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防衛者  作者: クラリオン
第一章 南へ
19/21

第十五話  選択

長らくお待たせいたしました。なろう版の更新でございます。

実は今週から学校ではテストが始まるので来週までは更新できなくなります……とまあようは今までと変わらないのですが、突発的なやる気上昇による突然の更新連打も出来ませんのでご了承ください




翌日の朝。


予定通り、皇国とさらに南にある国――シルド王国との国境に到着していた。ほぼ夜を徹して走らせた甲斐があった。徹夜運転など、徹夜山中走破に比べれば大したことは無い。




「で、どうするんだレイシアさんよ」


「私達に付いて来るか、それともシルドで穏やかに暮らすのか」


「……私は……うん、貴方達に付いて行く」


「それで良いのか? 誘っておいてなんだが、だいぶ面倒だぞ俺達サイドのこの世界」


「私は話し相手が増えるから異議はないけれど……」


「……生まれてからずっと、何か違和感があったの。一応二度目の人生は、前世よりマシな人生だったと思うんだけど……」


「……まあ前世庶民が今世貴族令嬢とか戸惑うよなあ……」


「それに、こっちだと、ネットも無いから、同年代の人と、気楽に話せる機会が少なくて。一応伯爵令嬢だったから。それに、一人で一から生活を始めるのは不安があって」


「あーそっかそっちもあったか……まあ、理由が何であれ、選択は選択だしな。良いだろう、君の意思を尊重する」


「やった、話し相手二人目ゲット!」


「……それで、取り敢えず新しい呼び名を考えなきゃいけないわけだが」


「じゃあリサでお願い」


「即決したな」


「前世の名前。有馬(ありま)理沙(りさ)


「ああ、なるほどね、じゃあこれからよろしく、理沙」


「うん、よろしく」


「じゃあ、行きますか。こっから南端まで下る。流石にそろそろ赤道だし、そこから一週間くらいで南端には行けるはずだ、うん。その間は……まあ野宿が多くなると思うけど、<勇者>時代の便利な遺物があるから大丈夫だとは思う」




封印したのより一段階グレード下がるけど、それでも下手な宿よりましなテントとかな。




「長旅になりそうね」


「そうだな――お」




目標捕捉、機関砲射撃開始。


ちょうど森から出てきたゴブリンの群れを、車外からの遠隔操作で一掃。やっぱりタブレット操作はチートだと思う。




「……流石兵器……」


「ゴブリンの群れならそこまででもないわよ、この前火竜粉砕してたから」


「……現代兵器怖い」




ゴブリンはランクもレベルも獲得経験値も低い雑魚だが、チリも積もれば山となる原理で、見つけた魔物は全て狩ることにしている。一目のつかないところを移動している関係上、殲滅しても大した影響はないからだ。


あと今気づいたが、どうも燃料・弾薬は無制限ではないようだ。定期的にゆっくり魔力が減っている。かなりゆっくりとではあるが、それは<勇者>の魔力量だからだろう。


魔力を弾薬と燃料に変換しているのか。しかしこの消費量だともの凄く変換効率が良いなおい。




《レベルアップしました》




今のレベルは……22か。現代兵器でかなりパワーレベリングっぽくなってるな。




《<防衛魔法>がレベル6になりました》


《スキル<神楯(イージス)>レベル1を獲得しました》


《スキル<絶対防壁(バリア)迎撃(インターセプト)>が<神楯>に統合されました》




……ここにも来るか現代兵器。<絶対防壁・迎撃>が統合されたということは、まず確実に名前通りイージス・システム的スキルなんだろうな。確認してみるか。<鑑定>。




<神楯>……自分に対し放たれた全ての攻撃を無属性魔力弾によって迎撃する。同時に迎撃できる目標は20。迎撃可能な目標数は、レベルが上がるごとに増加。




あー春馬さんが障壁移動砲台になってたのってこれか。


確か、<魔王>が最終時に一度に放てた魔法攻撃は……数優先なら1000ちょいだっけ?どっちが良いんだろうなあ……<迎撃>なら、少しタイミングずらせば多分全部迎撃できる、ただし最初の一撃は喰らう必要がある。初手全力だったら<防衛者>のガチガチ防御でも厳しい。


