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ある夜会のことである。
この国の王子であるアシュラは愛する人の姿を求め会場のドアが開くたびに鋭い視線向けては、ため息をついてた。
(なんであんなことをしてしまったんだ、、!自分を愛してなくていい。それでも隣にいて欲しかったのに!)
嘆いてももう遅い。彼女は結婚してしまったのだ。アシュラがもう一度シルヴィアを婚約者に戻そうと動いている間に、、
何度目になるのか数え切れないくらいため息をついたアシュラは会場がざわついたため、再度ドアに視線を移した。
「シルヴィア、、!!」
そこには、恋い焦がれて止まない彼女の姿があった。
思わず駆けよろうとして隣の男性に目がいく。
(誰だ、あの男は)
金髪碧眼で髪を肩に切り揃え、線が細いががっしりした男は愛しのシルヴィアをエスコートしている。
(そこにいるのは自分のはずだった!シルヴィアをエスコート出来るのは自分だけだったのにっ!!)
嫉妬で狂いそうな自分を落ち着かせ、シルヴィア達に歩み寄る。
彼女は腰まで長い銀の綺麗な髪を緩く巻き、サイドを編み込んでいる。全てを見透かされそうなくらい綺麗な蒼い瞳は今日もキラキラと輝きを放っていた。触れてしまうと消えてしまうのではと思うような儚い姿は以前のままだが、以前と違い彼女に色気が漂っている。
「シルヴィア、、」
アシュラに気づいたシルヴィアは隣の男とこちらに歩み寄る。
先に口を開いたのは男のほうであった。
「本日はお招きいただきありがとうございます。エイーンバーン家次期当主のルシュドでございます。」
その声に会場全体が震える。
「ルシュド、、だと!?」
「左様にございます。」
変わり果てた彼の姿に皆も驚きを隠せない。どこからかポツと
「こんなに格好よくなられるのであれば私が結婚したかった、」
と聞こえた。それを耳にしたシルヴィアは
微笑みを強め、ルシュドに絡ませていた腕にしなだれかかった。まるで「ダメよ彼は私のもの」と言わんばかりの行為である。
ルシュドとシルヴィアの絵になる姿に人々は感嘆の声を上げる。
「お久しぶりにございます。アシュラ殿下。この度は素敵な夜会にお招きありがとうございます。旦那様と共に楽しませていただきますわ」
シルヴィアは丁寧に礼を取る。彼女の洗練された礼に色気が増え、男どもが股間を抑え我先とトイレに駆け込んで行く。
「ひ、久しぶりだな、シルヴィア。元気そうで何よりだ。」
恋い焦がれで止まないシルヴィアを前にこんなチンケな言葉しか出ない自分を悔やんだ。もっと気持ちを表にして、愛を囁き続けていれば、今シルヴィアの隣にいるのは自分だったのだろうか。どんなに嘆いてももうシルヴィアは自分のところには戻ってこない。
シルヴィアの笑顔に胸が痛い。
「ええ、素敵な旦那様を見繕ってくださってありがとうございます。シルヴィアは今幸せにございます」
と今までのような儚い笑みではなく、花が咲いたような笑みを見せたシルヴィア。
(あぁ、彼女は今本当に幸せなのだろう)
自分の婚約者だった頃にこんなシルヴィアの笑みは見たことがなかった。人形のように、ただひたすら美しかったシルヴィアが今は感情を出している。
涙が溢れてしまわないようにぐっと堪えながら気を引き締め、ようやくこの失恋に向き合えそうだと思った。
「ところで本日はレイチェスさんは?」
愛しのシルヴィアの問いにアシュラは
固まった。