第四話 竜の来訪
はい、かなり遅れましたが更新しました。
少しずつ動き始めます。
それでは <防衛者>第四話、どうぞ!
どっかの馬鹿が突っかかってきてから一週間経過。順調に<周辺警戒>のレベルは上がり続け、現在は既にレベル5。それによってさらに新しいスキルを手に入れた。<警戒地点設置>という物で、一度行った場所で発動すると、<周辺警戒>のマップで登録を解除するまで、その場の音声付映像を見ることが出来るという物だ。レベルが上がると、設置できる数は増えてゆく。
なるほど…って言うか現実にあるレーダーサイトより性能上だな。魔法ってすごい、今更だけどさ。これで大分楽が出来る。相手にばれないよう盗聴できるし、俺達がいなくなった後の王城の様子も探れる。今置くことができるのは三つ。既に二つは宰相執務室、国王執務室に仕掛けてある。一度練習場の一部貸し切り書類を提出しに行ったときに設置済み。最初はクラスメイトのうちで、信頼できそうな奴に声をかけ、連絡を取り合おうと思っていたが、様子を見て断念。<勇者>じゃない俺に協力してくれそうな様子の奴なんていなかったからな。このスキルが手に入ってよかったぜ。
とりあえずこれで王都をいつ脱出しても良くなったな。
次にやることは、脱出した後の行動について。
俺が<勇者>だった時には、各地に竜がいた。うん、いわゆるドラゴンだな。確か六体いたな。それぞれ一属性ずつ極めた化け物と、それらの親である始祖竜。あいつらが生きているならば会っておきたいし、死んでたら死んでたで、死ぬときには人間に加護を授けろと言ってあるから、その人間を探すのも一興か。
どうも王城には外部と内部の魔力を遮断する壁のようなものがあるらしく、中からでは外界の魔力を探知できないのだ。あ、魔王?あれは別。あれは魔力じゃなくて無意識下の魂レベルで繋がってるから壁は関係ないの。だから向こうも俺がここにいること程度は把握できているはずだ。
まあそんなことを毎晩毎晩内山とくっちゃべってたわけだが。まあしかし、外部の魔力を探知できないことがあんなことになるだなんて、考えればわかる事なのに、なぜ俺も気づかなかったんだろうな。
翌日の昼、俺達異世界人はこちらの世界での恐怖を初めて目にすることになる。ま、俺と内山は初めてじゃないんだけどね。
翌朝。俺はいつも通り起きて、いつも通り食堂で朝食を摂った。聞いた話では勇者勢は専用のダイニングがあるらしいが、俺は案内されなかった。どこまで露骨なのさ。
どうせなら君達には失望したよ、とか言ってみたいけど会わないからな。つまらん。何か面白いこと起きろよ。
そんなことを思っていた時期が俺にもあったんだよ畜生。今?すっげえ後悔してる。
当たり前だろ?今、訓練場にいる俺と勇者共の前で、訓練場の屋根を一瞬で吹き飛ばした、ドラゴンを見れば、さ。
「ド、ドラゴンだ……」
色は蒼、見覚えはないが、魔力反応によれば、目の前のにいるのは間違いなく水属性ドラゴン最上級種。始祖竜が第二子。
水帝竜”クトゥルフ”。
ま、そんな見分けがつく人間がここにいるのか、というと怪しいものだ。ただ水色をしたドラゴン、と認識しているだけの可能性が高い。こいつは属性ドラゴンの中でも最小サイズ。ほかの一般竜と見分けはつけにくい。予め知っていることが前提となる。
しかしこいつの縄張りは北方。確かにシルファイドは北半球にあるが、決して近くはない。まあ属性竜たちのうち一番近いのはこいつ……なるほど、<勇者>を揉みに来たか?
だが残念なことに、ここにいるやつで、まともにアレと戦えるのは俺と内山、騎士団長がぎりぎりといったところか。<防衛者>でも耐えきれないことは無いはずだ。<絶対障壁>に<支援者>の防御アップ魔法<硬き壁>を利用すれば、多分<吐息>でも耐えられるはず。いざとなればそれで時間を稼ぐまで。
と見せかけて死んだ乃至攫われたとかでトンズラできないかな?とか考えていたりするのだが。
さて、最初に仕掛ける、もしくは話しかけるのはどちらかな?
『人の子よ、異世界より召喚されし勇者よ』
まさかの<念話>だと?!いや使えるのは知ってるけどさ。そっちから来るのは予想外。
『我は始祖竜が第二子。先代<勇者>より付けられし名はクトゥルフ。今代<勇者>として召喚された異世界人に言伝あって参った』
うん、格好いいけどさ、なんか恥ずかしいな。当時のノリで決めた名前を誇らしげに言われると……
当時の状況を思い出してみる。
『水かぁ…どうする?』
『なんかいい名前……水……そうですね、‟クトゥルフ‟とかどうです?』
『創作神話かよ…じゃあ、この洞窟はさしずめ”ルルイエ”か?世界滅ぼす気かお前は!』
怒ったような口調だったけど何気にノリノリでしたよね、春馬さん?
確か戦闘不能に追い込んだ後に『名前をくれ』って言いだしたんだっけな。『名前を付ける』という行為はこの世界では上位者が下位者に対してする行為で、それを願うということは、『自分が下である』と認めているということ。つまりクトゥルフは、自分が下であると認めたのだ。実際魔物と戦闘するときに援軍になってくれたしね。
さて、その”言伝”とやらは誰からの、どういう言伝なのだろうか?