一方で、<神楯>の場合は、最初から迎撃を行えるが、途中で処理能力を超過する可能性がある。しかし、数が多い攻撃の場合、単体の攻撃力は下がる。いくつか、比較的ダメージの低い攻撃を見逃し、致命的箇所への被弾のみを重点的に迎撃すれば、あるいは耐えうるかもしれない。


……ふむ、やはり<神楯>の方が生存確率は高そうだな。後発のスキルなだけのことはあるか。




「で、ケイ、理沙はどうする?」


「ん?どうするって?」


「いつまでもEじゃちょっとアレじゃない?」




冒険者ランクか、確かにCランクパーティーの中で一人だけEと言うのは少々目立つ。




「でも街に寄りすぎてもなあ……」


「討伐系一個受けて、あとは無補給で移動すれば良くない?」


「それやったら一週間以上野宿になるぞ、セレスとお前はともかく……」




恐らく貴族令嬢、とはいえ元騎士なセレスはともかく、前世病院暮らし今世貴族令嬢の理沙には厳しいのではないだろうか?




「……前回の遺物あるって言ってたじゃない、まさかアレしかないとか言わないわよね?」


「ガチ目な野宿よりはマシってだけで、貴族の邸宅とか高級宿には劣るだろ」




流石に貴族邸宅レベルになると封印したアレを引っ張り出す以外の選択肢が無いのだが。




「……あの、私はそれでも」


「良いのか?正直言って大分きついぞ?」




少なくとも貴族の暮らしには劣る。一般的な生活よりは上になるが。なんだそのテント。




「……大丈夫、命を助けてもらって、さらにそんな贅沢な事を言うような事はしないよ」


「……なら良いか。セレス、さくら、こっから一番近い町は?」


「あそこに見えるシルド北端の街、ジルヴァストね」


「じゃあそこで討伐系やってから発つってことで」




だいぶ当初の予定から遅れているが、どうせやることは同じだしな。


合流は可能な限り早く済ませるべき。だが、こうも不測の事態が多発するとな……

















依頼完了。ゴブリン掃討してきた。もちろん理沙本人にやってもらったよ。引き金を引くのは。


掃討はほら、35ミリ機関砲で根こそぎミンチするだけだから、詳しい描写とかグロいだけなんで省略。


功績は全て理沙の物に。俺達はB以上に上がったら困るからね。B以上の冒険者は、スタンピードの時に、討伐に駆り出されるからね。今の俺達が駆り出されちゃったら、魔物とか瞬殺しちゃうから、スタンピードの意味がなくなってしまう。


まあ殲滅するだけでも意味の一部は果たせるんだけど、全部の目的を達成させるべきだよねって。




そんなの<勇者>じゃないとか言われても、な。俺はただの<管理者>だ。何も知らない<勇者>ならいざ知らず、世界のからくりを知っている以上、自然の摂理に対して不合理な力を以て抗う事なんてしない。罰則怖いし。




そもそも<勇者>が理不尽なまでに強い力を持つのは、<魔王>に対抗するためであって人族を守るためではないのだから、スタンピードも本当は手出し無用なのだ。まあ<勇者>は大抵手出ししちゃうし多分<システム>もそれを計算したうえで起こす方向に向かわせてると思うが。そういう考えだったとしても俺は今代の<勇者>じゃないからな。



























『――だから私がこれに入れば万事解決じゃない?』





とても懐かしい声がする。誰だっただろう。




「でもそれじゃあ先輩が!」




……ああ、これか、ここか、この時か。ならこの声は先輩。




『良いの良いの。私はどのみちあっちに未練なんて無いんだから』




そういって笑う先輩の顔は、今改めて見ても嘘をついているようには見えなかった。実際彼女にはあちらへの未練何て欠片も残っちゃいなかっただろう。




『でも!』


『貴方達は、まだあっちでも生きられるでしょう? こんなことで人生を無駄にしちゃだめだよ?こんな事は、私みたいなのに任せなさいよ』


「だけど、先輩は……」


『ほらほら、<孤独>を渡しなさい。今からの私にピッタリじゃない?代わりに<犠牲>を渡すけど、使っちゃだめだよ?』


『こいつに使えるわけないでしょ! は、春馬さんもなんか言ってよ!』


『……俺からは、何も言えないよ』


「どうしてですか! 陽菜乃さんは?」


『私からも何も言えないわ……良い? 啓斗君、こういう時は、先輩に任せなきゃ駄目』


「でも先輩がそこまでする必要は!」




そうだ、先輩が、貴女がそうする必要は無かった。事は全て俺の責任だったのだから。




『……そうよ、コレは私の自己満足、言ってみれば我が儘。ねえ、啓斗君、後輩は先輩の言う事には絶対に従わなきゃいけないって言ったの、君だよ?』


「っ、それは……」


『『はい』以外の返事は無いからね』




そう言って彼女が微笑むのが見えた。


ああ、なるほど。やはり先輩は――――だ。俺なんかじゃまだまだ追いつけない。俺じゃ多分引き留めるには足りない。代価は、彼女を引き留めるに足る代価はまだ手元にはない。




