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2−2:努力の価値

その後、同じクラスということもあり、メグとはちょくちょく話をするようになった。


ガングロ亜佐美ともたまに話をした。

ガングロは学校では化粧を控えていて、全くの別人で、同じクラスだったことにびっくりした。



なぜかそこにトシも加わって四人で輪になって放課後、話をした。


ふと気づく。

卒業式まで一週間を切った。



「なぁ、卒業する前に四人で遊びに行こうぜ!!」


俺達以外に誰もいない教室で トシはそう提案する。



「いいねえ!!行こう行こう!!」



亜佐美はテンション高く賛成する。

俺もメグも異論はない。



「じゃあどこ行く??」


メグがそう聞くと、トシは有名な某遊園地の名をあげた。



「混んでんだろ」


俺は却下した。

人が多いところは嫌いだ。



「別にいいじゃんかよー、ジョニー

思い出つくろうぜー」



トシは気味悪い猫なで声で俺をつつく。




「メグは??」



「私は別にいいよ」



メグは笑顔を見せて答える。



「さすが恵ちゃん!!

亜佐美も別にいいよなー??」



「もちろん!!

行こう行こう!!」



亜佐美も屈託なく笑った。

皮肉なことにメイクしてない方が器量はいい。


「じゃあ決まりだな」



トシはにやけながら俺を見る。

この国を民主主義にしたのは誰だよ。心の中で愚痴る。



「じゃあ俺は帰るな。

トシが言い出しっぺなんだから日にちはお前が決めろよ」



「はいよー」



俺は扉に手をかける。


「あ、私も帰るね。

ジョニー、一緒に帰ろう??」


メグは席から立ち上がる。



トシはヒューヒューと口笛を吹く。



うるせぇ っと一喝してやった。








廊下でとっつぁんとすれ違う。

頭を下げる。


とっつぁんはヒューヒューと口笛を吹く。


まったく、どいつもこいつも。




「今更なんだけどさ、メグは高校どこ受けたん??」


帰り道、俺はこんな質問をメグにした。


メグは少し驚いた顔をした。



「へ!?

嫌だな、ジョニーと一緒だよ」



「そうなの!?」


驚いた。

そんなことは初耳だ。


そんな表情に気付いたのか、メグは頬を膨らました。



「ジョニーはなんも知らないんだね」



「言われなきゃ知れないだろ」



「一応断っとくけど、ジョニーと私の受験は関係してないからね?!」



ツンとした言い方に少しむっとした。

わかってるよ っと少し強く言い返した。

いやな空気が漂う。



「メグ、昼飯どうする??」


そんな空気を一掃するため、昼飯のことを聞いた。

卒業式一週間前、ということもあり、学校は半日だ。

つまり俺達は腹ペコということだ。



「んー??

多分家に帰って作るよ。

なんで??」



「いや、一緒に食わないかなって」



「え……」


予想だにしない反応だった。

メグの頬は紅くなる。

俺の頬も熱くなる。


「俺の家で食ってけよ。

ばぁちゃんもメグに会いたがってたし」



「…じゃあお邪魔しようかな……」


「じゃあ行くか」



「うん」



本来、二人で帰るときに別れる別れ道を、別れずに歩いた。






「ホントに遊園地行くんかな??」



「多分ね。

なんで??ジョニー嫌なの??」



「嫌ってわけじゃないけど、人が多いとこは嫌いなんだよな」



「それは…つまり嫌ってことでしょ??」











……………

しばらく無言で歩いた。




再びしゃべりかけようとしたときだった。



十字路から人が飛び出しぶつかる。



「あてっ」


俺とメグはハモる。



「いてぇな……」



俺は顔をあげると、見覚えのある顔があった。


「あ!!テメェ!!」



男は声を張り上げる。



「えっ??」



男は黒髪で学ランを着ていた。

同じ学校ではなさそうだ。


誰だっけ??

見覚えはあるが知り合いではなさそうだ。



「ジョニー、知り合い??」



メグは俺の肩をつつく。


「いや、見覚えはあるんだけど……」



俺は小声でメグにそう返す。



「……テメェ、覚えてないのかよ……??」



男はぷるぷる震える。



「悪いけど……」



「ほらぁ、思い出せよう!!

