第六話 「女王との謁見と悪知恵」
ふう、久々に思いついたので、投稿です。次回の投稿は申し訳ありません。未定です。気長に待っていただけるとうれしいです。
ダークエルフの国「シュライネア」それはダークエルフの国の象徴である巨大な樹「大森主」と呼ばれ崇められている樹の内部の空洞を利用して作られた城の中にある謁見の間に蒼とアカリは入っていた。
そして正面の玉座には黒い肌を際立たせる白いドレスを身に纏い、希少な宝石をちりばめられた王冠を戴いたダークエルフの女王が居た。
「【魔王】が倒され、世界は平和となり、凡そ百年の時が過ぎ、この世界に姿を現したと思えば、まさか【魔王】の忘れ形見と一緒に姿を現すとはな?」
「まあ、しょうがないだろ、託されちまったんだからな。それにしても、凡そ百年ぶりってのにいきなりそれかよ。シェルヴィ?」
「あら、良いじゃない、百年ぶりに貴方と話せると思っていたら、まさか女を、それも【魔王】の忘れ形見である娘を連れて来るなんてね?」
まだ返事をもらってないわよと言外に言いながらも女王の何処かからかいが含まれた視線と言葉に対して蒼は少し肩を竦めながら言葉を返した。一国の王に対してはぞんざいな対応の仕方だったが、それを咎める者は、居なかった。何せ時間、その姿型に関する情報が薄くなってきているとはいえ【魔王】の娘だ。それを知られると厄介な事になる事は想像できる。故にシェルヴィは人払いをし、更に玉座の間に結界で覆う事で外部からの干渉を遮っていたのだった。
「まあ、そこに関してはちょくちょく手紙で説明していただろ。それで、どうだ。学院への推薦は?」
「ああ、それに関しては問題は無かろう。世間からすれば、お前は姿を晦ました英雄という事になっているからな。その息子という事で通るだろうが、問題はそちらの娘の方だな」
そう言いながらシェルヴィは視線を先ほどから黙っているアカリへと移動させ、視線を向けられたアカリは何処か緊張した面持ちで蒼の後ろに隠れながらもシェルヴィを見返し、その様子を見てシェルヴィは少しばかり苦笑を浮かべた。
「何も隠れる事は無いではないか」
「今の言い方はまるで入れないとでも言ってるかのように俺には聞こえたが?」
「何を言っておるのだ。学院に入ること自体はダークエルフの女王である私の推薦があれば問題は無い。時間と共に魔族とも交流が出来ており、偏見もない。だが」
「‥…なるほど。お前が言いたいのは、ここ最近の話にも合った、【魔王】を信仰している組織に関してか。っとお前には話していなかったな。」
蒼とシェルヴィは知っている情報だったが、ずっと結界の中に居たアカリは一度も聞いたことの無かった話で、
「【魔王】を、信仰?」
蒼に尋ねるようにして聞くと蒼はそう言えば説明していなかったとアカリに大雑把な説明をしてくれた。
曰く、彼らは強大な力を振るい世界に恐怖を与えた最後の【魔王】たる‥‥を、つまりアカリの父親を信仰しており、その娘で死んだと言われているアカリに関しても崇拝しているとの事で、更には。
「アイツらは、徹底して【魔王】を殺し、滅ぼした勇者の子孫を嫌っているからね。そこに新たに【魔王】をその手で滅ぼした『錬製の勇者』の息子が現れたとなれば、確実に狙って来るだろうね。そこに生きていた【魔王】の娘がいれば尚の事、ね」
「どうして、黙っていたの?」
「俺としては、お前にはそんな事を気にせずに、普通に学院生活を楽しんでほしかったから隠していたんだが、それをまあ良くも言ってくれたもんだな?」
「それは貴方が返事をなかなか返してくれないからでしょ?」