「……はい、わかり、ました……」




ようようして絞り出すように吐いた返答に、彼女は満足げに頷いた。




『じゃあ、向こうに帰っても、元気に生きなよ、啓斗、さくら』




でも、先輩。それじゃあ先輩は――――――――


ねえ、先輩、俺達はどこで間違えたんですか?


















目が覚めた。途中から夢だったとは気づいていたが、精神的にはそこそこ来る物があった。


今ならわかる。あの時唯一先輩を止められたはずの春馬さんと陽菜乃さんがどうして黙っていたのか。どうして先輩がそんな選択を選んだのか。


あの時は無知なまま、ただ知り合いと、友達と別れるのが嫌で、駄々をこねていただけだった。俺達が何をやらかしたのかという事も、先輩の事も、この世界の事も何もかも全部わかったつもりで上っ面をなぞっていただけだった。


あの部分は軽く黒歴史かつ俺の人生でもかなり重い部類の思い出だ。ぶっちゃけ過去改変とか何も考えずにただ過去の自分を殴り飛ばして説教したい。


何だろう、昨日移動中にひたすら<勇者>と<システム>について大抵の事をセレスと理沙に話していたからだろうか?


それが原因であんな夢を見たとでも言うのか。


そんなことを考えながら、テントの外に出る。野宿一日目。未だシルド王国領である。天気は、まあ晴れ。素晴らしい朝である、あの夢を見ていなければ。




…………うん、忘れよう。とりあえずテントの片づけを。体を動かして雑念を排除。


そう思い振り返ったところで、女子に割り振った大型テントから、誰か出てきたのが見えた。




「おう、おはよ……う……?」




出てきていたのはさくらだった。だが、何か様子がおかしい、と言うか、顔色が悪い?いや。




「泣いてたのか……?」




テントの外、木の根元に蹲る直前の一瞬しか顔が見えなかったが、泣き腫らしていた、ように見えた。三年前も、今も、常に冷静で取り乱すことのない彼女にしては珍しい。




「何かあったのか?」




取り敢えず隣に腰かけ、空を見上げながら話しかけてみる。<聖女>の慰めは<勇者>の仕事の一つだと思うんだがどうだろうか?




「……いの夢を見たのよ」


「なんて?」




睨まれた。ごめんなさい本当に聞こえなかったんです。




「朱梨先輩の夢を見たのよ!」


「!……そう、か……」




その一言から察知する。つまりこいつも同じような夢を。しかも泣いていたという事は恐らく夢に見た場面は同じ場面だ。




「……あの時の夢よ、わかるでしょ……」




分かるとも。あの時のこいつはマジでやばかった。こいつが大号泣したのを見たのは、それが最初で最後だ。それを知っているがゆえに逆に慰め方が分からなくなった。


もしかしてこいつはもうあの時、俺と違って本当に全てを理解していたのかもしれない。思春期の精神的な成熟は女子が三年ほど先を行くらしい。なら俺は今ようやくあの時のこいつに精神的な成長として追いついた事になる。




「……あの時の事を気に留めるなと言ったのはお前だろ。今からでも遅くはないって言ってたじゃんか。先輩を助けることくらいは可能なはずだ」




結局口から出てきたのはこの世界に来て、何度も確認したことだ。


あの時問題だったことの大半は、俺達が二度目の召喚をされたことで、解決策が用意できる。それでも全方位に対して幸福な解決策ではなく、何人かにはこれまで以上の負担を強いる事になる。




「……でも無理だったら」


「それは考えるな。良いか、悪いことを考えようとするな、希望を持て。先輩には何が何でも帰ってきてもらわなくてはならん」




いつだったか不安を漏らした俺に春馬さんが言っていた言葉を流用する。悪い事を考えるからそれが実現してしまうのだと。想定し対抗策を練るのも良いがそればかり考えるなと。


