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4 お祖父ちゃんが残した「記憶」

ミフユ


 20時頃、新幹線が新横浜駅に着くと両親が迎えに来てくれていた。眠たげな妹は父が背負ってくれた。苦笑する母と私。


 翌朝、朝食の後、食卓で妹が両親に結果を報告した。ミアキはスマフォで撮っていた写真を家の大型液晶テレビに映しながら行った場所について説明して最後に結論を言った。

神戸こうべいところだった。お祖父じいちゃんの故郷ふるさとだってよく分かった。写真しゃしん神戸総合大学こうべそうごうだいがく進徳丸しんとくまるから神社じんじゃ小学校しょうがっこうめぐって最後さいごやまうえ保久良神社ほくらじんじゃでの家族写真かぞくしゃしんまで私達わたしたちみちびくためのものだった。わたしいまのところお祖父じいちゃんが何者なにものになるかからなかった少年しょうねんころ自分じぶん私達わたしたちってもらいたいのかなってったけど、おねえちゃんのかんがえはまたちがうってわれた。わたしにはおねえちゃんのことがまだからない。ただお祖父じいちゃんのおもいはわたしおもっているようなことだけじゃないともかった」


 私が自分の意見を説明した。

「だいたいはミアキの言うとおりでした。私の考えはお祖父ちゃんが戦争前の記憶を写真という形を借りて説明してくれようとしたのだと思ってます。進徳丸は戦前、戦後は練習船だった。お祖父ちゃんは工学系の学校に進学していたとはお祖母ちゃんに教えてもらったけど本当は船乗りになりたかったんじゃないか。そういう意図があって、進徳丸の写真を入れた可能性はあると思う。小学校や神社の写真は小さな幸せだった頃の記憶を見せようとしてくれたのかな。お祖父ちゃんの心境は分からない事があるけど、語れなかった何かを写真に託したんだと思った」


 両親は拍手してくれた。そして母が言った。

「二人ともよく調べたね。実は私もお父さんにあの写真は見せてもらった事はあったの」

父まで含めて三人で「ええっ」と思わず叫んでしまった。映画やドラマでよくある「今、明かされる驚愕の真実」ってこういうの言うんだと思った。

お母さんはそんな私達の驚きぶりに動じる事なく微笑みと共に事情を教えてくれた。

「私、大学院は神戸だったからさ。神戸に行く時、お父さんに見せられたのよ。で、私も二人が回ったルートは歩いた。結論も二人の言うとおりかなって思っているけど、お父さんは結局詳しい説明はしてくれなかった。ただ写真が小学校だけなのはお父さんの進学した旧制中学校、あの頃は進学校でもなんでもない地元の名士が作ったお坊ちゃま向けの学校だったんだって。それが今は名前は知られている進学校になったからとても気まずいって事だけは言っていたわ。『わしはそんな勉強しとらんかったからのお』って大笑いしてた」

母は微笑んだ。

「お祖父ちゃん、いい孫娘を持ったと思ってくれていると思うよ」


 ミアキはふと何かに気になったみたい。

「ねえ、おとうさん。なんで神戸こうべのアイスキャンディ屋さん知ってるの?おかあさんは神戸こうべ学校がっこうだったからというところかるけど」

お父さんはちょっとだけ困った顔をした。

「大震災の年、お父さんの勤め先の勤務地が神戸だったんだよ。お父さんは前の年の夏から神戸だったからあのアイスキャンディ屋さんは知ってたし食べたよ。お母さんと出会ったのはこっちに出てきてからだから残念ながらお母さんと一緒には行った事はないけどね。何かの拍子にあのお店の話をしたらお互い知っている所だと分かったんだよ」

