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錬製の勇者~鍛冶師ですが、最強です~  作者: シウ
第一章 第一部 「外の世界へ」
8/8

第八話 「学院」

連続投稿は、これで終わりです。

次の話は、思いつき次第投稿したいと思います。誤字やおかしな箇所などがありましたらご報告をお願いいたします。

朝早くに出発した馬車に揺られる事、凡そ半日が経った昼頃、蒼とアカリを乗せた馬車は六か国が協力して作り上げ、平和の礎と言う名を冠する魔法を学ぶ「フリーリア魔法学院」に到着したのだった。


「やっと着いたか‥…うう~ん、ふぅ」


そう言いながら固まった体を解す様に手を上に挙げて伸びをしながら解している蒼とは対照的に馬車から降りたアカリは学院へと通じる街に並ぶ、店や人を見ていた。


「ここが、勇者達が築いた街なんだ‥‥」


何処か驚きと感嘆の色を含んだ声で言うアカリの言葉にも無理はなかった。

出発前日、事前にシェルヴィからフリーリアについて話しを聞いていた。フリーリアは大陸中央の一大都市だが、実体は六か国のそのどれにも属さない、いわば中立の都市であったであった。元々は大陸中央を得ようと各国が牽制をしていたのだが、それを知った四人の勇者達が国にかけあり、協力し、大陸中央にどの種族でも通える学院を創設した事と、どの国も干渉させないために都市の名前もフリーリアとしたのだった。そして、現在アカリはフリーリアに活気に驚いていた。


「凄い、これだけ活気がある都市なんて。それにこれだけの種族が一緒に、魔族も一緒に暮らしているなんて…」


「まあ、あいつらが作った都市だ。平和になって今度は互いにいがみ合って再びの戦争を防ぐためと、何より敵対していた魔族を含めた全ての種族が交流を深めて互いを理解できる場所を作ろうとした結果だろうな」


「そうなんだ」


一緒に戦っていたからこそ分かる事があるのか蒼の言葉に相槌を返しながら、アカリが店の方へと目を向けるとそこには人々の顔には笑顔があった。見た限りでは人間もかくや動物の特徴である尻尾や耳を持った獣人、真っ白な肌と、金色の髪と特徴的な耳を持つエルフ、エルフと同じ耳を持つ銀色の髪に薄黒い肌のダークエルフ、肌の色が黒、または褐色で角や翼をもつ魔族、果ては魔族の仇敵ともいえる何処か神々しいオーラを纏った神族までと様々な種族がいがみ合うことなく存在し、種族関係なく笑みが溢れ、その雰囲気も荒んだ物ではなく、心から平和を享受している事を示す表情だった。


「まさか、俺がいない間にこんな都市(ばしょ)を作っちまうなんてな」


「アオ‥…アヴリルは知らなかったの?」


「ああ、一緒に戦っている時に構想自体は聞いていたがな。まあ本来であれば協力するべきだったんだろうが、俺には託されたものがあったからな。それを蔑ろにする事は、俺には出来なかった。だからそれを選んだ、ただそれだけだ。だからお前は気にする事はねえよ」


「で、でも‥‥わぷっ!」


私が迷惑なんじゃ、とでも言いそうだったアカリの頭を強引に撫でる事で蒼はこの話は終わりだというかのように学院へと視線を向けた。学院の作りとしては地球での学校の校舎を模倣して作られたようで、外見的から見た感じでは屋上を含め五階建てで、見た感じ魔法を学ぶ学院である証拠に外壁や窓には耐魔法障壁が施されており、建物に被害が出ない様にされている事に流石は魔法学院だと感心していた。


「なるほど、さて、この学院に、どれだけ骨のあるやつがいるか、楽しみだな。それに」


アイツらの子孫もこの学院に居るようだしな、と蒼は思わず笑みが浮かびそうになるのを堪えながら横からの視線を感じて見るとそこには何か言いたげな表情をしていた見ていたアカリが居たが、恐らく先ほど強引に黙らせた事に関してだろうと蒼は背を向けて歩き始めてしまい、


