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「で、これからどうするんだ?」
「何が?」
「警察。通報する気か?」
「どうせ証拠は瞳孔君が消しているんでしょ? 証拠もないのに警察なんか呼んだって無駄だし。……どうせ通報したらあたしを殺すでしょ?」
「分かってるじゃねえか」
「何か月瞳孔君のトモダチでいたかしら?」
「…………お前の口からその言葉が聞けるとは思わなかったぜ」
「ちなみに『友達』て言ったのアンタの大事なユイちゃんよ」
「……」
あっ、顔を反らしたけど口元がにやけているのを見逃さなかった。
「最後に一つ」
「何だ」
「いつか青江さんに殺されるかもしれないけどそれでも一緒にいるの?」
「可愛い妹に殺されるなんてそれこそ本望だよ」
「……」
シスコンじゃなくて共依存じゃないか? そんな考えが頭を過ぎった。
「これからどうすんの?」
「取り敢えず町から逃げるわ。可能な限り証拠隠滅したげど、最近のユイは派手にやらかしてるし、隠滅の限度がなー。お前の兄貴もそろそろ気付いてきてるんだろう?」
「犬兄があたしに何でも話す訳ないよ。……ただ最近青江さんと瞳孔君の事を聞いてくるけど」
「そうか……」
瞳孔君から重い溜息が出た。
あたしは言葉を濁したが恐らく分かったのだろう。
警察は瞳孔君達に嫌疑ではなく容疑の眼で見てるのを。
「んっ……」
瞳孔君の息が青江さんの顔に掛かったのか少し呻き身体を捩じらせた。
瞳孔君は「悪い、起きたか?」と身体を屈んで下ろそうとした。
しかし青江さんはちょっと身体を動かしただけでまだ寝始めた。
寝息が聞こえると瞳孔君は青江さんの頰付いていた髪を払った。
「……ユイに何の『お呪い』をしたんだ?」
「大した事してないわよ。ただ、青江さんは『絶対に自分の親しい人は殺さない』て言っただけ」
「……それだけか?」
「青江さんは自分の殺人欲求が彼女の親しい人を傷つけるのが嫌だから死にたかったんでしょ? だからそんな心配しないように『お呪い』をかけたの」
「………………殺人は良いのか?」
「何で? 別にそれは良いんでしょが」
あたしの一言に瞳孔君は驚愕の表情を浮かべた。
「お前は……人殺しを……容認してんのか」
「だって君はソレはどうでも良いんでしょ?」
「……まあな。ユイの衝動はユイに嫌な事をしない限り出ないからな」
「でしょ?」
「それじゃあ帰るわ。これからの事をユイと話さなきゃいけないし」
もう一度青江さんを抱きかかえると 瞳孔君は教室から出ようとした。
「琉人君」
彼の名前を呼ぶと琉人君は足を止めた。
「さっき思い出したけど、ウチの刑事やってる兄貴が校門でお向かいにくるんだ。友達を連れてね」
「………………ご忠告どうも」
それだけ言うと琉人君達は教室から出て行った。
ただ、出るときミーコの方を見て「一緒に行くか?」と声を掛けた
しかしミーコは頭を左右に振った。
琉人君は最初からミーコの答えに分かっていたのか、親しい友人に向ける様な温かな笑って「達者でな」その言葉を残して教室から消えていった。




