1−6:クエスチョン
「本当にいい加減にしろよぉお前等ぁ!!」
俺等は全身が痛むなか、生活指導部の顧問に説教された。
「ふざけんな!!
オメェ等の代わりにオレ等が行ったんだぞ!!」
トシは一人抗議する。
トシ以外は抗議する元気もなく、ただうつむいていた。
「そんなもんはぁ理由になんないんだよぉ!!」
「じゃあなにが理由になんだよ!?」
「うるさいんだよぉ!!!」
トシと顧問はこのやりとりを数回繰り返していた。
「中村先生、その辺で…」
生活指導室のドアが開き、とっつぁんがそう言いながら入ってきた。
「銭町先生ぇ、甘やかしちゃ駄目なんですよぉ!!」
「まぁまぁまぁ、私がキツぅく言っときますから。
とりあえず生徒と私だけにしてください」
そう言いながらとっつぁんは顧問を、生活指導室から追い出した。
とっつぁんは生活指導室のドアの鍵を閉めた。
「お前等、すまんかったな。
あのとき儂がすぐ出て行けばよかったんだが……」
とっつぁんは深々と頭をさげた。
「全くだよ」
俺は生活指導室に入って初めて口を開いた。
初めての言葉はとっつぁんを責める言葉だった。
いけないとわかりつつも、言わずにはいられなかった。
「儂等の代わりをお前等がやってくれて感謝してる。
本当にすまんかったな」
「けっ」
だが、いざ素直に謝られると言い返すこともなかった。
「まぁ言い訳をするとな、高松中に行ってたから学校にいなかったんだよ」
そりゃどうしようもないことだろう。
さっきの一言を悔いる。
それでも素直に謝ってくれる、とっつぁんは大人の男として尊敬できる気がする。
「ジョニーとトシが喧嘩したのはわかるが、なんでボノ達も参加したんだ??」
「え、僕っすか??」
ボノは相変わらずぶよぶよした口調だった。
こいつがキリリとした口調になるのは喧嘩の時だけだ。
「えっとぉ、三年の教室から音がして、なんだなんだ と思ったら校庭でジョニーさん達がたった二人で喧嘩しててー
先生達は全然興味なさげで、このままじゃ二人がヤバいって思ったからっすかねぇ」
喧嘩の後とは思えないほのぼのとした口調だ。
「んー………
なるほどなぁ」
とっつぁんは頭をかいた。
「後ろの四人も同じかー??」
とっつぁんはボノの後ろにいる四人に聞く
「そうっす!!」
四人はハモって答える。
「じゃあ二年はもう帰っていいぞ。
保健室の先生と病院行ってこい」
「はい」
ボノ達は退場する。
俺とトシは??と思っていたら、とっつぁんが口を開く。
「お前等、進路はどうするんだ??」
なぜここにきて進路の話なんだ??
疑問と不満がふつふつと沸いた。
「朝も言ったろ。まだ決めてねえって」
とトシ。
「まだ決めてねえってもう三年の一学期が終わるんだぞ??
進学か就職かくらいは決まってるだろ??」
ととっつぁん。
「だからまだ決めてねえって言ってんだろ!!」
とトシが声を荒げる。
俺は静かに口を開いた。
「なぁとっつぁん」
「なんだジョニー??」
「俺とトシはさ、この中学のために喧嘩してんだぜ??」
「それは知っとるよ。
昨日の喧嘩も今日の喧嘩も、いつだってそうだよな??」
「でもよぉ……みんな迷惑そうな面でこっちを見やがる。
俺等はテメェ等のために喧嘩してやってんのにだぜ??
笑っちまうよな??俺等がいなかったらテメェ等全員、他中のカモになってんだぜ??
なのに今日の喧嘩が終わって、ここに来るまですれ違った奴等は俺等のことゴミみてえな目で見てたよ。
今日がはじめてじゃねえけどな。
いつも喧嘩明けの日はいつもだ。
俺とトシがやってることは悪いことだと思うか??
違うね。
これは善行だよ。
俺等は無能なお前等の代わりにここを守ってんだよ」
俺は前から思ったことをぶちまけた。
その間、トシと とっつぁんは黙って聞いていてくれた。
「トシ、お前もジョニーと同じように思うか??」
とっつぁんはトシに聞く。
「まぁ、な。
けどオレはジョニーみたいに考えが深い訳じゃないよ。
オレは気に入らない奴等と喧嘩しただけ。
オレは喧嘩する理由があろうがなかろうが、気に入らない奴がいたら喧嘩するしよ。
でも理不尽だなって思うときだってあるよ」
「そうか」
とっつぁんは顔を歪めた。
それは俺等の言葉に不満を感じたのではなく、むしろ、自分のふがいなさを恥じているようだった。
そして一言
「お前等もう不良やめろ」
とっつぁんは言った。
俺は思わず立ち上がる。
足に痛みがあったが、全く気にならなかった。
「じゃあ誰がここを護るんだよ!?」
「守る必要なんてない。
もう生徒だって中学生なんだ。自分を守るくらいできるはずだ」
とっつぁんはゆっくりとした口調だった。
「でも…!!」
「大丈夫だ!!
いざとなったら儂が出る」
「テメェ等先公なんざあてにならないんだよ!!」
「おいジョニー!!」
トシが俺に怒鳴ってきた。
いつのまにか役割が逆転していた。
トシに止められるなんて初めてのことだった。
「確かに儂等は今回はあてにならなかった。だが次からはキチンと対応する。
信用してくれ。」
「でも…!!」
「それに!!お前等が犠牲になってまで誰かを守る必要はない。
今は自分のことだけを考えればいいだろう」
とっつぁんは俺を遮り言った。
「よく考えろ。
よく考えてお前等がなにを望んでるのかをはっきりさせるんだ。
お前等がよく悩んで、考えて、それででた結論なら儂はなにも言わん。
他の先生方にもなにも言わせない。
今日はもう帰れ。病院行くんだぞ。」
とっつぁんは鍵を開けて出て行った。
残された俺とトシの間に、ほんの少しの空白ができた。
よく考えろ、こんなありふれた台詞を深く受け止めたのは初めてだった。
そして俺は俺がなにを望んでるのか考えた。
必死で考えた。
トシやボノにも相談した。
ばぁちゃんにも色々聞いた。
とっつぁんにも聞いた。
俺自身にも聞いた。なにをしたいのか、と。
簡単には答えはでなかった。
きっとトシもそうだったろう。
もしかしたら 考えてないかもしれない。
だけど心配はしなかった。
アイツは本能で正解を選択する。
いままでもそうだった。
そして俺は答えを決めた。