「ま、待ってよ~!」


アカリはそんな蒼の背を追い掛けるように付いて行き、アカリが付いて来ている事を確認しながら蒼は今の自分達の状況を思い返していた。


(やはり、注目はされるか。いやそれは当たり前か。姿を消していたと言われる勇者の息子が突然現れたんだからな)


蒼はもちろんアカリも周囲から見られている事に気が付いていたが、蒼が近くに居る事が関係してか取り乱すような事は無かった。

そもそも本来のフリーリア魔法学院の入学は一か月前に既に終わっている。が今回は蒼が勇者の息子という事、そしてシェルヴィの下で行った学院が定める試験を突破した事もあり、珍しい途中入学という形になった。そしてアカリに関しても似たようなもので蒼と一緒に育った義理の妹という事も関係して、こちらも蒼と同じく実力で合格した。本来途中入学はあまりの難しさに途中入学をする者は居ない。何故なら途中入学をするという事は周りより一歩も二歩も遅れており、それを取り返せる実力が無いと不可能という壁があるからだ。だが蒼とアカリはそれを突破して学院に入学する、という事は周囲から見れば物珍しいことに加え、新たにライバルが増えるという事に繋がる。

この魔法学院を卒業した後はそれぞれ自分の国に戻り軍に仕官するなり、冒険者になるなりとそれなりの広い道が選択できるようになっている。そしてそれは学院内で行われる校内戦と呼ばれる模擬戦によって決まる順位によって内容も変わってくる。校内戦で好成績を残せば、例え平民であろうと軍や冒険者に入った時の待遇が違いがある事も関係しており、それが先程のライバルと校内戦でのライバルが増えるという、それを警戒して見ているという意味もあった。だから蒼はさして驚かなかった。自分に向けて攻撃を仕掛けられてくると云う事に対して。


「アヴリル、あれって固定型の魔法、かな?」


「ああ」


最初に立っていた場所から七十メートルは進んだ場所に居る蒼たちだが、そこから校舎までの距離が後三十メートル程の校舎に辿り着くまでの間に足の踏み場が無いほどに固定型の魔法が仕掛けられていた。

固定型の魔法というのは、いわば地雷の魔法版で、魔法が仕掛けられた場所を踏めば仕掛けられた魔法が発動するという類の魔法だった。しかし仕掛けられている魔法だが、眼を凝らせば安全に進める足の踏み場はちゃんと確保されている。恐らく少しでも実力を見ておきたいという思惑なのだろう。


「なるほど、俺も随分と馬鹿にされたもんだな」


「今の蒼は勇者の息子。だけどそれを信じていない人が居るのかもしれない」


「まあ、いきなり現れれば、信じられないのも無理はないか」


確かに、今の蒼の姿は身長こそ変わらないとはいえ、外見は魔道具によって変えている。そしていないと言われていた「錬製の勇者」の息子がいきなり現れれば偽物だと疑いたくもなるのも蒼にも理解できた。なら


「その曇った眼を見開いて学べ、俺が本物である事を」


蒼はそう言うとそっと地面に手を当てると同時に全身から魔力を放出し、仕掛けられている固定型の魔法全てを覆い尽くし、その魔法の全ての魔法的構造を解析し、


「【砕けろ】」


呪文ではない、ただ言葉を発したのと同時に、仕掛けられていた固定型の魔法がガラスが割れるかのような音を残して、全て破壊され、後に残ったのは何もないただの普通の道だけだった。


「ふう、ざっとこんな感じでいいかな?」


ズボンを払いながら立ち上がった蒼の表情に驚きはなく、ごく普通になんとでも無いようにしたという感じだったが、アカリはそうはいかなかった。


(凄い、あれだけあった魔法を一瞬で‥‥…)


本来固定型魔法を破壊する場合、その魔法を解析、その上で相反する属性、即ち火であれば水、風であれば火というように相手を抑え込め、凌駕出来るで対処するのが一般的な対処法だ。だが蒼の職業は鍛冶師。初歩的な魔法は一通り使えるが、先程の固定型魔法の中には初歩的な魔法だけでは凌駕出来ない中級クラスの魔法も交じっていたのだが、それらを含めた事如くを蒼は一瞬にして破壊したのだった。


