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防衛者  作者: クラリオン
序章  召喚
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第六話  策謀

いよいよ脱出できそうですね、でもなんか宰相に不穏な影が……?



防衛者、第六話《策謀》です、どうぞ!


 例の算段を聞いてから一週間後、珍しく俺にも呼び出しがかかった。出来れば一回殺される前に<絶対防壁(バリア)>のレベルをもう一つ上げておきたかったんだが。まあ仕方ないね。



 この一週間、内山と結構揉めた。帰るか帰らないか、帰るとしてあの<勇者>達はどうするのか。俺としてはアレは置いて帰りたかった。本人達がやりたがっているのに、無理に帰らせる必要なくね?と。


 が、内山が反対した。だからこそアレは連れて帰るべきだ。アレをこの世界に置いて行ったら害悪にしかならない、下手を打てば竜種に殺されるぞ、と。


 俺としては別にそれで構わないんだよな……とか思いかけて止まった。前回戻ってきたときは、全員欠けずに、<召喚>された直後のほぼ同じ時間、同じ場所に戻った。では、誰か欠けて戻った場合、外部から見たら、それは忽然と蒸発したようにしか見えないのではないか?無論、現代において、神隠しなどで通るわけもなく、確実に警察の手が入る。


 平穏な日常を望む元<勇者>としては、それは避けておきたい。だから今のうちにアレと一緒に帰るべきだ。


 と、思ったのだが。ここで問題が発生していた。魔方陣を描けるのは、内山だけなのだが、クラスメイト全員を<帰還>させるには、俺と内山のMPを全量消費する必要がある。つまり内山が魔方陣を描いたら、俺と内山でMPを注ぎ、即<帰還>発動なのだが、俺が関わると、クラスメイト(仮)からの信頼が一気に消え失せる。説得?無理無理。あんなの説得とかどれだけ時間がかかると思ってるんだ。


 つまり、今のままで<帰還>発動は主に人的要因のせいで不可能と言う結論に至ったのが昨日の話。よって、この国から脱出後も、奴らの尻拭いをしつつこの世界に残留する、と決定した。俺については微妙に自業自得な気がしなくもない。ああ、<帰還>できない<勇者>は完全に自業自得だな。


 そういえば今日明日辺り竜が来る頃だ。謝罪しなくてはならんな。


 そんな事を考えつつ、連れてこられた場所は大広間。俺が着いた時には勇者達とか内山も居た。ふむ、これは宰相の算段か?それとも別口か?


 全員が集まったのを確認すると、王女様が出てきた。


「皆様、朝早くから申し訳ございません。実は、皆様に協力をお願いしたいことが発生いたしまして、ご迷惑を承知で集まっていただいたのです」


「俺達に出来る事ならなんでもしますよ王女殿下!」


だからお前はなんで内容を聞く前に即断してるんだよド阿呆!せめてお願いごとの中身を聞け!


「王女殿下、協力してほしい事とは何でしょうか?」


 仕方がないので一応俺が聞く。え?手出しはしないんじゃなかったのかって?だからだよ。これが、宰相の算段だったら乗らないとこの国から脱出できる絶好の機会を逃すことになる。もし違うのであれば、それこそ「手出しはしない」という言葉通りに、断るまで。


 王女殿下本人の頼み事であれば、そこまで大掛かりなものではないはず。俺達まで動員するほど人が必要なものではないはず。俺達が手を出すまでもない。


 一方で宰相の計画であれば、同時多発的に少なくとも八方面以上で討伐の必要があるはずだ。なぜかというと、<勇者>達は、スキルレベルはともかく本人のレベル――ゲームで言うところのプレイヤーレベル――は1のまま。一人で討伐対象となるような魔物を相手にするには、不安が大きい。何人か、具体的には最少で4人がベスト。前衛2人、後衛2人。欲を言えば、前衛にもう1人いればローテを組みやすいから安定するが、まあそれは置いといて。4人パーティーとする。


