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新生編2話 戦場の狼



「敵艦隊、目標地点に到達。」


ノゾミの報告に頷いてから、命令を下す。


「ハンマーシャークに打電せよ。ショータイムだ。」


全速で航行中の敵艦隊の目前で、断崖を繋ぐ橋が爆音と共に崩れ落ちる。先頭を走っていた軽巡は慌てて急ブレーキをかけ、間一髪で落下を免れた。船体の鼻先が宙に浮いた状態の軽巡に戦艦が追突し、船体の1/3ほどが断崖に押し出される様子を偵察機が捉える。


「あら惜しい。もうょっとで真っ逆さまに奈落の底へダイブしてたのに。」


隣のシートに座る小悪魔(リリス)が、悪魔のような笑みを浮かべながら無情な台詞を口にした。


「いや、ラッキーだった。鹵獲した艦船にも報奨金は支給される。」


有象無象の部隊を撃破するよりも、はるかに高額の報奨金が、な。


半ば宙に浮き、完全に無力化した軽巡を見逃してやるほどロブはお人好しではない。ハンマーシャークの主砲が火を噴き、哀れな軽巡から黒煙が上がる。


「敵軍旗艦、後衛艦が回頭を開始!」


やっぱりそうくるか。ま、誰が指揮を執ろうが、この状況ではそれ以外の選択肢はない。相手の行動をコントロールしたければ、選択の幅を縮めてやればいい。今回の選択肢は一本、敗北への一本道だ。


「後衛艦に照準を合わせろ!ハンマーシャークとタイミングを合わせ、後衛艦の足を叩く!……今だ!撃て!」


回頭してる後衛艦の左右から眼旗魚と撞木鮫の主砲が発射され、キャタピラが破壊される。これで軽巡は横向きのまま動けない。残るは旗艦だけだ!


「鞘を外せ。……エクスカリバーを使う!」


「イエッサー!大鞘(ビッグシース)、除装!」


ソードフィッシュの巨大な衝角(ラム)を覆う鞘が火薬の力で左右に分かれ飛び、剥き出しの巨大剣(エクスカリバー)が露出する。


「機関臨界出力!総員衝撃に備えろ!」


巨大なメインブースターと二つのサブブースターが唸りを上げ、陸上戦艦にあるまじき速度でソードフィッシュは突進する。短距離走なら世界最速を誇るオレ達の船だ、避けれるもんなら避けてみな!


衝撃音と共に金属を引き千切る耳障りな金切り音が鳴り響き、巨大な剣は敵軍旗艦の船首を切り裂いて刃を突き立てていた。


「剣先を切り離して全速後退!距離200で爆破しろ!」


エクスカリバーの前半分には液体炸薬が内包されている。安全装置を外すまでは起爆しない二液混合型の巨大炸薬がな。


剣先を切り離したソードフィッシュは全速で後退し、安全距離を確保すると同時に刺さったままの剣先を爆破させた。よし!目論見通り、艦頭に大穴が空いたな。


「ソードフィッシュ、再度前進!艦頭部のパイルチューブ前に白兵要員は集合せよ。リリス、オレは敵軍旗艦に乗り込む!艦は任せたぞ。」


オレは指揮シートから飛び降り、ブリッジの出口へと駆け出す。


「了解。アルマ、敵旗艦は破れかぶれで砲撃してくるわよ。至近距離でも油断しちゃダメだからね!」


「AIの私に油断はありません。不安定な人間とは違うのです。火器管制をオートモードに移行。ラウラ、操舵は引き続きお願いします。」


「任せなさい!燃えてきたわよ~!」


軍帽を床に投げ捨てて金髪を振り乱したラウラさん。ハイテンションモードに入った凄腕操舵手の操る船に痛撃を喰らわすなんてのは、雑魚砲手にゃ無理な芸当だろう。さて、この戦いも最終局面(オーラス)だ。


──────────────────


「サイドAは指揮中隊とシオン隊、予備中隊で編成する。サイドBにはリック、ビーチャム隊が回れ。A班はブリッジの制圧、B班は機関室を制圧せよ。」


「了解したぜ、兄貴!」 「隊長殿、こちらはお任せください!」


頼んだぞ。「鮮血」のリックと「赤毛の」ビーチャム、二人の異名兵士を擁する二個中隊なら機関室の制圧に障害はないはずだ。


問題はブリッジだな。総大将のヒルシュベルガーは一般兵以下の雑魚だが、ヤツの副官「竜巻(トルネード)」ヘルゲンは手練れだ。経験も実績も豊富な竜巻ヘルゲンが指揮を任されていたのなら、ここまで簡単にコトは運んでいなかっただろう。だが不幸なコトにヘルゲンは没落貴族の出身で、ヒルシュベルガーは名門貴族の出身だった。逆であれば理想的な布陣を敷けていたものを、まったく、歪んで腐った世界だぜ。


