第十七話 昔の話
四か月振りです、毎度ながら上げる上げる詐欺してすみません。
理由は何となくな意欲の低下です。原因は分かってないですが、最近また上向き始めたのでゆっくり更新していきます。
今回は少し短いですが、話の繋がりを考えてこうしました。
第十七話です、どうぞ。
「――――既定路線を……崩す?」
「そう、つまり、<魔王>を倒すのを避けた」
<勇者>が<召喚>されたことは既に起こったこと、避けようがない。個人個人の思惑はどうであれ、既に魔族は人族領へ侵攻を開始。戦争は既に始まっていた。
ならば避けるべきはどこか。残る既定事項は一つ、<魔王>の打倒。ならばそれを避ければ良いのではないか、というのが私と陽菜乃さんの意見だった。
「なんでそうしようと思ったんですか?」
「最初は春馬さん……<防衛者>の提言からだったの」
<防衛者>国崎春馬。彼は<召喚>当時既に大学二年生であり、その幅広い知識や思慮深さを以て、<支援者>だった陽菜乃さんと共に<勇者>を支え戒めた。というか私達より大人な人間として私達の暴走のストッパー役を引き受けていた。
その彼が、疑問を抱いた。この世界の宗教は、あまりにも綺麗すぎる、と。
「綺麗すぎる?」
「そう、考えてみて。魔族、と言う種族上明らかな敵が存在するとはいえ、人族の宗教は、創世の女神リシュテリアを主神とする女神教だけ。その他、土着信仰が存在していたという痕跡すら見られない。現存する全ての証拠が、昔から人族は女神教のみを信仰していたという事を示す。これってちょっとおかしくないかしら?」
「全ての人族が、ですか?」
「ええ、しかも、国としての体裁をとる前……つまり私達の歴史教科でいうなら、“ムラ”が出来始めた頃、と言うことになるのかしら。その時期から、ほぼ全ての地域で同時多発的に女神信仰が始まったようだった」
きわめて不自然な信仰の発祥。無論、全てを「異世界だから」とすます事も出来ようが、春馬さんはそれで片付けなかった。この世界に於いて、人族が体系的に魔法を使えるようになったのはある程度国の体裁を為した後であるとなっている。つまり、それまでは、元の世界に於ける人間とほぼ変わりない生活であったはず。それを踏まえて元の世界と比較すると、明らかに宗教だけが浮いていた。
後に、魔族と休戦した後で当時の<魔王>、グラディウス・ヴィリエラ・ステラウィトスに確認を取ったところ、魔族側の宗教、いわゆる魔神ラボルファスを信仰する魔神教も、ほぼ同じ発祥をしていたことからますます確信を深めたのだがそれはさておき。
それらを総合して考えた上に、私達は上位者の存在を感じた。つまり、この世界を創った、もしくは管理する何者かの存在を。まあよく考えればレベル・ステータス制の時点で管理者的存在に気づいても良かったのだけれど。
そしてケイと春馬さんは知っていた、もしくは読んだことがあった。世界を管理する、神と名乗る上位者が、自分勝手やらかすネット小説。
「今となっては恥ずかしいだけね。ネット小説の主人公になった気でも居たのよきっと」
神を僭称する者を、下から叩きのめす、そんなよくあるネット小説の主人公に。だからその道を選んだ。
つまり、設定上、今現在一番強大な敵との連合を考えた。無論、当然のことながらそこまでスムーズにいくはずもなく、人族も多大なる代償を払い、陽菜乃さんに至っては一度死んでいる。
その代わり、魔族との停戦、そして同盟に成功した。
だがしかし、それは取ってはいけない選択肢の一つだった。尤も、私達がその事を知ったのは、全てが終わる直前だったのだけれど。
「――もう本当に、あの頃の私達は馬鹿だったの。流石に<システム>について考え付かなくとも、ただ単に既定路線に従っていればよかったのよ」
「そうなったら朱梨先輩に会えず仕舞いになってたわけなんだがそれについてはどう思う」
突然後ろから掛けられた声に驚いた。振り返るとケイが居た。どうやら戻ってきていたらしい。
「ケイ?! 帰ってたの?」
「ああ、今戻ったばかりなんだけど……千年前の話か? ありゃ俺のミスだろ。不相応にも手の届かない物、必要のない物にまで手を伸ばそうとした結果だ。変なところで夢を見るからああなるんだってな。現地側に被害が無かったのが幸いだった」
彼はそう言い放って苦笑いを浮かべる。さりげなく根こそぎ全部責任をかっさらって。まだその意識が抜けないのか。つい先日私達四人全員の責任だと言い聞かせたというのに。
「また全部自分のせいにしてるわよ」
「ん? ……ああ、そうだな、すまん」
どうやら完全に無意識だったらしい。おそらく元の世界で三年間ずっとそれで悩んでいたから、そう考える癖がついてしまっているのだろう。
まあ、彼が考えているというその解決策を用いて全てを解決出来たら、きっとそれも解消されるのだろうけれど。
