追放されたからハローワークに行ってみた
「よう坊主、小遣い稼ぎにきたんか?」
実家から日中歩き、宿場で一夜明かして隣町のニューランドに到着。
到着は正午を過ぎた位だろうか。
宿場で猫を連れていることを不思議そうなに見られた以外は特にこれといったトラブルはなかった。
てっきり追放者と罵られるのかと思ったら、案外情報は行き渡っていなかった。
弱き者は必要なし。なるほど、確かにその通りだったということだろう。
「ええ、そうです。僕でも出来そうな仕事はありますか?」
僕は冒険者ギルドにいる。3階建ての木造で1階が受付になる。
掃除が行き届いていて建物の中はそれなりに広い。左右壁際に長椅子が設置されている。
1フロア20メートル四方位ある。ちょっと広めの食堂位だ。
午前中の受付が済んで冒険者達は冒険に出かけている。都合よく閑散になったタイミングで入場出来た。
隣町についたら真っ先にしなければならないことは何か?
勿論仕事探しに決まっている。
自由に使える路銀は後2日分しかない。
母上から頂戴した餞別も確かにある。1ヶ月分相当の路銀だ。
この路銀はおいそれと使ってよいものではない。母上との絆を手元に残しておきたい。
自分の出来ることを加味してお金を稼ぐとしたら冒険者が一番無難だろう。
「そうだな・・・、坊主に出来そうな仕事か」
「剣術には多少は心得があります」
思案げにスキンヘッドの赤毛モヒカンのおじさんが僕を凝視しながら自身の後頭部を撫でる。
年齢は40前半位だろうか。もしかしたら父上と同じ位かも知れない。
筋肉隆々で腕も胸板も厚い。身長は180cm位だろうか。
僕より20cm身長が高いから結果的に見下される形になる。威圧感がすごい。
でも、ここで仕事を逃すわけにもいかないので、こちらも視線を逸らさない。3秒程そうした。
「薬草探し、ゴブリン退治、荷物運び、どれがやりたい? お勧めは薬草探しだぜ」
「薬草探しでお願いします」
恐らく、これが一番命の危険が少ないだろう。
ゴブリンは冒険者が最も討伐する機会が多いと聞いている。
生態の分からないままゴブリンと戦うのは危険すぎる。
同様に荷物運びもどんなものを運ばされるのか分からない。
中身もそうだし、僕の体格では運ぶのが難しいことがあるかも知れない。
それにニュータウン周辺の地理が頭に入っているわけでもない。
その理屈で言えば、薬草探しも詳細を聞いてみないことには判断がつかないわけだけど・・・。
「よし、薬草探しの詳細はこうだ。街の東に森が広がってんだろ?森の中に傷に効く赤ハーブが生えてるからそれを革袋一杯になるまで分とってくりゃいい。子供にも出来るお使いだぜ」
「分かりました。それでお願いします」
「おう、分かったぜ」
「じゃあ、この紙に名前を書いてくれ、文字の書き方分かるか?」
「はい、分かります」
書面を追う。嘘はついていない。おじさんが言っていた内容の通りだ。
この人、良い人なのかも知れない。書面にサインして提出する。
「ふーん、文字の読み書きは出来るんだな。字も中々大したもんだ。ふーん」
「この位普通です」
もう一度僕をまん丸の大きなギョロっとした目で凝視する。
ぎょっとするが、視線は逸らさない。
おじさんが革袋を右手で抱えながらニカっと笑う。
「まあ、頑張ってこい!」