 うちのクラスは、定員36名、学年が上がるたびに何人か(学校から)脱落し、現在は30名。4人パーティー7組プラス余り2名。無論5人パーティー6組という余りが出ない組み方もあるが、それは宰相が阻止するだろうし、そもそも1週間前のあれで俺に対する<勇者>組の印象はよろしくないってか悪い。わざわざパーティーを組むとは思えない。内山は例の件でも自分勝手な<防衛者>に引っ張られた被害者的な立場とみられているので、誰かが組んでくれるだろう。<勇者>ではないが俺ほど悪い印象は無く、外見は良いから男子共が拾いそうだ。ので最悪俺が孤立する。

 だからと言って1人で動かすと、後々内山を消しにくいし手間が増える。だから<防衛者>と<支援者>の関係から二人で組ませようとするのではなかろうか。よって最低八方面と言うわけだ。


 さて、王女様はどう言うのかな?


「実は、王国全土で、特殊指定魔物(ユニークモンスター)が多数発生したとの情報が入りました。<魔王>復活の影響によるものだと言われています。既に王国騎士や、組合所属冒険者などにも協力を要請し、各地の討伐に向かわせているのですが……先日王都周辺の森や湖、草原などでも発生しているのが見つかり、その数はおよそ10です」


「さらに、これらの魔物は、王都周辺である関係上、そのほとんどが人里近くに発生しており、その討伐は急ぐ必要があるのです、しかしながら、すでに多数の冒険者や騎士団が各地へ出向いており、王都に残っている戦力では、2か所を討伐できれば上出来、といった戦力しか残っていません」


「ですので、今回、<勇者>様方にも、魔物の討伐をお願いしたいのです」


 へぇ……魔物の討伐か。特殊指定魔物とはまた面倒な。だがこれはどうも本当らしいな。しかしまた異常な発生をしたものだ。たしか特殊指定魔物は同タイプの魔物をひたすら狩り続けることで発生すると聞く。

メカニズムとしては、急激に数が減ることで、種を保全するためにより強靭な個体を作り出す、というものだ。と、魔王から聞いた。


 さて、つまりそれは各地で各種の魔物が多く狩られていたことになる。それも、発生のタイミングから逆算するに、俺達が<召喚>される前だ。しかも同時多発的に。


 理由はいつでも考察できるし、俺だけで考えても仕方ないので放置。


 問題は、その発生の内に、偽の報告が混じっているか否か、だ。そこに俺と内山が送られるわけで、脱出後、<魔王>のところへ向かうなら、南の方が良い。まあ、どっちでも良いんだけどね?


「後、出来れば<防衛者>様にもご協力願いたいのですが……」


そういってこちらを見てくる王女殿下。睨みつけてくる<勇者>達。さあ、答えを言おう!


「何が出来るのかわかりませんが……良いでしょう、承知しました」


「おい神崎!おま……え……?」


「何か用か<勇者>?」


「いや、てっきり手を出さないとか言うのかと……」


「いや流石に王都周辺は力を貸すぞ?一応俺の安全な生活もかかってしまうからな、その程度はする、<防衛者>としてな」


俺の平穏な生活のため。これって中々都合良い建前じゃね?



「では、それぞれ振り分けをしていきたいと思います。あ、<防衛者>様と<支援者>様はこちらへ」


「<防衛者>様及び<支援者>様ですが、攻撃系のスキルをお持ちでないとのことなので、近衛騎士団の選出者と共に、行ってほしいのです」


「えっと、それ俺達が付いていく意味は?」


「今回、討伐お願いするのは、森の奥にいる蜘蛛系の特殊指定魔物、“ギガントポイズンスパイダー”です。この魔物は、とても厄介な魔物でして、毒を使います。そこで、<防衛者>様のスキルで攻撃そのものを防いでもらう、あるいは攻撃を受けても<支援者>様に回復してもらいながら戦う、という形で討伐したいと考えているのです」


