表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

3−3:融解点

俺はより一層深くなった夜が渦巻く街にいた。

ほとんどの店が閉まり、開いているのはコンビニや夜の店だけだ。



そんな静寂と夜がある深夜の街に、静寂を破る音がした。


徐々に音が大きくなっていく。



単車の音だとすぐにわかった。

そして暴走族だというのもわかった。


音の方に振り向くと単車の運転手が刺繍の入った作業着を着ていたからだ。



単車は二台。

内の一台は2ケツしていた。つまり人数は三人ということだ。



俺はジッとその様子を眺めていた。



巨大な音を振りまき、俺の横を颯爽と抜けていく単車。

その様子をジッと見つめる俺。



また音が大きくなり、単車は俺の横に止まった。



「なに見てんだ小僧!!??」



単車に乗っていた三人がこちらに歩いてきた。



俺は三人の顔をそれぞれ見た。


年は高校生くらいだろうか??

髭などを生やしているが顔に幼さが残っていた。


しかも全員ひょろひょろだ。

これなら楽に勝てると思った


次に単車に貼ってあるステッカーを見た。


「クレイジー・ロード・オブ・デビルス」だった。




「なんとか言えやクォラァ!!??」



相手は俺の胸ぐらを掴んできた。



「離せや」



俺は相手の腕を掴み、思いっ切り握った。



「っててて!!」



相手はすぐに胸ぐらから手を離した。



「このガキャあ!!!!」



相手は殴りかかってきた。

すかさずかわし、相手の懐に入り込み、鼻めがけて押し出すようにパンチした。


気持ちいいくらいに決まった。



相手は吹っ飛び、歩道の向こうの自らの単車に激突した。


「テメェ!!」


二人は声を揃えて殴りかかってきた。



一人目のパンチはかわせたが、二人目のパンチを頬にもらった。


こっちもひるまず殴る。


相手がひるんだところで襟首と腕をとり大外刈りをかけた。


受け身を知らないのか、男はもろに腰を打ちつけた。



一人になった男に向き直る。


男は構えてはいたが悔しげに唇を噛んでいたいた。



「テメェどこのもんだ??

デビルスに喧嘩売るなんざ、まともじゃねえ」



「喧嘩売ってきたのはテメェ等だろ。

自己防衛ってもんだろ」


男は押し黙る。



「どうすんだよ??

まだやんのか??」




「ちっ!!

おいテメェ等行くぞ」



男は倒れた男を起こし、バイクにまたがった。



「おい!!

覚えとけ!!後悔させてやんよ!!

絶対ぶっ殺すかんな!!」



男達はそう言って夜の中に消えていった。


だから喧嘩売ってきたのはお前等だろう。



そう思いながら、俺は夜の街赴いた。




俺はなにをするでもなく歩いた。

時刻は深夜でありながらこの街は夜でないようだ。


多くの交通量に多くのネオン。




歩いているといつの間にかホテル街にいた。


この建物の中でチンコ突っ込んでんだな、なんて思っても自分自身のは一ミリも立たない。



向こうからひと組のカップルが歩いてきた。

なぜか腹が立った。


喧嘩でもするか。



この時の俺はどう考えても狂っていた。

女連れに喧嘩売るなんて、どうかしている。







歩く速度を上げて男の肩にぶつかる。


ここで俺がなにか言う予定だったが男から突っかかってきた。


「どこみて歩いてんだテメェ??」



男は金髪のパンチパーマに龍柄のシャツを着ていた。

なかなかガッチリした体格だった。



女の方にふと目をやる。


無気力な目をして俺を見ていた。

そんな女に俺は見覚えがあった。


「………メグ??」


その言葉に反応したのか 女は顔を上げて俺を見た。


やはりメグだった。

乾いた目をしていて普段のメグとは全く違う。

俺と同じ目をしている。



死んでいる。


彼女もまた死んでいるのだ。




俺は瞬間、男を思い切り殴った。

倒れたところを馬乗りになり更に追撃した。



メグはそんな狂った俺を止めようともせず、ただ目の前の光景を眺めていた。



殴っている最中、これが本当にキレてるんだな、と渇いた気持ちで思った。




俺は馬乗りを止め、立ち上がり、メグの手を取った。



メグの手を引きながら走り、ホテル街を抜けた。



小走りより少し速いくらいで走りつづけた。



いつのまにか、いつぞやの初めてメグと話した公園の前にいた。




「…………ちょっと休もう」



俺は公園に入り、ベンチに腰掛けた。


メグも無言で隣に腰掛けた。





体が火照る。


真っ暗な空間を電灯が少しの範囲だけを照らしていた。

そこにほんの少しの虫が集まっていた。






俺とメグの間には全く会話がなかった。



「なんか飲む??」



沈黙に耐えかねた俺は自分から話かけた。



メグはなにも答えず、首を横に振った。



そんなとき、ぐぅ と音がした。



なんの音だろうか??