蒼はシェルヴィに対してそう言うもシェルヴィはお相子よと言わんばかりに笑みを浮かべていた、そこでアカリはふと蒼と女王の関係が気になり、興味もあったので尋ねて見た。
「ねえ、蒼がダークエルフの女王に返事を返していない事って何なの?」
「ああ、蒼には私を妻としないかと言っておるのだが、一向に返事を返さぬのだよ」
「えっ、つまり蒼は女王から求婚されているって事?」
アカリは自分が思っていた以上の衝撃を感じた事を必死に隠し、取り繕い、蒼と女王からの視線と意識を逸らそうと咄嗟に蒼に尋ねた。
「ああ、まあ求婚自体はあっちに籠る以前からあったんだが、まさか百年経っても有効だとは思わなかったよ。俺はお前にそれ程の衝撃を与えたか、シェル?」
「ええ確かにそれもある。なにせ勇者召喚でこの国に、貴方を召喚したのは当時王女だった私だもの。それに知ってるでしょ、勇者を召喚した王女は、全員召喚した勇者の妻となったという事を」
「ああ、知ってるさ」
「だったら、私の求婚を受けてくれてもいいんじゃない?」
シェルヴィと蒼の話を聞きながらアカリは何故二人がこれほどまでに気安く話を、そしてシェルヴィが蒼に求婚をしているのかがようやくわかった。シェルヴィは王族としての責務とし勇者の血を取り入れなければいけない事に加えて、本気で蒼の事が好きなのだと、理解した。その時アカリは何処となく胸が苦しいと感じたが気のせいだと自分に言い聞かせた、その時だった。
「悪いが、その返事は、まだ返せないな」
シェルヴィにそう言いながら蒼はアカリの頭の上に手を乗せると、まるで本当の妹にするかのようにポンポンと頭を軽く撫でてきて、思わずアカリは安心してしまった。それはまるでアカリに気にするなと言っているようで、しかし文面を見れば求婚を断られたととれるシェルヴィは拗ねた子供のような表情で蒼を見ていた。
「むう、では何時になれば返事をしてくれるの?」
「まあ、前の様に百年も待たせるようなつもりはないさ」
シェルヴィは蒼の眼を見て、その眼にはしっかりとした覚悟の光が見えたので、頭の中に浮かんでいた文句を言わない代わりに少し長めのため息を吐いた。
「‥‥‥‥‥はぁ~~~、分かったわ。」
「すまんな。ちゃんと返事は出すから」
「ええ、そこに関しては信頼しているわ。さて」
蒼が申し訳なさそうな表情と言葉にそう言うとシェルヴィの雰囲気が子供っぽかったものから王の雰囲気へと変わったのを蒼はもちろん、アカリ自身も感じ取った。
「取り敢えず学院への入学に関しては任せて。でも問題なのはその娘ではなく、貴方なのよね。まさか伝説の勇者をそのまま入学させる訳には行かないでしょうし。それに貴方も何かしら考えがあっての事でしょうけど、そこについては一体どうするつもりなの?」
「ああ。そこに関しては既に考えているんだ。要するに、勇者である俺じゃなければ問題は無いんだろ?」
「ええ、けど、かなり難しい問題よ。いったいどうするつもりの?」
蒼の言葉にシェルヴィは興味深げに蒼へと、如何様にして学院に入学するつもりなのか、その考えを尋ね、
「俺がお前との間に生まれた子供になればいいんだよ」
「‥‥‥‥どういう事?」
蒼の口から聞かされた言葉に思わずそんな言葉がシェルヴィから出るのも仕方がない事だった。何せ蒼が言った言葉は突拍子もなく、アカリですら良く分からず頭を傾げており
蒼は説明不足だったと、だがその前に聞きたいこともあったのでそれを確認する為に口を開いた。
「まあ、今の世間では俺は何処かへと消えた事になっているんだろ?」
「ええ、貴方が生きている事は私をふうめて契約を結んだごく少数の者だけよ。でも」