「ああ、なるほど、わかりました。場所はどこですか?」


「王都北東にある、通称『蜘蛛の巣』と呼ばれる森です」













「結構遠いんだな」


「そうですね。生息する生物は、普通の生き物から魔物まで、毒を持つものが多く、魔物暴走を引き起こしやすくもあるので、王都は距離を取ったという話ですから」


「そんなこと良く知ってるな……」


「実家にあった本に書いてありましたので」


昼前から馬車に揺られること数時間。時刻は既に午後三時ぐらいだろうか?俺達――俺と内山、近衛騎士団16名は、今『蜘蛛の巣』の入り口に居た。


「ここがいつも冒険者が入る場所?」


「はい、そうです」


「じゃあ行きましょうか。<防衛者>、障壁を」


「了解、<絶対障壁>」


 総員18名を覆えるほどの大きさまで拡大。続いて<周辺警戒(レーダーマップ)>を発動。騎士団の連中が黄色い点として表示される。探知範囲を拡大すると……あれ?多くね?赤い点が大量に見えた。うっわこれ全部魔物かよ……蟲系の。うわ鳥肌立つ。


 4人一組で、俺と内山を囲んで進む。守られているように見えるが、俺達が逃げることもできなさそうではある。しかもこの森、やったら深い。


 昨夜練習したとおりに、<絶対障壁>と<周辺警戒>を発動したままに、<勇者>に変える。よし、上手くいった。<魔力探知>を発動。<周辺警戒>と重ね合わせる。現在地からさらに奥へ行った場所に、巨大な魔力反応。

 

 周辺には同規模の魔力反応は無い。こいつが目標とみた。幸いなことに、このまま直進すれば辿り着くことができる。


 そのまま、二時間ほどで目標付近に到達。戦闘自体は、至って単調なものだった。後衛の魔法担当への周辺からの攻撃を<硬き壁>で強化した<絶対障壁>で完全に押しとどめる。そのため前衛は後衛を気にすることなく攻撃に専念できる。

 

一方で定期的に毒液をまき散らされる前衛だが、直後に内山の範囲回復魔法で全快・解毒。その一方で攻撃力・速度上昇の<支援魔法>を乱発している。さらに回復の必要がなくなった後衛も、別口で支援系魔法や敵へ阻害系魔法をかけている。<支援魔法>は他の魔法と重複可能。なんだこれ。

 

 結果として、千年前は、Bランクプラスと分類されていた昆虫系でも厄介な特殊指定魔物は、特に何もできないまま、あっさり倒された。と言っても、HPがかなり多い魔物だったので、時間はかかったし、向こうから見たら嬲り殺しにされたようなものかもしれない。

 

 ……うん、ごめん、蜘蛛さん。賠償は……できないけど。すまん、運が悪かったと思っててください。

そんなわけで無事依頼された魔物の討伐には成功。討伐証明部位である毒腺を得るため、解体に移る。と言っても、俺は騎士団何人かと一緒に穴を掘り、内山は見てるだけ。解体は騎士団員がやってくれた。なぜ穴を掘るのか、というと、これは大きい魔物ではよくやることだが、魔物の死体は餌になる。特に今回のは特殊指定。喰った魔物が変質しないとは限らない。そこで解体後、穴にいれ、燃やしてから埋めるという手法を取る。面倒な。


 というわけで穴掘り終了。深さ一メートル、直径五メートルほどの円柱型。解体してばら撒いて燃やすにはちょうど良いくらいの大きさ。


「解体終わったぞ!」


「穴掘り終わってます!投げ込んでください!」

 

 毒腺以外の部分が放り込まれていく。軽くグロ画像。蜘蛛だしな。

 

 着火は後衛の1人が火魔法で。完全なるグロ描写なので詳細は割愛するが、臭いが……うん、ヤバかった。騎士団の皆様も非常に顔色悪かったですね、はい。死体は見慣れても焼ける臭いは……

 

 鎮火するまで30分。予め解体して正解だったと思う。あとは穴を埋めてここを立ち去るだけである。そばに突き刺さったスコップを手に取ったところで。




 後ろから何か丸い()()が飛んできて、穴に入った。同時に背中全体にナニカ水のようなモノがかかる感触。時刻は既に逢魔が時。黄昏時、誰そ彼時。まだ十分な明るさはあるものの視界がややぼやけた状況。


