1−7:アンサー
髪を黒染めして、耳と目が出るくらいに切った。
鞄や靴も学校規定のものを購入した。
トシは坊主にした。
なぜ坊主なのかは知らないが坊主にした。
五厘刈りだ。
寒そうだ。
そしてトシは空手部に入部した。
決意の現れで坊主にしたのかはわからないが、とにかく坊主だ。
トシはメキメキと腕を上げた。
もともと格闘技の才能があるらしかった。
俺は勉強にいそしんだ。
俺はさほど頭が悪くないので偏差値は目に見えて上がった。
学年一位、とまではいかないが、学年十位くらいには入れた。
なぜだか時間はあっという間に過ぎた。
それはきっと、今まで自分のやりたいことをしていなかったかからだ。
時間の流れを早く感じたのだろう。
冬休み、受験生である俺は勉強に更に力を入れていた。
そんな俺の気を使ってか、トシは俺を遊びに誘うことはなかった。
そんな冬休みが終わり、始業式の放課後、俺はトシを呼び出した。
「よぉ」
トシは手を上げた。
とても久しぶりだった。
「よぉ。悪いな忙しいとこ」
俺も手を上げた。
誰もいない教室は静閑としていて、寒々しかった。
ついこの間までは、暑くて、熱くて、たまらなかったのに。
「大丈夫だよ。
今日は部活休みだからよ」
尚更悪いことをした気がする。せっかくの休みなのに。
「……寒いな」
「そだな」
会話はなかなか続かなかった。
「なんか照れくさいな。
久々だからかな??」
トシは頭をかいた。
「そうだな…。
部活の調子はどうなんだよ??」
「絶好調だよ。
この前の大会は準優勝だった」
「すげえな。
始めて何ヶ月ってレベルなのによ」
「まぁ白帯の大会だからな。
今度昇段試験受けんだ」
「そっか。頑張れよ」
「あぁ。
ジョニーもこの前のテスト、スゴかったな!!」
「んなことねぇよ。
………俺よ、美浜高校を受けることにしたんだ…」
俺は本題に入った。
美浜高校とは都内にある偏差値六十五の有名都立進学校だ。
「美浜!?
すげえなジョニーは!!」
トシは自分のことのように喜んでくれた。
胸にこみ上げる嬉しさは計り知れない。
トシが女なら抱きついているところだ。
「さんきゅ。
トシはどこ受けるんだよ??」
「俺は江南。
スポーツ推薦でな」
江南とは私立のスポーツの名門高校だ。
「そっか。
………頑張れよ!!」
「おぅ!!
ジョニーもな!!」
「今日はこれだけ言いたくてよ。
忙しいとこ悪かったな」
実はまだ言いたいことがあった。
あまりに恥ずかしいことなので、日を改めて言うことにしよう。
「あぁ。
ありがとう。
ジョニー、オレ等、高校離れても友達だかんな??忘れんなよ??」
………先に言われてしまった。
全く、こいつはなぜこんな恥ずかしいことを惜しげもなく言えるのだ。
「……あぁ。
ありがとうトシ!!
お前と会えてほんとよかったよ。
お前はどこ行っても俺の最高のダチだよ」
なぜか、俺もこんなことを言っていた。
俺はなにか心のつっかかりが取れた気がした。
なにか、電撃のようなものが全身をゆっくりと駆け巡った。