それがどうかしたの?とシェルヴィは尋ねてきたが、先程のシェルヴィの言葉を聞いて蒼はより一層これで行けると確信を込めた表情で口を開く。
「つまり、俺が今の時代に生きている事を知っている人は居ないという訳だ。そしてそれは俺が王女、つまり女王であるシェルヴィの間に子供を作っていたとしてもおかしくは無いという事だ」
「まあ、理屈の上ではそうかもしれないけど‥‥でもそれがどうしたというの?」
「つまりだ、錬製魔法で姿形を偽れる魔道具を見えない場所に身に着けさえすれば」
「‥‥‥なるほど。つまり勇者の息子という肩書を隠れ蓑に怪しまれる事無く、更に彼女への【魔王】の娘と思う不信な目を逸らすことも出来て、更に学院に入学ができるという事ね」
蒼の意図を理解し、言葉を引き継いだシェルヴィに蒼は正解と笑顔で見てきた事で、シェルヴィは自分の予想が間違っていない事を理解し、同時にその手があったかと内心で舌を巻いていた。
確かに考えてみれば蒼が死んだと思っている人間達には、蒼が人知れずに子供を残していたという事自体あり得なくはない。また何故情報を公開しなかったのかと問い詰められても過激派達から我が子を守るために、そして父親である蒼に学院に入学させるまで外に漏らさないと言われていた、何かしらの証拠を提示すればそれで大義名分は出来る。
蒼の考えにシェルヴィは納得しつつある中、アカリが蒼にこの話の核心ともいえる部分について尋ねた。
「蒼、でもそんな魔道具なんてないはずだけど?」
「あ、そうよ。幾ら貴方でもそんな高度な魔道具を作るなんて」
「いや、もう出来てるぞ?」
蒼の言葉のした方を見れば、そこには黒髪、黒目だが耳はエルフと同じく尖ったもので、身長はさほど変わっていなかったが、雰囲気は何処となくシェルヴィに似ていて、それは先ほどと比べると全く別物で、アカリとシェルヴィには衝撃が、まるで雷が落ちたかのような衝撃だった。
「「えええええええぇぇぇぇっ!?」
「なんだ、そんなに驚き程のものか?」
「それは驚くわよ!? 何サラリと姿形を偽れる魔道具を作っちゃってるの! そもそもどうやって作ったの!?」
「いや、必要になるかも知れないと思ってな、工房に籠っている時に幾つか作ったんだよ」
驚きからいち早く立ち直ったシェルヴィは思わず蒼に詰め寄り、そして寧ろどうして二人がこんなに驚いているのかが蒼は不思議でしょうがなかった。
そんな蒼を見てシェルヴィは思わず今日何度目かのため息を吐く。
「もともと、凄い事をやらかしそうだと思っていたけど、これは予想以上ね……ねえ、彼ってあっちでもこんな感じだったの?」
「はい、まあそうですね‥‥‥」
蒼がやらかした事態に思わず互いに、アカリは敬語を、シェルヴィは先ほどまでの雰囲気は無くなっており、寧ろ自然な感じで話していて、それを見て蒼が微かに笑みを浮かべている事に二人は気が付くことは無かった。そもそも蒼がしたのは指輪のような魔道具で、指輪の内側には魔法文字が刻まれており、身に着けた者から自動的に魔力を吸い取り姿を簡単に変え、偽るが出来る魔道具だった。だがそれ以上に蒼が望んだ光景が、敬語も円了もなく話し合おうアカリとシェルヴィ、二人の姿がそこにはあった。
(まあ、これで少しは仲良く、互いに遠慮する事の無い友達になれたら良いかな)
そう内心で、片や【魔王】の娘で、片や王族の娘と互いに立場こそ違うが、友達の出来なかった二人がこれを機会に仲良くなればいいなと蒼は願ったのだった。
そしてそれから少しして、蒼に関する事で少しは仲が良くなったのか、互いに緊張した様子もなくごく普通に何かを話した後シェルヴィは蒼の提案を受け入れる事を了承したのだった。