「無能な名門貴族に翻弄される苦労人か。身につまされる話だねえ。」


元、名門貴族の予備中隊隊長、ギャバン少尉がため息をついた。わがまま放題だったお坊ちゃま時代を思い起こしたらしい。


「坊ちゃん、アッシらは迷惑をかけてた側なんで、身につまされる必要はないんじゃないでやすかねえ?」


主人が没落しようがお構いなく、従者を務める男はギデオン軍曹。悪党面の元庭師だが、忠誠心の塊でもある。


「そうかなぁ。でもギデオン、反省だけなら猿でも出来る。自らを省み、力にしてこそ人間だよ。」


良いコトを仰る。初めて会った時は、思い上がったお坊ちゃまだったってのに、人間、変われば変わるもんだな。……変わったのはオレもか。親の仕送りで半ニートな大学生活を送っていたオレが、今や精鋭部隊の指揮官だ。


「ギャバン少尉、反省会は帰投してからだ。最後尾を固めて力を温存、ブリッジに突入したら能力全開で援護を頼む。」


ギャバン少尉は強力な援護能力を持つが、多数の仲間に念真能力を付与出来るメリットの弊害で、ガス欠が早い。なので、使い処は勝負処に限られる。


「了解。例によってカナタ君以外に、だね?」


「そうだ。仲間は一人も死なせない。パイルチューブ射出!」


第11番隊一の名狙撃手、シオンの放ったパイルチューブが衝角によって穿たれた大穴に吸い込まれ、2隻の戦艦は接続された。


「乗り込むぞ!オレに続け!」


パイルチューブに勢いよく飛び込んだオレは滑走し、敵艦の内部に着地した。床に足を着いた瞬間に、通路の左右から銃弾が飛んでくる。


オレは意志の力を具現化した物理の壁、念真障壁を張って銃弾を防ぎ、脇のホルスターから専用銃「グリフィンmk2」を抜き撃ちして応戦する。未熟者は55口径マグナムの銃撃で始末、障壁を張って防御したヤツは……狼眼を喰らえ!


10秒足らずで1ダースの敵兵を始末したオレは後続の部下達を出迎える。


「オレが先陣を切る。シオンは狙撃銃で援護を。ナツメは最後尾について後ろから来る連中を始末しろ。」


ダー(はい)。」 「後ろはお任せなの!」


「アルマ、オレの網膜に艦内地図を転送。」


レシーバーに指示を出すと、網膜にこの艦の見取り図が映し出される。……ブリッジはここか。


走り出したオレの後ろを着いて来る仲間達。背中に背負った仲間達の為に……敵兵には死んでもらう!


────────────────────


艦内通路でバリケードを築き、必死に防戦する敵兵達を、無慈悲に叩き潰しながら前進する。前進がてら、手早く脱出路を塞いでやったから、艦橋に籠城する以外に手はあるまい。


ここを曲がれば艦橋に続く一本道、そろそろ偵察をしておくか。オレは胸ポケットに刺してあるペンを抜いて、空中に投げた。投げられたペンは変形し、虫型の偵察機(インセクター)になって通路を曲がってゆく。インセクターを介して、視覚情報が網膜に転送されてきた。


艦橋前の大通路に陣取る敵、あれが最後の砦だな。だが、今までの連中と違って隙がない。おっと、画像が途切れた。銃声はしなかったし、インセクターは強風に煽られて通路の壁に叩き付けられたみたいだから、颶風使いがいる。……「竜巻」ヘルゲンだな。


「ダイアモンドフォーメーションでカタを付ける。トップはオレ、右手はシオン、左手はナツメだ。ギャバン少尉はバックポジションで援護を頼む。ブリッジ内ではなく、ここが勝負処らしい。」


「ダー。」 「まっかせて♪」 「いよいよ僕の出番がきたね。」


「3カウントで仕掛けるぞ。3,2,1,ゴー!」


手練れ4人が起点の菱形陣形を取ったオレ達は、最後の壁と交戦を開始する。


「来るぞ!死力を尽くして迎え撃て!剣狼を討ち取れば逆転勝利だ!」


部下に檄を飛ばす長身の金髪。異名兵士名鑑(ソルジャーブック)で見た。アイツがヘルゲン・シュテーリッヒだ。


「さあ来い、剣狼!このヘルゲン・シュテーリッヒが相手だ!」


その覚悟を決めた顔、敵わぬと知っての激励か。……おまえの置かれた立場には同情する。だがアスラ部隊十二神将、剣狼と勝負しようなんざ、10年早え!



……オレは最強の部隊長達に鍛えられた戦場の狼、立ちはだかる者は容赦なく噛み砕く!



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[一言] 艦隊戦なは、浪漫がありますね!
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