目的
もちろんただ感傷に浸るためだけに話したのではない。
「まぁここまでがにおいがするようになった日の話。つまり、ね。大切な人を失ったことが関係していると考えてる。この点に関しては唐草も同じ。」
さすがにここまで言われれば理解する。自分も大切な人を失っている可能性が高いという事だ。忘れた、はずはない。では思い出したくないのか。そちらの方が近い気がする。
いくら自分に問いかけても空っぽのものから返事はなかった。
「できれば思い出してほしいと思っている。思い出も残っていないなんて残酷だよ。」
空は何か懐かしむような顔で言った。
「そうは思わない。」突然海が口を開いた。
「記憶にないってことは相当ショックだったってことでしょ。無理に引っ張り出さなくても今普通に過ごせてるならそれでいい良いんじゃないの?」
海も空も自分の意思ははっきり言うタイプだ。それも人のために。
唐草は表情は特に何も示していなかったけれど話し始めた。
「正直わからない。意見がない、と受け取ってもらっていい。ただ、思い出さなくていいというのは大切なひとの存在を完全に消すことに当たる。かといって思い出せないような存在なんて本当に大切だったのか怪しい。」
唐草はわりかし辛辣に意見を述べる。でもそれもまた人のためなのだ。ある意味この三人は似ている気がする。
「帰ろう。」
唐突に自分がそう言って笑ったことでその場は解散した。
かくれんぼは自分の負けだ。