1−2:トシ
コイツの名前は飛田俊夫。
俺はトシと呼んでいる。
「さんきゅ。」
俺はアクエリアスを半分飲んで、返す。
コイツもアクエリアスに口をつける。
俺達はいつも半分こだった。
子供のときから、ジュースも、お菓子も。
中学からは喧嘩もそうだった。
「なぁ、あいつ等もうウチにちょっかい出してこねぇよな??」
トシはアクエリアスをちょびちょび飲みながら聞いてきた。
「さぁな。次は来たらトシの番だからな。」
「喧嘩嫌いなんだよオレは。」
「俺だって別に好きじゃねえよ。」
俺とトシはローテーションで喧嘩してる。
ウチの中学は不良が少ない。だから周りの中学からカモにされる。
喧嘩が強い奴なんて全然いない。
だから二人で護るんだ。
喧嘩が嫌いでも、護らなきゃいけない。
期待も、社会からの目も全部背負ってでも、護らなきゃいけないのだ。
中学に大事な人がいるわけじゃない。
単純に、傷ついた人を見たくないだけだ。
「帰るか??」
俺は、トシがアクエリアスを飲み干したところを見計らって聞いた。
トシは缶をゴミ箱に捨てる。
「そだな。
ジョニーは飯どうする??」
トシには家族がいない。
いないというより家族としての呼べる人間はいなかった。
父母はすでに離婚して、トシは経済力の関係で父に引き取られた。
父は仕事一筋の人らしく、ほとんど顔を合わせないらしい。
食事は、いつも机の上に置いてある金で済ませている。
したがって、必然的にトシの食事はカップラーメンだの、コンビニ弁当になる。
「一緒に食わん??
奢るぜ??」
トシはそう言ってきた。
トシは金だけは多くもらっていた。
きっとトシの父は、愛と金の掛け方をはき違えているのだろう。
「いや、いい。
そだ。家来いよ」
「いいのか??この前もお邪魔しちゃったし……」
俺がこう誘うと、トシはいつも遠慮がちだった。
「大丈夫。トシが来るとばぁちゃんも喜ぶしよ」
一方の俺は父母は既に死んだ。
残った俺はばぁちゃんに引き取られた。
金はあんまりないけど、優しくて、料理上手で、俺は大好きだ。
ばぁちゃんの喜ぶ顔は特に好きだ。
「じゃあ……お邪魔しようかな…」
「おう。
じゃあ行くか」
俺達は公園を出て、街に出た。
行き交う人は血が付いた俺達に目をやる。もう慣れっこだ。
夕日は既に沈んでいる。