1災目 戻らない日常
夏も終わりかけのある夕暮れ時、鳴りやまない蝉時雨。
名残惜しそうに留まる空色と夕日の茜色、白月を引き連れた夜の藍色が混ざりあった空。
また明日ねと手を振って帰る子供達。
そんな何気ない日常を破壊する様に、”それ”はやってきた。
フランス革命に天下統一。
三国志に世界大戦。
そんな動乱の時代とはかけ離れたこの現代で、何にも変わらない日常は続いていく…
筈だった。
突如世界を襲った未曽有の大災害。急激に海面が上昇し、あらゆる国が海へと飲み込まれ消えていった。
たった一国、どうしてか無事だった日本を残して。
日本はその大災害、通称”天災”を乗り越え、苦心の末に復興の為に生き残った世界の人々と僅かな国々の破片を日本へと統合した。
そして、あらゆる国の人々を迎えた人類最後の新国家”新東京”と名を改めた。
しかし、天災は尚も深く人々に甚大な影響を与えていた。
”空を飛べる”
”触らなくても物が動かせる”
”手から炎が出せる”
人々は天災以降、誰もが人智を超えた能力を手にするようになった。
やがて、新東京で安息を得た悪人はその能力で悪事の限りを尽くすようになった。
善人もまた能力を用い、彼らと対抗するようになった。
新東京はその後1年間、多くの者が能力を使用したことで多数の犠牲者を出した。
天災での犠牲者がなかった1億2千万の日本人と、日本に救われた凡そ3千万の外国人たち。
総人口1億5千万ほどだった新東京は、たった1年で5千万人、3分の1へとその数を減らし、同時にそれだけの犠牲者を出してしまった。