『始祖竜からの言伝を伝える』
『“現在貴殿等の必要とされる事態は発生していない。よって送還魔法による元の世界への帰還を勧める。その際に必要であれば我らも力を貸そう”。以上だ。良ければこの場で<送還>についての談合を願う』
言っちゃったああああああ?!必要ないって、それ言っちゃうの?!
……さて、ここにいるのは多分まともな騎士団長と、騎士団員、そして勇者たちであるが、どう出るのかな?
「必要じゃない、だと…?」
最初は<勇者>か。
『そうだ、現時点において、異世界より<勇者>の素質ある者を<召喚>する必要性のある事態は何一つとして発生していない。我らは必要以上の争いを好まぬ。先代<勇者>の出身国である“ニッポン”なる国もそうであると聞き及んでいるが、貴殿等はニッポン以外の出身であるか?』
唖然とする篠原に対し、淡々と答えを返す水帝竜クトゥルフ。
「あれほどに被害が出ているというのに何もするなって言うのか?!」
『左様。必要以上に<勇者>に頼るべきではない。現在出ている被害は軍隊、及び冒険者によって防ぐことのできる規模である。わざわざ<勇者>を<召喚>するほどの規模ではない、それが始祖竜の判断であり、また我々もそう判断する。これは先代<勇者>の理念にも沿うものであると考えるが』
「そんなことはどうでもいいんだよ!俺達が戦わなきゃ死んでしまう人がいるんだ!」
『──それがどうかしたのか?』
篠原の必死の叫びに返ってきたのはそれが至極当然のことと言わんばかりの冷静な声だった。
『それで死んだのなら、彼ら自身の力が足りなかったか、もしくはそれが天命であったまで。貴殿等異世界の人間が気に病むことでもなかろう』
正論だ。彼が言っていることは正しい。もともと俺達異世界人は、本来この世界の事象に軽々しく介入してはならないのだ。
始祖竜曰く、世界のバランスがどうのという話だ(詳細は忘れた)。例外が<魔王>と<勇者>。
<魔王>は世界を亡ぼすだけの力を有するがゆえに、そのストッパーとしてバランスを取るためだけに<勇者>が存在する。今現在でも<魔王>は力こそ失っているが、存在はしているのだ。そのために篠原は<勇者>の称号を持つことができている。同じ時代に<勇者>が二人も存在してていいのかという問題はあるが、まあそれは神がどうにかしてくれるだろ。
「天命……だって……?」
『そうだ。運命とも言う。我々生きとし生けるものが決して触れることのできず、そして触れてはならない領域だ。ましてや、従う因果律の異なる異世界の人間が軽々しく干渉してよいものではない』
「では我々異世界人召喚者は此度の騒動に手を出す必要はないということですかね?」
『無論』
「おい神崎!」
「ちょっと黙っててくれ篠原。では始祖竜に伝言をお願いしたいがよろしいだろうか?」
『構わぬ』
「ではこう伝えていただきたい。”此度の提案に関し、今代<防衛者>は、これを受け入れ、天命に関し、よほどの事がなければ手は出さない。<勇者>についても可能な限りの説得を行う”と。」
『了解した、だが我が言うのもなんだがよいのか?』
「撃ってきたらそいつは敵だ、というのが俺の一種の信念みたいなものでしてね、竜種が気にする必要はないですよ」
そして俺は二度魔法を撃たれている。それに則ればこいつらは敵だ。敵を守る必要はあるか?
『ふむ、まあ良い。ではその通り伝言を伝えよう。今日はこれで帰るが、一週間後、送還について答えを聞くとする』
「待ちなさい」
内山か、何を……
「始祖竜にもう一つ伝言よ。今代<支援者>も手を出すつもりはない、と伝えなさい」
『ほほう……』
そこで初めてクトゥルフの顔に、面白がるような表情が浮かんでいた。だろうな。<防衛者>と<支援者>といういわば人族の楯がそろって手を引くんだ。人類側がどうするか興味があるんだろうな。
『<支援者>もか。ふむ、こうなると事情は少々変わってくるな。まあ良い、伝言は確かに預かった。<防衛者>と<支援者>が手を出さぬか。面白い、<勇者>よ、一週間後来た時に、賢明な選択を聞かせてもらえることを祈っておるぞ。では人間どもよ、さらばだ』
賢明な選択、ね。無理だよなぁ……あの様子じゃあ。
「……い、おい!」
ん?
「なんだ?」
「なんだじゃない!どうしてあんな事を言ったんだ!
「あんな事?」
「とぼけるな!手を出さないと言っただろう!」
やれやれ、やはり賢明な選択とやらは無理そうだな。
まあ、アレを聞いて納得しろというのは<勇者>篠原にとっては些か難しいかもしれないな。とは言え、どうしたものか。俺としては帰ることに異議はない。挨拶はしておきたかったな、くらいの思いはあるが、帰してくれるというなら喜んで帰る。リアルの戦いは正直ウンザリだ。と、なると、ここはクトゥルフに伝えた通りに<勇者>を説得するしかないか。
……無理だろおい。どうしろってんだ。
「答えろ!どうしてこの世界の人々を見殺しにするんだ!」
「あ?誰が見殺しにするっていった?」
「手を出さないということはつまり見殺しにするんだろ!」
「天命、つまり定められた事は、大抵覆せない。何かやってみたところで流れに逆らえないのがオチだ。つまり、手を出すだけ無駄だ」
「な……」
「それにだ。あの竜は最初なんと言ったか覚えているか?『<勇者>を必要とする事態は発生していない』と言ったんだぜ?」
以上です。
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