測定してもらうと今回の報酬は銀貨5枚。
少ないと思うかも知れないが、理由がある。採ってきた量をわざと少なくしたからだ。
各ハーブの群生地からちょっとずつ採ってきた。独り占めすると同業者から目をつけられる。
これも1ヶ月の間で学んだことの一つ。ちょっと誇らしい気持ちになる。
「おじさま! 査定をお願い出来るかしら」
「おう、嬢ちゃんもか」
いつもの女の子も袋を3つ出して銀貨を5枚もらった。
この子も不思議と薬草採取を続けている。
彼女との縁も不思議と続いている。森を探索する活動時間が被っているせいだ。
最初は対抗意識があったせいか積極的には関わろうとしなかったが、薬草がどこに生えているとか、採り尽くされているとか教えて上げるとぶっきらぼうに感謝の言葉をもらった。役に立ったらしい。それから一言、二言の交流は続いている。
「お疲れ様」
「ええ、お疲れ様。ベルちゃ〜ん、元気してまちゅかぁ」
この差だけは未だに納得出来ずにいる。僕は何かしたのだろうか?
女の子はベルをわさわさ撫でる。ベルはされるがままにしている。
ベル曰く、私はセシル一筋!らしい。
「お前達も薬草採るのが随分上手くなったよぁ」
「当然よ!」
女の子が対してない胸を反らす。当然胸元はちっとも揺れない。
対してはおじさんは目を細めている。
「何事も基本が肝心だぜ。薬草採取しながら勉強と訓練を続けな。そうすりゃもっと危険な依頼もこなすこと出来るぜ」
「別に危険なことをしたいわけじゃないですが、もっと強くなりたいです」
「おう、その意気だぜ。基本を疎かにするやつは冒険者を引退するハメになるぜ」
「引退・・・?」
意味を考えるが図りかねる。死ぬ程怖い目に遭って冒険者を辞めるということだろうか?
確かに昼の森に入るだけでも神経を使う。野犬と遭遇するだけでもドキリとする。万が一でも怪我を負えば、治るまで収入が絶えることになるのだから。無事に生還するのは必須条件だ。
「おや?おやおや?君はセシルじゃないないか」
聞き覚えのあるネチッこい声。振り向くとと奴がいる。
「アンドレ?どうして君がここにいるの?」
「酷い言い方だね。君が実家を追放されたっていうから心配で心配でこうやって顔を出してあげたのに」
言葉とは裏腹に楽しげだ。
でっぷりとした腹に肥満体型の丸顔。フーフー小刻みに息をしている。
いつもの取り巻きのチビとノッポが両脇に構えている。
同じ貴族学校に通っていた同期だ。
自分より弱いと思ったやつを苛め回すのが趣味の理解出来ない人物だ。
大方、僕が追い出されたのを聞きつけてやってきたのだろう。
そんな気力があるなら勉学に励めばいいのに。
「それはわざわざありがとう。心が温かくなるよ」
「そうだろう。僕みたいに心の広い人間は滅多にいないよ。グフフ。でっ、君は今何をやっているんだい?ドラゴン退治かな?」
「近くの森で薬草採取をしているよ」
「君は賢い人間だね!身の程って奴がよく分かっている。身の程がね!」
取り巻きもゲラゲラ大爆笑している。
「・・・まあね」
「その様子じゃ金にも苦労してるんじゃないのか?ほれっ」
胸元から銀貨を1枚、僕に放り投げる。
足下にコインがクルクル周りながら落下する
「貴族の嗜みってやつだ。受け取ったらどうだ?ん?」
「さっきからあんた何なのよ?随分ご立派なこと言ってるけど何が出来るの?彼のこと馬鹿にしたいなら、彼より優れていることを証明しなさいよ。ゴブリンの1匹位倒して見せなさいよ!」
アンドレの顔に朱が差し、茹でタコのように真っ赤になる。
怒鳴るかと思ったらグッと堪える。
「・・・いいでしょう。私がゴブリンを倒してきたらどうします?勿論お願いの一つ聞いてくれますよねぇ?」
アンドレが彼女を上下舐め回すように視姦し、彼女の二の腕に鳥肌が立つ。
「いいわよ。おじさま、彼のおあつらえむきなゴブリン討伐依頼はないかしら?」
「あるぜ。とびっきりのやつが。如何されやすか旦那。ちょうどゴブリンの巣穴を駆除して欲しいという依頼がありますぜ」
「えっ?いっ、いいでしょう。依頼を見せなさい。
ふむ、歩いてここから2時間ですか。馬なら30分で着きますね。
お嬢さん、体はよく洗っておいてくださいよ。20時には戻りますので亭主、お店は閉めてはなりませんよ。
では、皆様ごきげんよう」
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「あいつは何なのよ?人のことを馬鹿にし尽くして。何なのよもう!」
「まあ、落ち着いて」
「君も君よ! あんなこと言われて悔しくないの?」
「そりゃ悔しいよ!でもあんな所で草むしりの大変さを語った所で何も意味ないじゃないか。
いつかは絶対見返してやるさ。そのために森に通ってるんだ」
ニヤリとする彼女。
「ふーん、ちゃんと先のこと考えて行動してるのね。
だったら見逃してあげるわ。次のクエストは私とゴブリン討伐よ。もちろんやるわね?」
「えっ、君と?」
「何よ。私とじゃ文句があるわけ? まさか私が嬲りものにされるのみたいわけ?嫌よ、あんな肉団子に触れられるなんて」
不安はあるけど観念する。さっきは彼女に僕の気持ちを代弁してもらったわけだし、今度は僕が面子を守る番だ。
「分かった、よろしく頼むよ。そのために準備しよう。
僕達は命を掛けて冒険する冒険者だ」
読者様へ
読んでいただきありがとうございます。
76万作以上ある「魔境なろう」で、僕の物語を読んでくれたことに只々感謝です。
より面白い物語が書けるように精進してまいります。
今後ともお付き合いいただけたら幸いです。