背中から殺気を感じ、前に飛んで後ろを振り向くと、まさに今、目の前を剣が通り過ぎたところだった。


そしてその向こうに見える、首を失い崩れ落ちる肉体。()()()()()()。その肉体に魔力が集まり始めるのを<魔力感知>で確認。ならばやることはただ一つだろう。<警戒地点設置(レーダーサイト)>。同時に動く。


「おい!一体何を!」


「悪いな<防衛者>、貴様にはここで死んでもらう」


「くそったれが!そんな簡単に死んでたまるかよ!」


「ふん、女は既に殺した。回復もできない状態で、我々に勝てると思っているのかガキが」


「誰の指示だ!」


「そんなこと関係ない……と言うところだが、冥土の土産に教えてやるよ、宰相閣下だ。わかったら大人しく死んでくれ、我々のために」


 そういって地を蹴って向かってくる騎士の攻撃を防ごうと、<絶対障壁>を起動しようとした瞬間に、視界が回った。いや、視界が跳ねた、上に。そして、最後に見た光景は、自分の肉体が、首から血を噴出させ、崩れ落ちようとしているところ。その傍らに短刀を構えてたたずむ黒ずくめの男だった。


(しくじった……!戦闘終了時点で<絶対防壁>を解くんじゃなかった……!)


その思考を最後に、俺の意識は闇へと消えた。










「よくやった」


 付随していた騎士団の小隊長が声をかける。今日の彼らの()()()()()に一区切りついたのだ。


「処理を急げ」

 

 黒ずくめの男も手伝い、首一つと、体二つを穴に放り込む。黒ずくめの男は、宰相子飼いの情報収集係、ゴルトニア家の隠密。ここにいる騎士団員もまた、ほとんどが宰相の息がかかった者達ばかりだった。


だが、例外が一人いた。


「……どういう、ことですか、隊長?」


「あ?」


「<防衛者>様と……<支援者>様をも……殺す……なんて」


「なんだ、文句でもあるのか?黙って従え、昇進出来るんだ、悪い事じゃなかろう」


「ですが!彼等はまだ子供な上にこの世界の人間ですらないのですよ?!それをこちらの勝手で殺すなんて!」


「だからだよ、この世界の人間じゃないから気軽に殺せるんじゃないか。バレないからな。いくらこちらが一方的に召喚したからと言って、こちら側の都合にもある程度従ってもらわねばならん」


「ですが……!」


「ああ、もう良い。お前も|寝てろ(死ね)」


「え…?」


 そう言って隊長はその騎士団員の首を刎ねた。


「戦闘中に勇敢なる騎士団員が1名殉職。以上だ、急げ、穴を埋めるぞ」

 

 穴の中に、騎士団員一人の死体が加わった。穴が完全に埋まったところで、地面をならし、不自然にならないように魔法で下草を生やす。30分もしないうちに、そこに穴があったとは誰も気づかないレベルになっていた。


「よし、行くぞ」


 既に日は沈み、代わって月が空を照らす。


 



 そんな彼等を。月と、魔力が集合した()()()がじっと見ていた。





『HPの全損を確認。<聖剣・サクリファイス>の耐久度の減損なし。<勇者>再生プログラム起動、シークエンス開始。<聖剣>の効果により<再生魔法・完全再生(オールリヴァイヴ)>を発動。肉体の修復を開始、終了まで30分。完全再生まであと2時間』


『HPの全損を確認。スキル<緊急蘇生(エマージェンシーリヴァイヴ)>による蘇生効果発動。タイマー起動、蘇生まで2時間。肉体の破損を確認。付随効果<肉体再生(ボディーリペア)>を発動。肉体の修復を開始、終了まで10分』



とうとう宰相がやってしまいましたね。さて、殺されてしまった二人の運命や如何に(ネタバレ済)



感想批評質問等、お待ちしております。

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