しばらく考えた結果、腹の音だとわかった。


もちろん俺の腹からではない。

ということはメグの腹からだ。






「腹減ってんの??」



そう聞くと、メグは黙って縦に首を振った。



俺達は三分もせずに公園を出て、二十四時間営業のファミレスに入った。



店内にはまばらに人が入っていたが、入り口から一番離れた位置のテーブルに、特攻服を着た団体がいた。



店員は気を使ってくれて、離れた位置のテーブルに通された。



「好きなの頼んでいいよ」



メグはしばし黙っていたので、俺が適当に二、三品頼んだ。

ドリンクバーも頼んだのでコーラを二杯持っていった。



メグはうつむいている。


「どうした??」



メグは黙りこくっている。



「まぁ話したくないならいいけどよ」



俺はコーラをちょびちょびと飲んだ。


軽くげっぷをした時、それを合図にしたようにメグが口を開いた。



「私も卒業式行かない」



「ふーん。

別にいいんじゃん??」



本当に別にいいと思った。

メグの考えていることは全くわからない。わからない以上は俺が口を挟む問題ではない。

なにより、今の俺には人を気に掛ける余裕などないから。




そしてまた沈黙が流れた。

離れた席から汚い笑い声が聞こえる。



しばらくして頼んだピザとドリア、スパゲティを店員が持ってきた。


「ジョニーは??」


俺がピザを切り分けているとメグは俺に聞いてきた。


「なにが??」





「卒業式」



「さぁ

どうだろうな。

正直行く気になんねえよ」



切り終えたピザを一枚口に運ぶ。


チーズの味しかしなかった。

口直しにコーラを口に含む。




メグもピザを一枚食べ出した。



「ジョニーはこんな夜遅くなにしてたの??」



「別に」



「手、腫れてるよ」


メグに言われて手をみた。

手の甲が紫色に腫れていた。



「ん??

あぁホントだ」



「ごめんね」



メグは言いながら、俺の手を両手で包み込んだ。


図らずもドキッとした。


「大丈夫だよ。

明日んなりゃ治る」



冷静を装って、空いている片手でコーラを飲んだ。


なにかが手に当たる。

全体はメグに包まれ暖かいはずなのに、当たった一点だけ温度が下がる。


メグの方に向き直る。


うずくまっていた。

すすり泣きのような音が聞こえた。



その音は徐々に大きくなり、泣き声に近付いていく。





「女なかせるなんて兄ちゃんもやるなぁ!!」


と、奥の席から声がした。

振り返ると特攻服を着た男達がニヤニヤしてこちらを見ていた。




「あの……大丈夫でしょうか??」



店員までもが心配して聞いてきた。




「あ、大丈夫です。

すいません、お会計いいですか??」



俺は慌てて、メグの手を引いて支払いをして、家にメグを連れ戻ってきた。

支払いの際に、まだ手をつけてないから、ということでドリアとスパゲティの料金は割り引いてくれた。


イケメンで胸につけている名札には店長と書いてあった。

心がイケメンだと顔もイケメンなんだなと思った。




「なんで泣くんだよ」



「だって……だって……」



こんなやり取りを帰り道に数回した。


夜はより深く染まる。












家について、まず暖かいお茶を二人分出した。


音を立てて茶をすする。




それからは、狂ったように話した。今まで会えなかった分を取り戻すように。

なんで学校に行かないのか、とか

なんであんな男と歩いてたのか、とか

卒業式行かないのか、とか

こんなことを話してる内に、深みを増していた夜はいつの間にか、一周して温かみを帯びた朝日が闇を照らし始めていた。


俺の心に溜まって、固まった何かが、音をたてて溶け、流れた。




学校に行こう。


俺はメグにそう言った。


「学校……行くかな

な??メグ」



「うん……そうだね」



メグが言ったあと、しばらく、心地よい沈黙が続いた。

そしてメグがあくびをした。

時刻は朝四時。


メグはおそらく、全く寝ていない。



学校に行くならどんなに遅くとも八時には家を出なければいけない。



「軽く寝ろよ。

適当な時間になったら起こすから。

あ、制服も取りに行かなきゃだしな」



「それは大丈夫」



そう言うと、メグは持っていたバッグをゴソゴソ漁りだし、ブレザー上下とワイシャツを取り出した。



「じゃあ軽く寝るね」


メグはそう言うと床に寝ようとした。



「おい、俺の部屋で寝ろ。布団もあるしよ」



「ここでいいー……」



「おい、メグ」



メグはもう寝ていた。




「………風呂入ろ……」



俺はのそのそと風呂に向かった。


脱衣場の鏡に映る自分の顔を見た。


顔中の険がほぐれ、目には精気が宿っていた。


俺が縛られていたことはこの程度のものだったんだ……


その呆気なさに俺は、鏡に映る俺を鼻で笑った。

鏡に映る俺も俺を鼻で笑っていた。




真っ裸になり、シャワーの蛇口をひねる。


冷たい水がしばらく流れた後、熱湯になった。

その熱湯に水が混じり、四十度くらいのお湯になった。


そのお湯を全身に浴びた。









風呂を出て、久しぶりに制服に袖を通した。


ふと気づき、辺りを見回す。

死の気配は綺麗さっぱり消えていた。


風呂を出たあとは、まず味噌汁を作って米を炊いた。

時刻は五時。


まだまだ時間がある。

洗面所で黒染めの液を探した。

発見したものの中身は余り残ってなく、伸びきった俺の髪が全て染めるのは難しい。


まぁ形だけ、と思い、容器に水を足して水増しした。



それを頭にふりかけ、クシで全体に伸ばした。

付属の説明書を見ると一時間ほどで髪は染まるらしかったが、水で薄めたので一応、あと三十分おいた。



また風呂場で髪を洗った。

完璧な黒とは言えないがまぁ大丈夫だろう。



メグを起こし、味噌汁とご飯で飯を食べた。

そしてお茶を飲み、軽く談笑して八時丁度に家を出た。



外は雲一つない晴天だった。

風が吹いていた。

暖かい陽が二人を照らす。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