 ミアキが何か思いついたらしくウキウキとした声で言った。

「ねえ。お祖父じいちゃんの写真しゃしん、あと1まいだけまわれてないから、あきすずしくなったらみんなでけないかなあ」

「今回登れていない六甲山頂も確かに行きたいよね」と私。

ミアキが頷きながら続けた。

「お祖母ばあちゃんもんでさ、お祖父じいちゃんのていた光景こうけいをみんなでたい。またアイスキャンディさんにもみんなできたい」

 両親は顔を見合わせた。そして父が言った。

「行くとしたらシルバーウィークか10月の連休かな」

そして母が受けた。

「じゃあ、私の仕事のスケジュール確認して呉のお母さんに連絡してみるわ。守雄さんもスケジュールを確かめておいて」

「分かった」

「やったあ」

ミアキの歓声が部屋に響いた。


ミアキ


 学校が始まる前に手下の子の家に夕方行った。ベルを鳴らす。

「はーい」

インターホンから声が聞こえた。彼のお母さんかな。

おなじクラスの古城こじょうミアキっていいます。ユウスケくんいますか?」

「ちょっと待ってね。ユウスケ、お友達よ。古城さんだって」

家の中でドタバタと何か落ちてきた音がした。

ドアが開くとあいつが飛び出してきた。

「どうしたの?」

「あわてすぎだよ。あぶないなあ。これ、ユウスケくんへのお土産みやげだから。きみだけだからわたしからもらったなんてっちゃダメだよ。内緒ないしょね」

 彼に小さな紙袋を渡した。新神戸駅で新幹線に乗って帰る前にお姉ちゃんに頼んで買ったキーホルダーだった。

「ええっ、いいのに」

「だってわたしえないのをさみしがってくれたじゃん。また明日あしたからあそぼうね」

そういうと私は「じゃあね」と言って家に走って帰った。


 お姉ちゃんに渡してきたというと「罪作りな子ねえ」と若干呆れ気味に言われた。

「だって、学校がっこうわたしてほか手下てした気付きづかれたらこまるから」

「だって、その子の事好きだからそうしたんでしょ。ませてるねえ」

ニヤニヤしながらお姉ちゃんが変な事を言うなあと思った。

 始業式の日、教室に飛び込むとみんな来ていた。

「おはよう!」

 ユウスケくんも来ていた。彼のランドセルを見ると私が買ってきたハローキティーの神戸バージョンのキーホルダーがぶら下がっていた。なんかちょっとうれしいかったかな。


ミフユ


 二学期が始まった。まだ高校1年生だけど進学目標が生まれた。船に関わる仕事をしたい。進徳丸を見て神戸総合大学海事科学部を応援しているという地元のお爺ちゃんに話しかけられた事がきっかけで興味がわいた。帰ってきてからもいろいろと調べてみた。商船大学はなくなったけど、東京海事大学と神戸総合大学海事科学部という形で今もその系譜は続いていた。

 お母さんとお父さんに相談したら、別にいいんじゃないとあっさり言われた。そして大学祭とかオープンキャンパスとか行っておくと良いよとは大学で史学科教員をしているお母さんからは強く言われた。

お父さんからは造船とか幅広くは見ておいた方がいいよとは言われた。船に関わる仕事は運航側だけじゃないし、いろんな関わり方がある。あと1年どのコースへ向かうかじっくり考えなさいとだけ言われた。


 翌年。神戸総合大学深江キャンパスのオープンキャンパスに見学に行った。大学練習船深江丸を見学していたら背の低い小柄な制服の人が舷門で私達高校生を出迎えてくれていた。深江丸の船長だった。何故か私には右手を差し出してきて握手を求められた。

「去年の夏休みに進徳丸を見に来てくれていた子やな。ほんま、見に来てくれたんやな。あの時は地元の人とか嘘ついてたのは謝るわ。何か縁がありそうな人やと思ってついつい声を掛けてしまったんや。今日はじっくり見てどの方位に針路を取るかよく考えて行きなさい」

ああっ、あの時のお爺ちゃんだ。何が地元だから応援してるっていうのよとは呆れた。何の事はない。関係者じゃないふりをして声を掛けてたんだ。

「ありがとうございます。そうさせてもらいます」

私は力強くそう答えた。

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