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第二部最終話 四半世紀戦争に関する手記

※※作者から重要なお知らせ※※

小説家になろうで執筆を開始したクローン兵士シリーズですが、第二部の終了を以てカクヨムへ完全移行する事にしました。第三部「傭兵商売」は既にカクヨムにて掲載を開始しています。迷った挙げ句の決断なので、どうかご理解を。第三部「傭兵商売」が完結、もしくはひと段落したら、こちらでも一挙に掲載するかもしれませんが、まだ未定です。

向こうでのペンネームはシロではなく、仮名絵螢蝶になっています。

移行理由は後書きに記しておきますので、興味のある方のみお読みください。



記憶が新しい間に、人の目に触れる事はないであろう手記を書き記しておこう。この手記は多くの古参兵、当時を知る人々を取材し、(正式な許可を得てはいないが)閲覧した軍史編纂室の極秘資料、そして実際に自由都市同盟軍・戦地派遣局員として私自身が経験したこの戦争についての私見である。


開戦の年に産声を上げた私が、停戦の瞬間を目の当たりにした事に感慨を覚える。四半世紀と謳われているが、実際には26年間の戦争だった。


同盟軍人である私の客観性を疑問視する声が出る事は想像に難くないが、(会戦当初においては)戦争の大義は自由都市同盟にあった。世界統一機構の施政は控え目に言っても圧政、個人的な見解を述べれば統一委員会に代表員を輩出した都市国家が、他都市を徹底的に搾取するだけの構造だったからだ。しかも代表員は世襲によって特権を維持し続ける。こんな歪んだ政治体制が存続し得たのは、軌道上に打ち上げられた攻撃衛星群(メビウスリング)による威嚇と恫喝があっての事だった。


しかし、一人の英雄がこの閉塞した状況を打開する。英雄の名は御堂アスラ。自由都市同盟の設立者にして天才軍人、そして天才政治家でもあった。仔細については謎が多いが、後に"軍神"と称えられる英雄はメビウスの輪の無力化に成功した。あくまで"無力化"であって、コントロールに成功した訳ではない。しかし、この快挙によって機構軍は反抗する都市国家を粒子砲で焼き払う事は不可能となった。


英雄は間髪を入れずに照京、リグリットといった巨大都市国家を中核に据えた自由都市同盟を設立、圧政に苦しむ有力都市国家も続々と参加を表明し、あっという間に一大勢力を形成する。同盟元帥に就任した御堂アスラは同盟三傑、ルスラーノヴィチ・ザラゾフ大将、ジョルジュ・カプラン大将、兎我忠冬大将と共に、最大の武器を封印された機構軍に対し独立を宣言した。


独立宣言を終えたアスラ元帥と三大将は、バルミット城で機構軍代表団と会談したが交渉は決裂、こうして自由都市同盟は独立戦争に突入した。


圧倒的物量を誇る機構軍は勝利を確信していたに違いない。しかし、彼らの目論見は儚く砕け散る事になる。御堂アスラは彼らの想像を遥かに超える天才だったのだ。我々のような凡人には奇跡としか思えないような奇襲、電撃戦を次々と成功させた軍神は、硬軟を織り交ぜた交渉で日和見を決め込んでいた中立都市を傘下に引き入れながら、戦線を拡大していった。


開戦当初は楽勝だと高を括っていた機構軍も、本腰を入れて対処せざるを得なくなり、物量を頼んで本格的な反抗を開始した。それでもまだ、大規模な叛乱鎮圧といった体ではあったのだが……


しかし、数的優位を頼むだけのゴリ押し戦術では戦況を打開出来ず、開戦から2年が経過する。このままでは埒が明かないと業を煮やした機構軍首脳部は、躊躇していた国家総動員令を発布。私から見れば悠長なものだと呆れるが、事ここに至ってようやく叛乱鎮圧から総力戦に舵を切った。名実共に、世界大戦の勃発である。


体裁をかなぐり捨てた世界統一機構軍は、この戦争を一気に終わらせるべく、"大津波(タイダルウェーブ)作戦"を敢行。世界各地から戦力をかき集めた機構軍は、圧倒的物量で同盟軍の敷いた防衛ラインを次々と突破。敵性都市を占領しながら同盟首都・リグリット市を目指して、さらに進軍する。怒濤の勢いで進軍する陸上戦艦、大量の戦車及び装甲車、機構軍の主力を為す機甲師団に対し、もはや風前の灯火かと思われた同盟軍は、驚くべき事に"人間"で対抗した。


生体工学によって兵器化された兵士、"生体金属兵(バイオメタル)"は、鈍重な戦闘車両を携行火器で次々と破壊。戦車を遥かに凌ぐ装甲を有する陸上戦艦に対しては、ザラゾフ大将を筆頭に勇猛果敢な兵士達が乗り込んで内部から制圧せしめた。