お前の中学に殴り込み行った特効服着た男いただろ!?」



「あ」



思い出した。

コイツ俺がボコボコにした奴だ。


「なんだよ、テメェかよ。

ずいぶんと様変わりしちまってるからわかんなかったよ」



前は特攻服にそりこみだったのに、今では学ランを第一ボタンまで閉め、七三分けだ。

見た目はすっかり変わっている。



「テメェこそ人のこと言えんのかよ??

あぁコラ??」



確かに。

少し前の俺は髪は今の二倍は長く、金髪だった。



「まぁいいや。

なんか用でもあんのかよ??」



「用だぁ??

大有りだよバカ野郎!!」


男は拳を振り上げる 。


「うぉ!!?」



倒れはしないが、頬に鈍い痛みが走る。

久々に感じる痛みだった。



「ジョニー!!

あんた!!なにすんのよ!!」



メグは若干引いたが、男に向かう。



「うるせぇぞブス!!

オレぁコイツのせいでデビルスを辞めるはめになったんだ!!!」



「俺全然関係ないじゃねえかよ」


唾を吐く。

血が混じって少し赤い。



「テメェにボコボコにされたからだよ!!

デビルスは喧嘩で負けたら破門なんだよ!!」



男は学ランを脱ぎ捨てる。



「ますます知ったこっちゃねえ。

喧嘩に負けたのはお前の実力じゃねえか。

それに仕掛けたのはテメェだろうが??」



俺は男を睨みつける。




「うるせえ!!

とにかく、ぶっ殺ぉす!!!」



男は再び拳を振り上げる。

俺はとっさに身構え、カウンターを狙う。



「ジョニー!!

手ぇ出したらダメだよ!!」



メグの言葉でカウンターを取りやめた。

バックステップで男のパンチをかわす。



「ジョニー、そのまま手ぇ出しちゃダメよ!!

誰か呼んでくるわ!!」



メグはそう言って走り出した。


俺はようやくメグの考えを理解した。

多分メグは警察を呼ぶ気だ。


もし警察が来てお互いに喧嘩になっていたら、高校合格が取り消しになりかねない。


それを防ぐための配慮だろう。


予想よりもメグは早く警察を引き連れてきた。


メグの後ろには二人の制服を着た男がついてきていた。

一人は若く、もう一人は初老だった。



「なぁにをしてとるかぁ!!?」


初老の警官からかなりの大声が飛び出す。




その声に俺の目の前にいる男の手は一瞬固まる。

男は瞬時に俺に背を向け、足を大きく踏み出した。


そうはさせるかよ。


俺は肩をがっちりと掴む。



「逃がさねえよ」




「はなせコラァ!!!」



その後、すぐに男は二人の警官に取り押さえられた。


メグは俺に駆け寄る。


「大丈夫!?」



「平気」




男は若い警官に羽織締めにされていた。

そして初老の男性はこちらにちかづいてきた。



「傷は平気かの??」


先程の声と同じ主とは思えない程、穏やかな声だった。



「大丈夫っす」



「ふむ。

なら、交番まで一緒に来ていただけるかね??」


「この子はなんにもしてません!!」



メグはいきり立つ。


「わかってますよ。」



初老の警察官はメグをなだめるように言った。



「お話だけお伺いしたいんですよ」



と警察官は付け加えた。



「わかりました。

じゃあメグ、今日の約束はなしで。

明日あたりに行こうってことでいいか??」



「………うん。わかった。

じゃあ明日ね……??」



「おぅ」



メグは背を向けたら、こちらに一度も振り返らずに帰っていった。




「デート中失礼しましたな」



警察官は帽子を取って、深々と礼をした。



「いえ」



「では行きましょうか」


「はい」




「離せよ!!!」


男は往生際が悪く、交番に拘束されてもまだ暴れていた。


だがガッチリと若い警察官に羽織締めにされているので、無駄なことだった。




「うるさいのぉ……

袴田君、奥の部屋で事情聴取してくれんか??」



「わかりました」



袴田と呼ばれる若い警察官は返事をして、男と一緒に奥の部屋に入っていった。






「さて、と。

じゃあいくつか質問するよ??」



初老の警察官は真っ白なヒゲを撫でながら、紙を取り出した。



「はい」



「名前を教えていただけますかな??」



「小日向 譲二です」



ボールペンで紙に記入していく。






「名無しのごんべいだよ!!」


「そんな名前があってたまるか!!

