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何気なく猫子さんは酷い事を言うな。そりゃあ琉人はちょっと乱暴な所があるし怖い顔で周りを睨む癖があるけど。
「琉人は怖い所はあるけど、昔は私が苛められていた時に良く助けてくれたんだよ。まあ、いじめっ子に蹴りを入れたり殴ったりしたけど」
「ほ~あの瞳孔君がそんな過去がね~。意外にシスコン?」
「そうじゃなくって、親が『お兄ちゃんだから』て良く言われているから兄としての使命感があったんじゃないカナ。それに喧嘩だって相手からかかって来ないかぎり暴力はしないし」
「ふーん。見た目で判断しちゃいけない例の一つて事?」
「そう考えてくれてう嬉しいな」
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「……さん、……おえさん?……青江さん?」
雑音が酷くって気分が悪かったけど、猫子さんの呼び掛けで何とか正気に戻った。
「大丈夫?」
猫子さんが心配そうに顔を覗き込んできた。
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さっきから雑音が酷い。猫子さんは大丈夫そうだからこの雑音は私だけなのだろうか。
「ところで瞳孔君と行き帰り一緒?」
「う、うん学校が同じだし」
「へー。ずっと一緒?」
「ずっとな訳ないよ。クラスが違うし。たまに私の委員会で朝早く行かなきゃいけないし」「ああ~青江さん入ってたね~」
「推薦されたのが切っ掛けですけど。ところで大丈夫ですか?」
「何が?」
「家に帰らなくても? 最近物騒ですから」
「そう言えばそうだよね。確か通り魔だっけ? それとも強盗?」
「財布とか物が盗まれてないから通り魔じゃないかな? 今回の事件は」
昨日、街に殺人事件が起きたのだ。しかもかなり残酷な殺し方で。そう言えばつい最近、似たような連続殺人事件があったけど、その犯人捕まってなかったけ? 嫌だな……
「怖いね~。だからウチの学校今日、授業早く終わったのね」
「ええ。なんせ学校の近くで起きましたから。安全の為に集団下校になって、だから私も琉人と一緒に帰ろうとしたんです。まあ私が忘れ物をして戻ってきたけど」
「親は?」
「両親は私が小学校の頃に亡くなってます。今は琉人と妹の三人で住んでいます」
「……ごめん」
猫子さんが気まずそうな顔になった。
「いいえ大丈夫ですよ。親戚の方が定期的に仕送りしてくれるので殆ど自由ですし、それに妹が可愛くて」
妹の話になると思わず顔が綻んでしまう。
「妹さんは幾つ?」
「五歳ですよ。まだ小さいのにお利口さんで。琉人は夜遊びするから世話は殆ど私がするからでしょうね」
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ああ、また雑音。明日耳鼻科にでも行こうかしら。雑音を忘れようと私は眼鏡を外して眼鏡拭きで拭いていた時だった。
『お姉ちゃん』
可愛らしい聞きなれた声が教室に響いた。
驚いて後ろに振り向くとそこには黒髪に金の瞳の女の子がいた。
「歌子!」
間違いない。あの子は私の妹の歌子。
「どうして来たの!?」
『お姉ちゃん遅かったから来ちゃった』
「来ちゃったじゃないでしょ! 黙って入ってきちゃダメでしょ!」
『ごめんなさ~い』
「もう……琉人は?」
『お兄ちゃんは外にいるよ~』
「はあ~」
……何かあったらどうすんのよ。
「あの~青江さん?」
「ああ、ごめんなさい。さっき話した妹の歌子。ほら歌子ご挨拶」
『初めまして』
猫子さんは会釈をしてくれた。会釈した時に夕日が眩しかったのか、眉間を顰めていた。




