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そして誰もいなくなった

「あれがゴブリンの巣穴ですね」

「ええ、間違いありません」

「はっ、子供より小せえじゃねえか」


 身支度をしてゴブリンの巣穴に到着したのは18時を回った頃。

 目的地を探し出すのに手間取ってしまった。


 木の幹から3人で覗き込むとゴブリンが2匹入り口でたむろしている。

 身長は1〜1.2m程度。深緑色の肌に尖った耳に鼻。頭髪がないため丸っこい頭がツルツルしている。

 腰にボロ布を巻いただけの半裸。手には粗末な石斧をぶら下げている。蔦で木の棒に石を乱暴に巻きつけただけのものだ。

 まともに見張るつもりがないためか、あくびをしながら突っ立っている。


 対してこちらは完全武装だ。

 ロングソードにロングシールドを標準装備。

 チビとノッポはチェーンメイル、自身はフルプレートアーマーを装備している。

 体格、装備共にこちらの圧勝だ。負けるはずがない。


「どうしますか?」

「貴族らしく正々堂々と退治しますよ」

「流石アンドレさん。尊い血筋の方は気品がある」


 期待通りの称賛に笑みが自然と浮かぶ。

 この私があんな奴らに遅れをとるわけがない。

 さっさと成敗して、あの生意気小娘をひん剥いてやりたいところだ。

 人が折角気分良くいた所に水を差すとは許すまじ行いだ。

 はたしてどんな声で鳴いてくれるか。


「そうそう、戻ったらあの小娘を折檻しますよ。お前達にも遊ばしてやりましょう」

『さすがアンドレ様。話がわかるぅ』


 喜色で声が弾む二人。

 やはり、貴族たるもの寛容さが大切だ。


「それでは行きますよ」


「我はアンドレ・ブラウン。いざ尋常に勝負せよ!」

「ゴブッ!ゴブゴブ!?」


 刃渡り1.1mのロングソードをゴブリンに向ける。

 自身の身長と同じ得物を突きつけられギョっと目を見開くと大慌てで巣穴に逃げ込む。

 背丈が小さいばかりか、勇気もどうやらないようだ。


「こいつぁ楽勝だな!」

「ええ、あのような下賤な生き物はさっさと成敗しますよ」


 意気揚々とゴブリンの巣穴へ突入する。


ーーー


「うげっ」

「くっさ」

「これは参りますねぇ」


 巣穴に入って真っ先に感じ取る異変は目に刺さるような異臭だ。

 肥溜めのような臭いで充満している。

 目に刺さるような異臭で鼻がもげそうになる。

 どうやら元々存在していた洞窟にゴブリンが居着いたものらしい。

 湿度はそれ程高くなくカラっとしている。

 天井までの高さは3m程度。3人が横一列になって歩くことが出来る。


 巣穴の先は真っ暗でよく分からない。

 チビが持っている松明が唯一の光源だ。5m先はよく見通せない。

 時間が惜しいので無造作に前進をする。


 するとっ、ヒュっと空気を切る音。リンゴ程の大きさの泥が目の前に迫る。咄嗟に盾を掲げて防御するとベチャっという音が響き渡る。


「ゴブブ」


 嗤い声と共に更に奥へ逃げ込むゴブリン。

 腰布一丁で身軽な分、完全武装したこちらより素早く動ける。そのためこちらの追撃は間に合わない。


「正々堂々勝負なさい!」


 いいようにやられているようで段々ムカムカしてきた。

 盾に貼り付いたドロを手で拭おいうとすると、手にムニュッとこべりつく。

 予想外の感触に慌てて手を引っ込めて確認すると一際強烈な異臭で顔を背ける。

 泥と思ったものは奴らの排泄物だ。


「ワー!!!あいつら!!!!」


 叫びながら壁に手と盾を擦りつけて排泄物を拭い落とす。

 モンスター風情に手と家紋を汚された。絶対に血祭りにあげてやる。


「手ぬぐい!」

「すみません。持ってきておりません」

「馬鹿者がぁ!」


 手ぬぐいの一つ用意していないとはこの二人も何と使えないことか。

 何もかもが気に入らない。


「奥へ進むぞ。ここは洞窟だ。このまま進めば奴らは袋小路だ。絶対に奴らを八つ裂きにするぞ」

「はっ、はい」

「へっ、へい」


 大股で更に20m程進むと大広間に出た。行き止まりだ。

 やっとゴブリン二匹を追い詰めた。

 壁を背にしてニヤニヤ嗤っている。何がそんなに楽しいのか。


 大広間は左右の側面に人が通れない穴が複数空いている。

 ここの部屋にはまるでゴブリンが数十匹もいるような異臭がするがそんなのどうでもいい。

 巣穴にはゴブリンが2匹しかいなかったそれだけのことだ。

 さっさと血祭りに上げてギルドに戻ろう。


「フンッ、今更命乞いした所で容赦しませんよ。自身の行いを悔いることですね。家紋を汚した罪、血を持って贖ってもらいましょう」

「ゴブゴブ!!」


 苦し紛れか今度は石を投擲してくる。先程と同様に盾を掲げて回避する。

 今度は重い反動。盾が少し凹む。


「その程度たわいもない」


 [ゴブリン]なら通れる左右の小さな穴から続々とゴブリンが出現する。

 その数30匹。片手に得物を持ち、あいている手に石を持っている。

 

「アンドレさん、流石にこれはマズイですよ」

「逃げましょう」


 チビとノッポが浮足立つ。この数の石はさばききれない。

 ゴブリンはゲラゲラと嗤い声を大合唱する。


 数十の石つぶてが飛んでくる。

 盾で全てを回避するのは不可能だ。鎧で覆われているとはいえ衝撃まで殺しきれるわけではない。

 鈍い痛みが全身を襲う。痛い!


「ギャッ」

「ヒー」


 たまらずチビが松明を落としてしてしまう。

 まずい!ここで光源を失ったら身動きがとれなくなる。

 チビが拾う前にゴブリンがひったくり力任せに石斧を振り下ろす。

 チビの顔が絶望で歪む。

 

 大広間が真っ暗になり何も見えず平衡感覚が怪しくなる。

 急速に焦燥感が広がる。ジリジリとゴブリンの足音が近づく。


「死にたくねぇよ!!!」


 ノッポが自制心を失いパニック状態になる。

 持っているロングソードを闇雲に振り回す。


「ギャッ」


 チビが悲鳴を上げて倒れる。倒れたチビにゴブリンが群がり得物を満足ゆくまで振り下ろす。

 こちらは見えないが、ゴブリンは識別出来ている。


ーーーーー


 こうなってしまっては彼らがゴブリンを倒すことは不可能だ。

読者様へ


読んでいただきありがとうございます。

76万作以上ある「魔境なろう」で、僕の物語を読んでくれたことに只々感謝です。

より面白い物語が書けるように精進してまいります。


今後ともお付き合いいただけたら幸いです。

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