ちゃんと言いなさい!!」


奥から声が聞こえた。

どうやら事情聴取は同時進行しているようだ。



「ふむ……

譲二君、悪いんだけど、先にあっちから終わらせてくるから待っててくれるかな??」



「わかりました」



「すまないね。

その冷蔵庫にジュースが入ってたと思うから、喉が渇いたら飲みなさい」


そう言うと、初老の警察官は奥の部屋に消えていった。


「君は高松中の生徒だね??」



「ち、ちげぇよ!!」



奥の部屋から声が響く。

軽く息を漏らし、冷蔵庫に手をかけた。

遠慮なくジュースを貰うことにした。



「君の学生服から生徒証が出てきたよ??」



「だからちげぇって!!」



グラスが見当たらなかったのでラッパ飲みした。


炭酸飲料だったのでゲップが出た。

空きっ腹に炭酸飲料は染みるな。




「宮原太一君だよね??」



「だからちげぇって言ってんだろうがよ!!!!」




アイツ、宮原って言うんだ。

俺は爪をいじりながらあくびをした。


それから数分してからだろうか。


交番に高松中の教師だという男がやって来た。




「ではこちらへ」


袴田はその先生を奥の部屋に招き入れた。


二人は奥の部屋へ消えていく。

教師はその間、俺をチラリとも見なかった。







そして更にしばらくして、袴田と初老の警察官が出てきた。



「どうしました??」



「二人にしてほしいって言うからね」



袴田が答えた。



「しかし、これで高校不合格なんてなったらかわいそうですね」



「これ、袴田」



初老の警察官は袴田を睨む。



「す、すいません」



袴田は頭を下げる。




高校不合格??

アイツが??



理由はどうあれ、アイツも変わろうと必死だったはずだ。

暴走族から抜けて、学校に通ってる内に、受験を意識し始めて、必死だったんだ。

そうじゃなきゃ学ランを第一ボタンまでしめたりしない。


あいつの努力はこんなことで無に帰すのか??


「………あの……」



「ん??」



「アイツ……宮原は不合格になっちゃうんですか??」



「まぁ、高校への連絡は免れないだろうね。

もしかしたら、もしかするかもしれないね」



袴田は初老の警察官に聞こえないように耳元で呟いた。


「小さくとも暴行だからね。

君に切り傷一つでもできたら傷害だし」



「そうですか……」






「…………………

お巡りさん……」



「なにか??」



初老の警察官に声をかける。


「俺は宮原とじゃれてただけです。

今更で申し訳ないんですが……

勘弁してもらえないっすかね??」



「ふぅむ??

どう思う、袴田君」



「は……。

私には……彼を救いたいからついた嘘にしか見えません…」



「そうかい……

そうだよなぁ……」



初老の警察官は目を細め、なにもない空間を見つめている。まるで彼にはなにか見えてるみたいだ。



初老の警察官はそのまま動きもせず、目を閉じたまま言った。



「まぁいいか。

本人もこう言っとる訳だし。

袴田君、彼連れてきて」



「え!?

あ、はい!!」



袴田は奥の部屋に向かい、教師と宮原を連れてきた。




この度は大変ご迷惑を、と言いながら教師は頭を下げた。

宮原は涙目だったと思う。



「実は彼が被害を取り下げると申しまして」



教師は光が指したように頭を上げた。



「ホントですか!!」



「ええ、良かったですね」



袴田君は微笑む。




「ありがとうございます。ありがとうございます」



教師は袴田君に何度も頭を下げる。

良い意味で米搗きバッタみたいだ。



「お礼は彼に」


袴田君が指した手の先には俺がいた。

教師はビッビッとこちらに向き直し、再び頭を下げる。



「ありがとう!!ホントにありがとう!!!」



教師は涙ぐんでいた。



「いえ、そんな気にしないでください。

一回殴られた程度ですから」




その間、宮原はポカンとしていた。








「おい!!!!!」



俺は交番からの帰り道、後ろを振り向く。


宮原だった。




「おー宮原」



「人の名前を気安く呼ぶんじゃねーよ!!」



「別にいいじゃねえかよ」



「俺に同情したつもりかよ!!?」



「あぁ、そうだよ」



「ふざけんな!!

