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猫子さん  作者: 柊 風水
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 私だ。


 私が。


 お母さん達を



 


  殺した 












「――さん! ―江さん! 青江さんしっかりして!」

 どうやら私は倒れてしまったのだろう。猫子さんが抱き起してくれた。


「落ち着いて! 一体どうしたの!?」

 猫子さんの言葉に最初は理解できなかったが、どうやら私は頭を抱えて叫び続けてるらしい。別に私の意思で叫んでいる訳じゃなくって身体が勝手に叫んでいる感じ。

 ここで私は心と身体は別な行動をとれる事が分かった。


「あ……私が! 私がお父さん達をころ、殺した!」

「へ?…………はあ!?」


 あ~あ。私ったらなんて事言ったんだろう。でも現実に戻ってくるとジワジワと心と身体が一致するようになった。……悪い方向だけど。

 いきなりの私の爆弾発言に猫子さんの顔をも驚きで眼がひん剥いている。


「青江さん今何て言ったの?」

「だから……! 私が! お母さん達を! 殺したの!!」

「え、ええ~!!」


 また驚く猫子さんをよそ目に私の口から言葉が溢れ出てきた。さっき思い出してしまった記憶の全てを猫子さんに話した。

 猫子さんは驚きの表情をしながらも、私の言葉に真剣に聞いてくれた。


 全部話した後私は立ち上がった。


「わた、わたし、私死ななきゃ。死んでお詫びしなきゃ死ななきゃ死ななきゃ死ななきゃ」


 ポケットからある物を出した。それはピンク色の人気キャラクターが描いているボールペンだったが、そのキャラクターの形をしたノックを縦にではなく横に倒した。

 その途端、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その刃先を喉に押し当てて――――


「だめ―――!」

 切る寸前に猫子さんに私の腕を取られた。

「は、離して!」

「は・な・さ・な・い!」



 猫子さんの手を離そうと足掻くが、もみ合った拍子に猫子さんに怪我をさせてしまうのを恐れて強く抵抗出来ない。

 ついにナイフを落としてしまった。急いで拾おうとしたがその前に猫子さんが取り上げられてしまった。


「……何で、死のうとするの?」

「だ、だって私人を殺したんだよ?」

「だからって死ぬことじゃないじゃん!」

「でも私お母さん達以外の人を殺したのよ!!」

「…………まさか、昨日の殺人事件」

「そうよ私よ! ついでに昔、連続殺人があったでしょ? あの犯人も私よ!!」

 





 そうなのだ。両親の事を思い出したついでに思い出した。

 私が中学の頃だった。当時私は同級生に虐めにあっていた。

 原因は単純でくだらない。その主犯の子の好きな人が私に告白したこと。その告白を私が断った事。

 ならばどうしてその意中の相手に主犯の子は告白しないのか?

 実は私に告白する前に主犯の子が告白をして振られたからだ。それで彼女のプライドがズタズタになったのだろう。


 それから陰口、ハブ、靴隠し等々虐めらしい虐めは受けてきた。

 何度か教師陣に相談したが事流れな態度でロクに取り上げてくれながった。

 私は耐えに耐えた。琉人から何度も学校を辞める様進めたけど『大丈夫』て言った。

 本当に大丈夫だったのだ。当時後一年で卒業だったし、両親から同じような事をされてたから忍耐があった。我慢出来たのだ。我慢を我慢し続けてコップが溢れそうになるまで我慢出来たのだ。

 そのコップを粉砕させたのは主犯達の性なのだ。

 

 あの日突然あいつらが部屋に来たのだ。私が親が居なかったのがあいつらの眼に着いたのだろう。リビングを好き勝手して部屋を荒らして帰るだけ。のはずだった。


 偶々リビングにうたこを置いていたのだ。それをあいつらが発見した。

 あいつらは『汚い』とか『臭い』とか(ちゃんと洗っているから汚くも臭くもないのに)好き勝手言った。私が止めてと言ったのが面白かったのが振り回したり踏みつけたりしたのだ。そのときにうたこの首や腕から綿が出たり、黒い目が取れてしまったのっだ。


 その時、私は両親が殺した時の様な感覚に囚われた。


 ただ、あの時と違うのは偶然外出していた琉人が帰ってきたあいつらがその場で帰された事。その時は一旦冷静になったのだが、あいつらの誰かの顔を見るたびスイッチが入る。 その時に急激な眠気はそのスイッチが入ったのだ。立った眠っていたのではない、意識が飛んでいるだけ。


 飛んでいる間に私はあいつらを殺してたのだ。


 両親と同じ様に。ナイフで醜く殺した。


 虐めの主犯達が一人、また一人死んでいくに連れて学校や生徒は私に疑いを向けた。


 しかし虐めを黙認していた負い目や琉人が睨みを利かせてくれたお蔭で警察にはバレなかったようだ。

 ……この時も私は琉人に助けてくれた。それなのに私はあいつらを殺した事すら忘れていた。


 そして昨日。昨日の被害者は当時の私の担任だった。

 学校帰りに偶然再会した。

 虐められた当時、私が何度も訴えても『気のせい』で片付けて何にも手立てをしなかったせいで余り良い思いはなかった。だから私は早くこの場に離れていたかった。


 なのに担任はさっさと帰ろうとする私の腕に掴んで裏路地に連れ込んだ。

 話の内容は予想通りで主犯達の事だ。


 『あの時は何にも言えなかったけど、犯人は貴女でしょ? 今なら間に合うから警察に自首しましょう。私も行くから』


――一気に喋られて良く覚えてないがこんな話だった気がする。

 最初に説明するが、私はこの時両親の事や主犯達を殺した事をすっかりと忘れている。この時の私が思っていた事が一つ。


 私が『助けて』て言った時に助けなかったのに何言ってんの?


 私は『知らない』『分からない』『間違いでは?』この三つだけ言って離れようとしたが担任が私の腕を掴んでひたすら『自首しましょう』『一緒に警察に行くから』とかいって離さない。


 段々イライラしてついにまたあの感覚になった。


 偶然目についたパイプを手に取った。 




「主犯達の時はうたこの事があったけど、担任の時はうたこと関係なかったんです。ただ、イライラして堪忍袋が切れた形で殺したんです。私は『うたこ』と関係なく殺せる様になったんです」

「……だから」

「怖いんです。このままだと私、私、琉人を、大切な、殺したくない人を平気で殺しそうになる気がして怖いんです!!」


 私は思い出してしまったのだ。

 今まで私を虐げていた人が泣き叫んで命乞いをする姿を。虐げていた相手からされるがままにされる姿を。私はそれを笑いながら見ていたのだ。


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