後年にカプラン元帥は、"軍神アスラはあえて劣勢を演じ、加盟都市の篩い分けを行ったのだ"と述懐している。この証言に裏付けは取れていないが、結果を見れば十分な信憑性があると誰もが思うだろう。徹底抗戦した都市と早々に白旗を揚げた都市への予算配分には明確な差がつけられた。もちろん、差配したのは兎我大将だ。


戦争と政争が渦巻く世界に突如出現した"人"という名の新兵器。思考は硬直し、規律は緩みきった機構軍に為す術などあろう筈もなく、戦史上でも例がない程の大敗を喫した。タイダルウェーブ作戦が大失敗に終わった機構軍は態勢の立て直しに奔走する事となり、同盟軍はあっという間に失地を回復。余勢を駆った進撃でさらなる伸長を見せた。彼我の力関係が逆転するのは時間の問題、誰もがそう思ったに違いない。


しかし、腐臭漂う機構軍にも優れた人物はいた。私は同盟軍人ではあるが、優れた敵手は素直にその力量と功績を称えたいと思っている。だから、機構軍を救った男の名を記しておこう。


バルタザール・アイゼンシュミット大尉、機構軍の命運を賭けた極秘作戦を成功に導いた男の名だ。異名兵士"草原の狼(コヨーテ)"として同盟兵士を震撼させた彼の()()()()を知る者は、ほとんどいない。


特命部隊"ナースホルン"を編成したコヨーテは、極秘中の極秘であったバイオメタルユニット製造工場の所在を突き止め、機密の奪取を試みた。入念に練られた計画の下、敵中深くに侵入した彼らは、ナースホルン隊の全滅という手痛い代償を支払う事になったが、隊長のコヨーテは満身創痍ながらも辛うじて生還した。


コヨーテとナースホルン隊の功績が公にされなかったのは、機構軍上層部が体面にこだわり、"バイオメタルユニットの独自開発に成功した"と喧伝したからである。手酷い裏切りを受けながらも、なぜコヨーテがその後も機構軍人として戦い続けたのか、それは彼にしかわからない。


自己顕示欲の為に功績を揉み消した機構軍上層部の判断には激しく異を唱えたいが、彼らがバイオメタルユニットの製造法を知った事によって、戦局は一変する。人間兵器と人間兵器が殺し合う、人類史上に例がない戦争が始まったのだ。隠れた英雄・コヨーテも完全適合に達し、本物の英雄となった。氷の狼に敗れて戦死した草原の狼への評価は、エース誕生の引き立て役を演じてしまった印象もあって、あまり芳しくない。だが、史学を学んだ者としてこれだけは言っておきたい。彼への評価は不当である、と。


戦争の推移に話を戻そう。開戦から7年が経過し、明らかに戦争は停滞していた。不遜な物言いが許されるならば、開戦当初は冴え渡っていたアスラ元帥の神算鬼謀に翳りが見えたような気がしている。そして、精彩を欠く自由都市同盟は存亡の危機に立たされる事となった。


前線を視察に向かった軍神アスラと盟友の"マスターニンジャ"火隠段蔵が、ヘリの墜落事故で急逝してしまったのだ。大黒柱を失った同盟軍は動揺し、世界各地で敗北を喫する。同盟の混乱に乗じた機構軍の手によって、"兵站の母"と謳われた兎我秋枝は暗殺され、撤退戦の最中に"一角兎"こと兎我忠秋までもが戦死してしまう。しかし、危機に瀕して団結した同盟軍に対し、優位を確信した機構軍は派閥争いが激化、三英傑と東雲刑部の奮闘で、なんとか戦線の立て直しに成功する。


そこからの両軍は一進一退の攻防を繰り広げた。平たく言えば双方が決定力を欠いたまま、戦っては休息、休息が終わったらまた戦うといった不毛なサイクルに突入したのである。上層部批判になってしまうが、この責は三元帥にあるように思う。どちらにも傾く勝利への天秤、劣勢になった時は団結するが、優勢になった途端に派閥争いを演じる。これではいつまで経っても戦争は終わらない。決定機を逃した機構軍上層部と同じミスを繰り返したのだから、無責任の誹りは免れないだろう……


泥沼化した戦争に転機めいた変化が訪れるのは、軍神アスラの急逝から10年以上が経過してからであった。


偶然なのか必然なのか、同盟軍と機構軍に天才が出現する。軍神アスラの娘・御堂イスカと、亡国の皇子・朧月セツナ。もし、戦乱の世に出でし天才がどちらか一人であったなら、戦争は終わっていただろう。しかし二人の天才は同時期に、陣営を違えて現れてしまった。