お前に同情されるほど落ちてねえ!!!」



「もう同情しちゃったんだからいいじゃねえか。

大人しく受け取っとけや。

それにお前なんかのために、あんなに頭下げてくれる人がいるんだ。その人の苦労考えたら、とてもじゃねえけど……」



俺は再び前をむいて歩いた。

宮原はその間、なにか叫んでいたが、俺は後ろ手で手を振った。



振り返って、宮原の姿が見えなくなってから、ケータイでメグに電話をかける。

一回の着信では出なかったが二回目の着信で応答があった。


大筋を説明し、メグに謝った。


メグは笑って許してくれた。


翌日、学校が終わり、またメグと二人で帰路についた。


「昨日は悪かったな」



「平気だよ。

ジョニーったら朝からそればっか」



メグは笑う。

今日は雨なのでハッキリではないが笑っていたと思う。



「じゃあ今日こそ家で飯食ってかない??」



「いいの??」



「ああ。

今日はばぁちゃんに言ってきたから、ばぁちゃん張り切ってるよ」



「じゃあお邪魔する!!」


メグは笑った。

今度ははっきり見えた。



別れ道を一緒に歩いた。


曲がり角には自販機がある。自販機の角に設置されたゴミ箱は雨に濡れていた。


その横にはまたなにかあった。






「よぉ」



宮原だった。

今日の宮原は学ランの下のワイシャツに代わり赤のボーリングシャツを着、学ランのボタンは全て開いていた。

昨日までの七三分けはオールバックになっていた。



「なによあんた?!

まだジョニーに用なの!?」



「うっせえ!!ブス!!

黙っとけ!!」



「なによこのブサイク!!

あんたジョニーが優しいからってあんまり調子に乗るとあたしがフルボッコに……」



「メグ……」



俺はメグを制する。




「宮原……要件は??」



「…………話がしたい」


宮原は一言そう言った。



「雨も降ってっし、どっか店入らねえか??」


宮原はそう提案してきた。


俺は宮原に歩み寄る。

雨が数滴当たる。



「ふざけんな。

なんでお前を優先しなきゃいけねえんだよ。

俺は今このコと一緒にいるんだ。

だったらお前が出直すのが筋なんじゃねえのかよ??」



「なら別にそのコがいても構わねえよ」


宮原は舌打ちをした後に言う。



「こっちが構うんだよタコ」





「私は別にいいよ」



メグは口を開いた。



「喧嘩になったら止める人がいるでしょ??」




「ジョニー、そう言ってんぜ??」



宮原はニヤニヤする。




今度は俺が舌打ちをした。

夢(22/43)俺達は学校の近くの喫茶店に入った。

店からは相変わらず、作曲者のわかるぬクラシックが流れていた。



「ホット」


「ミルクティー」



俺とメグは前回と同じものを頼んだ。



「俺はパフェ」



宮原はパフェを頼んだ。

頭おかしいだろ。なんでここでパフェなんだよ。甘党かよ。







「で、話ってなによ??」


届いたミルクティーを一口飲んだ後、宮原に聞いた。



「……謝っとこうと思ってな」



宮原は店の奥をしきりに除いていた。パフェが気になっているのだろう。



「謝る??」



「昨日は二人の邪魔しちまったからな」



「二日連続で邪魔しといてよくいうよ」



メグは椅子に深く腰掛け直した。





「まぁな」



宮原は苦笑する。


そこにパフェが届く。

宮原は嬉しそうにパフェの上に刺さってるポッキーをかじった。



「あとジョニー、昨日はありがとう」



「あ??なにがよ??」



「お前のおかげで合格取り消しにならずに済んだ」



「タコが。

そうなることがわかるんなら、喧嘩なんて売るんじゃねえよ」



言ったあとコーヒーを一気に飲む。



「悪かったよ」



宮原はうつむきながらパフェを食べる。

どっちかにしろ。



「とにかくありがとう。

俺が高校行けるのはお前のおかげだよ」



パフェを食いながらお礼を言う。


だからどっちかにしろって。





「馬鹿かお前、高校に行けるのは誰のおかげでもない。

お前の努力の成果だ

話が終わりなら帰るぜ。メグ行こう」



俺はメグの手を引き店を出る。

会計は宮原に任せることにした。



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