「ね、ねぇ今の、一体どうやったの?」


確かに魔法の中には魔法を解除する魔法解除(ディスペル)もあったが一気に仕掛けられた魔法を解除するなど不可能なはずで、そもそも蒼は初歩的な魔法を除いて固有の魔法ともいえる【錬製魔法】しか扱えないはずなのだ。故にアカリは知りたくなった。この世界に召喚され、鍛冶師という、そして「錬製魔法」という戦闘に役立たない魔法しか扱えないながら最強と云われる蒼の力を、人物を。本当に知りたいと思った。そしてアカリの質問に蒼は口を開いた。


「何をしたって言われても、ただ魔法を分解しただけだ」


「魔法を、分解…って、そんな事出来るの!?」


アカリの驚きは鍛冶師である蒼が魔法に干渉する類の技術を持っていた事への、そして魔法を分解できることへの驚きだった。


「ああ、俺の【錬製魔法】は物を作ったりもするが、同時に壊したりも出来てな。それである時気づいたんだ。物体だけじゃなくて、魔法という情報の構造を持つ、いわゆる設計図を持つものに対しては分解する事が出来るんじゃないかってな。それで何度も練習して魔法の構造を把握して分解できるようになったってわけだ。」


「それはつまり、全ての魔法に対して圧倒的に有利って事は凄い事じゃないの!?」


何処か凄い事と思っているアカリに対して蒼は苦笑を浮かべた。


「残念ながら、この分解は少しばかり面倒なものなんだが、まあ近いうちに教えてやるよ」


蒼は何とでもない様に言ったが、それを聞いたアカリは強い衝撃に襲われた。それまるで魔法に対して絶対的な有利を得ているのも同じではないかとアカリが褒めたが蒼はそうでもないんだな、といった表情を浮かべた事にアカリは疑問を感じたが再び歩き出した蒼の後ろをついて歩いているといつの間にかそんな疑問はすっかり忘れてしまいそうして校舎の入り口にたどり着いており、そこには黒いドレスの上にローブを纏った美女が立っていた。


「初めまして、アヴリル・ムラマサ・アークウッド様とアカリ・エルミア様ですね?」


アヴリル・ムラマサ・アークウッドは蒼の息子で入学するのに必要迫られ考えた偽名で、ムラマサは村正蒼の血を引く者の照明で、最後のアークウッドはダークエルフ王族で女王であるシェルヴィのファミリーネームから取った者で、他の勇者の子孫たちも同じような名前の並び方をしているのだ。アカリに関しては元のファミリーネームは使えないので、それはこちらが考え、名前は変えなかった。その方がばれにくいと思ったからだ。因みにアカリはアヴリルの義理の妹という事でアカリがアヴリルに抱き着いても何の問題も違和感もなかった。


「ああ、ところでアンタは誰なんだ?」


蒼の質問に女性は失礼しましたとばかりに頭を下げてきた。


「申し遅れました。私はこの学院の長をしております。アルジェント・シーマと言います」


「へえ、あんたがこの学院のトップってわけか。てことは、さっきのも見逃していたという事か?」


「えっ!?」


「あら、気が付かれていましたか」


アルジェントと名乗った学院長は堂々と見ていたことを認めてきた。そう、アカリは気が付いていないようだったが先程蒼が魔力を放出した時、魔力同士が接触するような感覚があり、その後ごく僅かに魔力の反応があった事で気が付いたが、しかしあの時魔力を放出していなければ気が付かない程の高度な風による気配の遮断と魔力制御が行われていたことに気が付いていた。だがそれは彼女の種族を鑑みれば納得がいくものだった。アルジェントの髪は金髪で瞳は碧眼と耳が長かった。つまりは、彼女の種族は。


「なるほど、森の妖精ともエルフだから風の制御はお手の物という訳か」


「あらあら、二百年は生きていますけど、まさか僅かな情報だけでそこまで見抜かれるとは、良い眼を持っていますね」


「まあな」


「さて、立ち話もなんですので、取り敢えず学院長室に行きましょうか」


そう言うとアルジェントは校舎の中へと入って行き、蒼とアカリはアルジェントの後に続くように学院の校舎へと入って行ったが蒼は既に感じ取っていた、この学院は退屈しなさそうだ、と。そしてそれを現すかのように微かに笑みを浮かべていたことも。


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