御堂イスカはアスラ部隊、朧月セツナは最後の兵団を結成し、あっという間に頭角を現したが、天才が天才を牽制する構図を崩せない。実力の伯仲する両雄は共倒れを恐れたのか、直接対決は一度きり。動くようで動かない戦局、またしても戦争は膠着状態に陥ってしまった。だが、暫く後に真の転機が訪れる。まるで運命に導かれたかのように、戦乱の星に新たな彗星が二つ、時期を同じくして現れたのだ。


無名の兵士として軍に入隊した捻くれ者の青年と、帝国の庇護を受ける世間知らずな皇女。魔女の森で邂逅した二人が長きに渡る戦争を終わらせるとは、誰も思わなかっただろう。見所のある新兵に過ぎなかった青年は、無敗の軍人"剣狼"に、権威が先歩きしていた少女は、薔薇十字を束ねるカリスマ総帥"野薔薇の姫"に変貌したのだ。互いを刺激し合う二人は、目を見張らんばかりの急成長を遂げた。


陣営を違える二人だったが、その志は、心は一つ。軍神と煉獄のような"打ち倒す為の進化"ではなく、互いを認め合い"共に生きる為の進化"を目指したからこそ、不可能事に見えた停戦を実現出来た。私はそう思っている。


私は同盟の救世主であり、得難い友人でもある剣狼カナタの戦いをつぶさに見守ってきた。その上で私見を述べれば、剣狼カナタは天才でも英雄でもない。戦争と政争には滅法強いが、素顔の剣狼は、どこにでもいる青年に過ぎないと思う。そんな彼が、なぜ偉業を為し得たのか。答えは私の心の中にあった。


ドリノ・チッチはしがない広報屋、けれど微力ながらも彼の力になれた事が誇らしい。最初は上から命令されて協力していたのに、いつの間にか自発的に協力するようになっていた。力や金で心は買えない。剣狼カナタは、ありふれた権力者のように地位や武力や金銭ではなく、"放っておけない雰囲気で、自然に人を惹きつける"のだ。


軍神イスカのような完全無欠の天才ではなく、欠けた部分がある俗人だからこそ、補ってあげたい気持ちが湧いてくる。剣狼はその不完全さ故に、周囲に人が集まって来るのだろう。私のような小物だけではなく、"災害"ザラゾフや"論客"カプランのような大物(ビッグネーム)をも惹きつけた彼は、堕落した自由都市同盟に"結束と再生"をもたらし、野薔薇の姫と力を合わせて戦争に終止符を打った。これを偉業と呼ばずして、何と呼べようか。


私が四半世紀戦争を総括するのであれば、"数多の英雄でも変えられなかったこの星の未来を、小市民的軍人と庶民派皇女が変革した"、だろうか。


書き記したい事はまだまだあるが、そろそろ酸供連の職員が迎えに来る時間だ。冷凍睡眠から目覚めたら、同盟軍のみならず機構軍の要人にも取材し、戦争を彩った綺羅星の如き英雄達の伝記を執筆しようと思っている。記念すべき処女作は、"災害ザラゾフと熱風公ロドニー・永遠の好敵手"にしよう。物書きの端くれとして、陣営を問わずに手に取ってもらえる伝記を描きたい。


もちろん最終作にして集大成は、"剣狼カナタと野薔薇の姫ローゼ・運命の二人"だ。



いつの日にか、この手記を公表する日が来る事を願って。 


                            同盟軍広報部特務少尉 ドリノ・チッチ


※作者より

第二部519話、第一部を合わせると1000話を超える大長編を読んでくださってありがとうございます!すぐに投稿する第三部「傭兵商売」でお会いしましょう。


カクヨムに移転する理由。

※単純にあちらのサイトで人気が出た。

早い話がフォロー数にかなり差があるので、統合してもっと上を目指したい。要は読者様を増やしたい。

これ以上ない、どシンプルな欲望ですね。

感想返信を1サイトにまとめてやりたい。向こうの方が近況ノートが使いやすく、画像の掲載が簡単というのもありますが、微細な事項に過ぎません。

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― 新着の感想 ―
まさかの第3部かぁ。 数年前に愛憎編ら辺でメンタルぐちゃって離れてから、 それでも忘れられないくらい面白くて久々に開いたら完結してて、急いでここまで早足で若干1000話を読んだが、そうか。 まだまだ続…
こちらも一気読みさせていただきました カクヨムでも引き続き楽しみにさせていただきます イスカはセツナと手を組むのか? そしてガーデンのメンバーはどうするのか? 楽しみにしてます
遅くなりましたが、2部完結おめでとうございます。 剣狼カナタとして戦争が終わったら一体次はどんな展開になるのか、イスカの特大爆弾がどの様になるか、これから更に嫁が増えるのか楽しみにしながら3部も読ませ…
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