表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫子さん  作者: 柊 風水
12/16





「いい加減出てきたら?」

 気絶した青江さんを優しく床に寝かせるとあたしは立ち上がった。


「乙女の語らいを覗き見するなんて最低ね……瞳孔君」


 ゆらりと教室の外から瞳孔君が出てきた。いつも以上に睨んだ瞳が恐い。

 瞳孔君の足元からさっき出て行かせた猫達がぞろぞろと入って来た。

 猫達はあたしの足場近くに固まった。ただし一匹だけ瞳孔君の足元に座っている。灰色のミーコだった。


「……お前の口から『乙女』の言葉が聞けた事に俺は驚いているぜ」

「酷いな~あたしもうら若き乙女だよ~」

「はっ」

 鼻で笑われた。お姉さん悲しい。


「それにしても良く今の今まで出て来なかったね。シスコンの瞳孔君ならあたしが君の親の話をした時点で殺そうとすると思ったのに」

「出ようとは思った……」

 瞳孔君が言葉を切って足元にいるミーコに視線を移した。


「止められたのね」

「ああ……」


 納得。瞳孔君はミーコしか言う事しか聞かない。例外は青江さんか。

 最初に言っとくが瞳孔君は猫の言葉は理解出来ない。ただ阿吽の呼吸と言う言葉があるように何年も一緒にいたミーコなら言葉が分からなくても雰囲気が何かで分かるだろう。


『お嬢。ユイが迷惑をかけまして……』

 ミーコは頭を下げた。

「良いさ。ミーコの頼みだもの。『青江さんの悩みを無くして欲しい』て言ったから叶えてあげただけよ。後、瞳孔君も」

「俺はついでかよ」

 そんな悪態を付きながら瞳孔君は青江さんを抱きかかえていた。


「これ返すよ。青江さんの大切なモノでしょ?」

 青江さんの腕にあるものを置いた。瞳孔君はよりいっそ眉間に皺を寄せた。

 

 ―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「これ『歌うテディベアマール』じゃん。しかも今は絶版になった初期タイプ。めっちゃ貴重な物じゃん。……まあここまで酷いと価値はなさそうけど」


 『歌うテディベアマール』はその名の通りマールと言う名前のテディベアが数パターンの簡単な歌を歌うぬいぐるみだ。歌の他にも(これも限りがあるが)お話が出来ると言う訳で当時はそれはそれは売れた事だ。ただ、製造元がこれの初期バージョンの製造を中止してからマニアに取って根強い人気がある。しかしこれは損傷が酷過ぎて価値はほぼないのだが。


「……ユイにとっては大事なものだ」

「だろうね。この継ぎ接ぎの部分もほつれた所も全部青江さんが縫ったんでしょ?」 

「ああ」

「瞳孔君のお祖母さんがプレゼントしたのね」

「ああ。四歳の誕生日の時にな」

「で、この子の名前は本来の『マール』と言う名前じゃなく『うたこ』に着けたのね」

「初めてこいつが歌を歌った時にユイがひどくびっくりしたんだ。だからそんな名前にした」

「それから大事にしているうちに架空の妹『歌子』になったのね」

「…………ああ」


 小さい頃の青江結子は人見知りの激しい子供だった。

 その性格のせいで周りの友達と仲良く出来なかった。その性格はいじめっ子共には恰好のからかい相手だった。


 小さい頃の青江琉人は乱暴者の妹思いの子供だった。

 いじめっ子達にいじめられる度に結子は泣き、その度に兄である琉人がいじめっ子にやり返した。

 ただ、琉人のやり返しは度が知れていて、いじめっ子が骨折してしまった事が度々あった。

 その様な問題を起こす度に二人の両親は琉人に厳しい折檻をした。そして結子はその度に悲しんで怯えて後悔して人見知りが激しくなった。


 そんな時に出会ったのは『歌うテディベアマール』いや、結子にとっては『うたこ』が名前として正しいのだろう。


 四歳の誕生日。両親はいつもの様に自分達の仕事を優先し、祖母と双子の三人だけのお誕生日を開いていた。

 プレゼントは祖母が用意してくれた。

 琉人は前々から欲しがってた変身ベルト。結子は何も欲しいものを言わなかったため祖母は考えた末プレゼントしたのが『うたこ』だ。


 結子はとても驚いた。

 結子はぬいぐるみと言う物は喋らない物だと信じていたから、『うたこ』が『森のくまさん』を歌ったのを初めて聞いたときはぶっ倒れる程の衝撃を受けた。起きた後、初めて興奮をした。そしてぬいぐるみの名前を『マール』から『うたこ』になった。


 それからは毎日どんな時でも結子は『うたこ』と一緒だった。

 毎日の出来事を『うたこ』にいつも話していた。話す以外にも寝かせつけたりご飯を食べさせるようにしたりした、


  最初はおままごとだった。結子はおままごとをしてくれる友達がいない。(琉人おままごとをするのは嫌がった)だけど『うたこ』は簡単なものなら喋れるためその言葉に合わせる様におままごとをしてるのだ。他の人形も確かにあったが祖母から貰った『うたこ』を特に可愛がった。


 いつからだろうか。

 おままごとがおままごとでなくなったのは。  


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