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と思ったのはいつであったか、遠い過去のようにも感じる。
目の前で人間なのかも怪しいほどマナーのかけらもなく肉を貪って、いや、食べている婚約者を見て引きつった。
「ルシュド様、そんなに焦らなくともお肉は逃げませんわ」
「熱々の美味しい内に食べたいんでぶ!!」
「、、、、、、、」
そう、1キロたりとも減っていないルシュド。むしろ増えてね?幸せ太りか?
私はせっせと毎日のようにエイーンバーン家に通っている。ルシュドはなんというか、とてもわがままであった。
運動をさせようと走り込みを進めると
「僕は走るの嫌いでぶ!」
健康のためも含め食事制限を進めると
「我慢に我慢を重ねて死ぬより不健康でも美味しい物を好きなだけ食べて死ぬでぶ!」
思い通りにならないと癇癪を起こし地団駄を踏み寝っ転がり手足をバタバタさせる。子どもか!いい大人が何しとるんじゃ!!!親の顔を見てみたいわ!見てるけど!!!あの親からどうしてこのような状態になっているのか不思議でたまらない。
「僕は食べたら人より太ってしまう体質なんでふ!仕方がないんでぶ!」
と叫ばれた時には思わず
「他の人の身体に入り込んでわー!食べても食べて も太らなーい!と体験したことでもあるのですか?自分の怠惰を言い訳しないでください!」
と叫んだ。
髭はかろうじて剃らせた。それだけでもまぁまぁ見れるようにはなった。かろうじて。
正直何を促してもああ言えばこういうルシュドに手詰まりである。癇癪を起こした日には地震か!というほどの衝撃が屋敷中を巡る。
一方でいかんせん仕事はめちゃくちゃ出来る。仕事の時はデブの語尾はつかないし、指示も的確。威厳さえ見えてくるほどだ。それ故に目をつぶってもらえているのであろうか、、
私は作戦Bに移った。
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「エイーンバーン家ルシュド殿。汝如何なる時も妻を愛し抜くことを誓いますか?」
「誓うでぶ!!」
「エルティア家シルヴィア殿汝如何なるときも夫を愛し共に支えることを誓いますか?」
「誓います」
私達は結婚した。というか無理やりねじ込んで結婚を急いだ。流石に式はねじ込むことは出来ずであったため、当初の予定通りの時期に行うが制約をさっさと身内でしたのだ。この契約めいた儀式ももちろん式の時にも行う。しかし先に籍を入れる必要が私の目的にはあった。
身内の拍手が聞こえる。
「シルヴィアちゃん、、!!!」
ルシュドの母が号泣している。ルカリオも涙をたたえている。
私の家族は娘が何を考えているのか測るような目をしていたが、結婚自体は喜んでいる。
卑屈豚と絶世の女神のような美女との結婚という2人に神父はとても不思議そうに、そして私に気の毒そうな目を向けていた。それは周囲も同じで異様な光景になんとも言えなさそうであった。
まぁいい、これで作戦Bの実行に移れる。
「ルシュド様これで私達は夫婦です。」
ほくそ笑めばルシュドも号泣していた。
え、、なんで?
「こ、こんな僕なんかが、シルヴィアと結婚本当に出来るなんて、なんて、幸せでぶ。もうきっとこの先良いことは起こらないでぶ!」
ルシュドはシルヴィアをとても大切にしていた。ルシュドは自身の見た目のせいで令嬢と目も合わせて貰えないことが多く、そんな彼にシルヴィアは一度たりとも視線を逸らしたことがなかった。気持ち悪いと視線を投げることも。それもそうだ。シルヴィアには未来の自分が磨きあげたルシュドを見据えていたのだから。
「さぁルシュド様。今夜から励むわよ」
ルシュドにはシルヴィアが何を言っているのかわからなかった。
それがわかったのはその日の夜であった。シルヴィアはルシュドと閨を共にした。そして何十回も励んだ。
1番の運動と言ったらこれよね!
シルヴィアは自分は極力動かずルシュドを可能な限り動かした。
ルシュドはシルヴィアと愛し合えるのがとても嬉しく頑張った。
「ルシュド様!今夜はこれをしましょう!」
キラキラと輝いたシルヴィアの笑みにルシュドは顔を赤くさせながらも引きつった。
籍を入れたあの日から、閨は絶倫であった。休むこともなく次々とアクロバティックな体勢を求めてくる。
シルヴィアはどこから情報を得てきたのか不思議なくらいさまざまな体勢を指示した。
「ひいーー!」
と根をあげるのはいつもルシュド。しかし彼の身体は確実に痩せていった。ルシュドが休みの日には丸々一日中やり続けた。
そんな彼らを周りは
「あらあら、孫の顔を見るのは早いかしら」
とニコニコで受け入れた。
ふふふふ!良い調子!いくらわがまま癇癪持ちでも男は男!閨を嫌がるわけないわ!
作戦Bが功を成したことを満足気にしているシルヴィア。彼女も毎日のアクロバティックに体力をごっそり持っていかれていたが、どんどん運動(!?)をし痩せるルシュドにやりがいを感じていた。
ここで畳み掛ける!
時にはルシュドを乗馬に誘い、運動は嫌でぶ!とゴネれば
「私が乗りたいのです。ですが、不安で、私の横を歩いてくれますか?」
と上目遣いでお願いする。それくらいならと了承したルシュド。
馬をものすごい勢いで走らせその横にルシュドを走らせる。そしてタイミングを見計らって自分がドジして落っこちる、という演技を忘れない。落ちてくるシルヴィアを必死に受け止めなければいけない為ルシュドは走る。そしてシルヴィアを受け止める。これをひどい時には丸一日やった。
そしてまた時には
「私の剣の練習の相手を欲しいの、何かあった時私の大切な人を守れるように」
とこれまた可愛い上目遣いでお願いするとルシュドは了承する。
「きええええええ!!!!!」
もちろんシルヴィアは公爵令嬢とは思えないほど強く、その技を力の限りルシュドに放った。
「ひえぇぇぇぇ!!!!」
逃げ回るルシュドを追いかけ、ルシュドも男だ、頼れる姿を、と剣を構えてはボコボコにされる。これをやはり頻繁に、休みの日には一日中やった。
脂ギッシュな肌は乾燥からきているため行為の最中に
「こうすれば興奮を高められますの、普段より素敵なことしましょう?」
と甘い言葉で言いくるめ、高級なジェルをルシュドの全身に塗りたくった。毎日。
そうして彼の肌の調子は最高に綺麗になった。
気づけばルシュドは、引き締まった腹筋、腕力、綺麗な肌、細い身体を手に入れたのだった。顔の肉がなくなり金髪碧眼の彼はルカリオを若くしたかのような、美青年へと変化、(進化?)していったのであった。