入団試験を受けたら追放された
踏み固められた土の上に僕と兄が対峙する。中央にジャッジマン。
騎士団訓練場。10メートル四方で麻のロープに囲われる。
「おいセシル。どちら勝っても恨みっこなしだぜ。」
「勿論ですとも兄上。勝った方が父上の騎士団に入団出来る。そういう約束です。」
トール兄さんが顔を左上に、父上が座る席に目を向ける。
周りに従者が8人いる。
「勿論だ。勝者を我が騎士団に迎え入れる。我が騎士団に必要なのは強き者のみだ。」
「両者前へ! 挨拶」
一歩前へ進める。両者の距離は3メートル程。息遣いが聞えてくる。
僕は160cm。兄は2メートル。
僕は訓練用のショートソードにレザーシールド。兄は訓練用のグレートソードに金属製のヘビーシールド。
まともに打合えば僕が勝てる道理はない。最初の一太刀をかいくぐり、懐に入れるかどうかに全てがかかる。
集中、集中、集中。
「始め!」
ニヤニヤ嗤いながら悠々と構える兄さん。
僕は身を少し屈めながらすり足で近づく。
兄さんがグレートソードを上段から無造作に振り抜く。
バネ仕掛けの人形のように飛び跳ねる。ギリギリの所で躱す。
「とった!」
「ああ、とった!」
兄の右脇腹めがけてショートソードを振り上げる。
左の視界にヘビーシールドが入ってくる、徐々に大きく、大きくなってゆく。そして意識を失う。
ーーー
パシャッ! 冷たい!
気付けの水をかけられる。
飛び起きる。
「騎士団へようこそ」
「そなたこそ騎士にふさわしい」
「将来が楽しみだな」
声を追う。
声は全て兄へ向けられる。僕への声は一切ない。
「我が騎士団に弱き者は必要なし」
「弱き者は必要なし」
父上と従者から鉛のような声を振り下ろされる。
心が砕けないようにじっと堪える。
「セシル、お前を追放する」