それに先輩には何としてでも帰ってきてもらわなくてはならない。借りが多すぎるし<孤独>預けたままだし。




「無理という事はないさ、俺がどうにかする」


「……先輩と入れ替わりとかは止めてよね、後味が悪すぎるわ」


「俺がそんなことすると思うか? 恰好だよ恰好。<勇者>なんだからたまにはカッコつけさせろ」


「似合わない」


「真顔で言うな。いろいろと突き刺さるから」




とりあえず平常運転には戻っただろうか。ただそれは本気で俺の心に対して防御無視貫通攻撃なのでやめていただきたい。




「……<治癒>」




とりあえず顔をいつも通りに戻しておく。魔法ってホント便利だよな。




「……ありがと」


「――おはよう、二人ともそんなところで何してんの?」


「お、理沙か、おはよう。セレスはどうした?」


「中の片づけしてるよ。もうすぐ出てくるんじゃない?」


「そうか、なら良い。じゃあ朝飯の準備でもするか」




今日は物理的にだいぶつらい道程になる。一日中車両の中で座りっぱなしなのだから。未舗装を装輪で走るよりはましだと信じたい。




今日からは丸一日ひたすら街を避けて荒野を南下していく。今日の目標は砂漠の手前。そして明日で砂漠を抜ける。さらにそこから聖リシュテリス神国、あと国名覚えていない二、三ヵ国を多分抜けて、人族大陸の南端へ。そこからは船か。最悪海自のゴムボートだが正直それは避けたいので、道中は積極的に魔物を狩っていこう。レベル上げれば色々出せそうだし。リアルイージスとか。


そんな事を考えながら朝食を食べる。メニュー?普通の洋食です。サンドイッチとヨーグルト。野宿であることを考慮すればそこそこ良い食事ではなかろうか。<空間収納>万歳。




「ねえ」


「ん?」


「昨日言ってたことでいくつか気になることが出来たんだけど聞いてもいい?」


「良いぞ、昨日はこちらが一方的にしゃべるだけだったからな」




何せ伝えるべきことが多すぎるのだ。それに加え、理沙には<管理者>に関しての詳しい説明も挟んだので尚更である。




「<システム>ってのはさ、実際のところ誰が創ったの?」


「<システム>を構想したのが誰かの詳細は今でもわかっていない。ただ、構想して作ったのはかなり昔――まだ<勇者召喚>が確立されて無かった頃に、この世界に誤って転移した、恐らく俺達と同じような世界の人間だ。そうでもなければあんなものは思いつかんだろ」




そうでなければとんだ異常者である。あんなもの、俺達の世界を知っていなければどれだけ先読み出来てるんだという話である。




「えっと……始祖竜、だっけ、覚えてないの?」


「名前は憶えていないとさ。ただ日本語しゃべってたらしいし、日誌と説明書の走り書き、それに墓碑銘の文字は日本語だったから日本人だろうと」


「……その人はじゃあこっちの世界で?」


「多分な、墓もあるから」


「お墓に名前は?」


「書いてない。ただ『願わくば<勇者>が我が遺志を継ぐことを』って彫ってあっただけだ」


「それなんて聖人……」


「創った者は人によっては大分悪趣味と言うか正気じゃないと言われるだろうがな」


「ううん、私達の世界を見たらもしかしたらそっちの方が良いかもしれない」




いや、それでもかなり変だと思うが。




「……他に質問はあるか?」


「ううん、気になったことはこれだけ。そっか、私達と同じような世界の同じような時代の人か……」


「恐らく、という但し書きが付く。もしかしたらもっと未来かもしれん」




俺達と同じもしくはもっと未来から、科学技術が未発達で、魔法があるところに訳も分からぬまま転移。最終的にその世界の為に自分の持てる能力と技術を捧げる。



……無理無理無理無理。そんな真似俺にはできません。







お分かりの方もいらっしゃると思いますが、雷帝竜の巫女こと理沙/レイシアの苗字を変えました。

ずっとどっかで聞いた事あるよなって思ってました、この前デレステ十連引いて気付きました、そういう事です。そりゃ知った名前なら自然に出てきますよね。

名前の由来知った事で逆にイメージが固定されそうだったので苗字を変更しました。もともとクラスメイトや過去の召喚者と被らなければいい、という程度で決めた苗字でしたので。


それでは感想評価質問などお待ちしております。

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