⑦
「―――さん。青江さん」
「!!」
「大丈夫? 顔色悪いけどトイレ行く?」
「あ、いえ大丈夫です」
「そろそろ帰った方が良くない? 瞳孔君も待ってるだろうし」
「良いんです。もし遅かったら先に帰るように言ってましたから」
「そうなんだ」
猫子さんは納得したようだか本当はウソだ。そんなこと一言も言っていない。
だってお母さん達を殺した琉人にどんな顔をして言えば良いの?
『お姉ちゃんどうしたの?』
私の顔を覗き込む歌子。いけない。こんな小さな子供にさえ分かるほど動揺するなんて。「大丈夫。……大丈夫だから」
自分に言い聞かせる様に呟いて歌子の頭を撫でた。
「……そこまで言うなら良いけど」
猫子さんは怪訝そうに顔をした。
「所で青江さんは『イマジナリーフレンド』て知ってる?」
猫子さんは私に気を使ったのか、話題を変えてくれた。
「いま? 何ですかソレ?」
「イマジナリーフレンド。『想像上の友達又は心の中に継続的に存在する友達の事』簡単に説明すれば空想の友達て言った方が分かりやすいかな」
「ええと。そのイマジナリーフレンドと言うのは多重人格みたいなものですか?」
「違う違う。多重人格者とか二重人格とかは自分の中に他の人格がいるんじゃなくて、どんな性格の人格でも元々は『自分』なの」
「?……つまり多重人格とイマジナリーフレンドは違うモノと考えて良いのですね」
「そうそう。まだ対人関係が理解出来ない幼い子供が良くなる現象だけど、他人と触れ合って大きくなると自然と消えちゃうモノなの」
「へえ~猫子さんは物知りなんですね。そのイマジナリーフレンドは大人にはならないもの何ですか?」
「いんや。確かに幼児がとかが良く表れる現象だけど、大人になっても起きる事もあるんだよ」
「……何だか難しいですね」
「ま、さっきも言った通り空想の友達と考えて良いよ。ところで三日前、青江さんの近所で何か事件とかあった?」
「と言うと?」
「この間青江さんの近所を歩いてたら、アパートに警察やら野次馬やらが集まってさ、詳しく知りたがったけどその時急いでだから野次馬に事情が聴けなかったよね。後で瞳孔君に聞いても『知らねえ』の一言で後はだんまりだし」
「それって○○町のアパート?」
「うん」
「……そこで自殺者が出たんです。大学生の方だったのですけど近所でも評判の好青年だったんです。どうして自殺なんかするのか分からなかったけど、結局分からずじまいで」「はあ~だから新聞とか見ても何にも書かれてない訳だ。『好青年』て言うのもいかにも瞳孔君が嫌いそうな人種だ」
「実はその大学生私の知り合いなんです」
「へっ!」
「野々神さんて方で、バイト先の先輩なんです。近所だったから良くお世話になってたんですけどあんな事になって……猫子さんの言う通り琉人は野々神さんの事好きじゃなかったけど」
「あれ? 確か青江さんとこ親戚の人から仕送りを貰ってなかった?」
「生活費はそうですけど、お小遣いとかは自分達で稼いでいるのです」
「あ~成程」
野々神さんは苦学生でした。
ご両親は幼い頃離婚して母親の方に引き取られ(父親について聞いてみたら嫌そうな顔をしたから聞くのを止めた)それからは母親と二人三脚で頑張ってきた。しかし野々神さんが高校三年の時に母親も亡くなりそれからの生活費や学費をバイトで何とかしている方でした。
野々神さんは私の事を実の妹の様に可愛がってくれました。その縁で家に招いたり招かれたりしていたから自殺したと聞いたときはショックが強かった。
「ところで最後に野々神て人に会ったのはいつ?」
「確か……そうだ。私が気分が悪くなった日の前日が最後に会いました」
「そのとき何かあった?」
「何かって……特に変わりはなかったけど……」
その日は私の家に招いていつも通り世間話をして、いつも通りに時間になったら帰るといった様な感じで……
いや。その日は違う。その日は……