とりあえず帰ってきたならばそちらの用件を消費しよう。
「今代の件は?」
「ああ、何か今更な事色々言ってたぞ」
「例えば?」
「王国からの公国への同盟の申し出」
「……馬鹿なの?」
「俺も同じこと思った。てか言った」
多分私でも同じことをする。
「どう考えてもそうでしょう?ふざけてるとしか思えない」
「ああ、あと俺に訓練してくれっていう要請と顔見せろって言われた」
「顔?」
ちょっと意味が分からない。
「何か今後も会うかもしれないから本人確認したかったらしい」
「それは勿論」
断ったわよね、と続けようとすると。
「断ったよ、今後お前らと会うなら戦場で敵としてだって言ってな」
苦笑と共に答えが返ってきた。今、彼は、というか私もだけど髪と瞳の色を少し弄っているだけだ。つまりセレスや理沙と兄妹姉妹親戚関係にあると説明できるよう、黒っぽい髪、青っぽい瞳で、ようは元の姿と大して変わらないのだ。
「おお、台詞はかっこいい」
「台詞だけかよ。いや良いけどさ。
それで色々ごたついたけど最終的に、今の<勇者>はお前らなんだから、お前らだけで何とかしろって言ってきた」
「お前それでも勇者かっ!とか言われなかった?」
なんとなく言われてそうな台詞を呟いてみる。というか多分私があちらの立場だったらそれくらい言ってる。
「似たような事言われた言われた。今は違うって言ってきたよ、具体的な事は何一つ言っちゃいない。踏み込んだけどだいぶ回りくどい言い方でも警告メッセ来たから諦めた。それと同盟の内容だが、まあまあまともだと思う」
警告メッセージが来た。警告だけで済んでいるのは、異常事態だからだろう。<システム>もまともな解決策を導き出せていないのなら、手駒として最適な<管理者>のステータスを下方へ弄る事は得策ではないと判断された可能性が高い。
「警告メッセ来たのね……うん、まあ、なら良いわ。それで、内戦は避けられそう?」
今回の問題における最大の論点はここだ。神罰を免れさせる事が出来るかどうか。私達が<システム>の場所に行くまで、彼等には生きていてもらわなくてはならないのだから。
「多分な。だが人魔大戦は起こる気がする」
「やっぱり避けられない?」
「多分な。シルファイドはそこそこ大国だし<勇者>召喚しちゃった以上は何かしらしないと。むしろ公国に向けるわけにはいかなくなったから余計に魔族に向くんじゃねえかな。しかし<魔王>が指定されていない上に、魔族が攻めてきているわけでもなかろうに、どうやって戦争をする気なんだろ」
「さあ。でもそれに関する警告が無いってことは、<システム>はシナリオに沿った戦争だと考えているのでしょうね……」
「っつーかそもそも最初からおかしくはあったんだが」
「侵攻しているとすればそれは確実に人族の方だし、どう考えても<勇者召喚>条件には当てはまらないのだけれど」
「でも多分<召喚魔法>は授けられたんだろ? <システム>の故障か?理沙が死にかけてたことと言い……いやアレは布石って結論だったな」
「<システム>がハッキングでもされてるのかしらね」
「そんなこと出来る存在があるわけないだろ」
一言で結論を切り捨てた。らしくない事を。
「いいえ? 居るわよ、一つだけ。多くの異世界召喚系小説で主人公の前に立ちふさがる、世界をまたぐ強大な存在が」
私達がかつて、この世界に存在すると、私達の最大の敵であると想定した存在。
「……おいおい、まさか神がハッキングしてるなんて言うのか?」
「さあ、あるいは気まぐれな神にチート特典付きで転生させてもらった馬鹿かもしれないわよ。この世界で人族のトップに立ちたいなら、魔族を亡ぼすのが一番楽だし。まあ貰ったチートによるけどね」
ありえない、とは言い切れない。この世界の輪廻の輪は、外に流れないだけ。外から捻じ込もうと思えばおそらく捻じ込めるはず。<システム>は人工物。私達の世代の最新技術ですら遠く及ばないレベルの高度な科学技術と魔法の融合体ではあるが、所詮は人が造った紛い物でしかない。本物の神に何が出来るかは分からないのだ。
ケイは軽く考え込んだようだったが、やがて顔を上げると、手を打ち合わせた。
「さて、まあ何はともあれ移動しよう。ついでに千年前に俺達が最初にやらかした事でも話すか」
よし、複数形になってる。
以上です。
主人公が何かと自分で責任を引き受けたがるのは、自分が変な理想と憧れを追い続けた結果そういう結末を辿ってしまったために戒めがあるべきだ――という建前思考の下で、罰が欲しかったからです。こういう負い目があって、だから自分は生きなきゃいけないんだ、という言い訳のような物が欲しかったからですね。
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