03-3
今なら深く考えずに答えてくれたりしないかな?
落ち込んでなければ正直に答えてくれるとは思えないけど・・・・・・
まあ、聞いても不思議には思われないでしょ。
「ここにある物ってどこから取り出したんですか?」
「ん? ああ、これは元の世界から取り寄せたんだよ」
言ったー!!
よっしゃ!この調子でどんどん情報を引き出しとこ
「取り寄せるなんて事が出来るんですね。さすが勇者様です!」
「そ、そうかな?」
あ、このまま持ち上げてば、調子に乗ってくれるかも。
「そうですよ! 他には何が出せるんですか?」
「たとえば・・・・・・コレ!」
そう言って、黒い箱に入った何かを渡してくる。
机の上に置いてあった物だが、少なくとも危険物ではないはず。
そんな物を、敵意を持たない女性に渡すはずがない。と思いたいけど・・・・・・
「これは?」
「開けてみて」
上の蓋を取ると、中から甘い匂いが部屋いっぱいに広がった。
「わぁ~、美味しそ~」
「食べて良いよ」
「ありがとうございます!」
香りと物の大きさが一口大に揃えられていることから、食べ物だと思いたい。
蓋を持ち替え、中に入ってる茶色い物を一つだけつまみ、口に入れる。
強い甘み。そして、この香りはカカオかな?
そして、中身で忘れそうになるけど、この箱だってとても軽い。
質感からしてもこれは、紙? 軽さと言い、かなり上質な紙だと思う。
でも、こうやってすぐに渡せるって事は、そこまで高い物じゃない。
やっぱり光佑様の世界は、かなり文明として先を行ってるみたいだね。
「ん~、甘くて美味しいです~」
とろけたような顔で、答えておく。
勇者のお付きメイドになる前の試験で、演技の審査もあったし、そういう項目も含まれているんだろう。正直、こんな子供っぽい人よりも、もっと頼れる人の方が好みだけど、仕方ない。
人類全体が、そんな贅沢を言っていられるような状況にないし、今は好きな人もいないし割り切ろう。
「じゃ、じゃあ・・・・・・これとかどう?」
また、新しい物が差し出された。
それは板を操作した直後、手の上に現れた物。
目を完全に閉じていると思ったのか、それとも気にしないと思ったのか、警戒心がかなり薄れていた。まさに、計画通りである。
子供っぽい甘えるような仕草を追加すれば、警戒も解かれるはず。
「これも食べ物?」
「そうだよ」
目を輝かせつつ「早く食べて」と言わんばかりの表情で見てくる。
危険な思考の持ち主で無い限りは、この表情で毒物を渡すとは思えない。
そうでないことを願いつつ、白い箱を開ける。
「綺麗・・・・・・」
薪を短くしたような形状を白いなにかで覆い、その上に赤い木の実を載せた物が出てきた。とても綺麗で、芸術品としても価値が高そうなほどの物。
上の木の実が彫刻のような物とは考えられないし、下の部分はとても甘い香りが漂っている。
食べずに同僚へ自慢したい!
だけど、情報を引き出すためにもこの場で食べないわけには行かない。
意を決して、それに手を伸ばす。
「あっ!!」
それを手で持ち上げようとすると、予想できないほど柔らかく、力の込めすぎで形が崩れてしまった。
「ちょっと、ここに置いて?」
そう言いつつ、光佑様はフォークを片手に机をコンコンとたたく。
「は、はい」
子供っぽい男性ほど、頼られるのが好きだと聞いたことがある。
光佑様は机に置かれたそれを小さめに切り取り、フォークで刺すと、私の口元へ
「あ~ん」
もしかしたら、これがしたくて出したのかもしれない。
計算だとしたら、まだ警戒して置いた方が良いかも。
しかし、断って拗ねられても困るので、そのままフォークを咥える。
「ん~~~」
食べてすぐ、頬に手を当て、美味しいという表情を見せる。
実際に美味しいから、意識して演技をしなくても良いのは、とてもありがたい。
「すっごく美味しいです!!」
わかりやすいように、光佑様の顔に近づいてみる。
「そ、そう? 良かった」
光佑様はとても照れていた。
どうやら、私の反応としては正解だったらしい。
そういえば、子供っぽい人って大人の女性に憧れとかあったりするのかな?
具体的には、甘えさせてくれる人とか。
そうだとしたら今の私の性格は、もう一人の待女、ルランの方が近いので、変わった方がいい。
どうやったら好みが分かるかな?
・・・・・・ちょっと、賭けだけど、まあいいや。
甘いそれを飲み込んで「コホン」と咳払いを一回。
「す、すみません、取り乱しました」
「あ、いえ」
さっと、顔を元の場所に戻す。
「大変美味しかったです。ありがとうございました」
「そ、それなら良かったです」
あ、大人の女性に憧れがありそう。
さっきよりもさらに照れてるから、これは確定かな。
なら、もう一人も呼んだ方が良い。
「・・・・・・これをルランにも食べさせてよろしいでしょうか?」
「うん、いいよ」
「ありがとうございます。今、呼んで参ります」
これで、警戒心が戻らなければ良いけど・・・・・・。
そうだ!
私は光佑様の耳元に口を寄せ
「さっきの事は内緒にして下さいね?」
とささやいた。
まだまだ続きます。