第十四話 <管理者>
明けましておめでとうございます
今年も本作品をよろしくお願いいたします
本編の更新です、第十四話 どうぞ!
「あのっ」
「ん?何か?」
「その……助けてくれてありがとうございました!」
「ああ、良いですよ別に」
「仕事だし、ね」
「……仕事?誰かから依頼を?」
「うん、君から」
「……え?私……から?」
「そうそう……って人と話すのにフード被ってるのも失礼か……改めまして、初めまして、雷帝竜の巫女殿。私は<システム>特務管理者のケイト・カンザキと申します」
「同じく特務管理者のサクラ・ウチヤマです。昨日の救助要請に応じ、参上いたしました……って言っても多分意味不明ですね……とりあえず移動しましょう。ケイ、<偽装腕輪>はある?」
「数百個」
「そんなに要らないわよ……一個レイシアさんにつけてもらって……レイシアさん、コレ付け方わかりますか?」
<空間収納>から、<偽装腕輪>を取り出し、付け方を説明する。瞳と髪の色、微妙に顔の形すら変える事が出来、さらに顔が印象に残りにくいような<認識阻害>の魔法をかけた魔道具。
それを付けると、金色の瞳は蒼く、金髪は黒髪に変化した。
「……中々面白い組み合わせね」
「まあいいんじゃね? 大分印象は変わった。一発で見抜かれることはまずないし、印象にも残らないならバレることは考えなくていい」
バレたところで、俺達を止められる物は存在しない。
「この国を出るまでのことだし、ね」
「宿は?」
「とってきた」
「明朝午前五時発」
「了解」
「さて、取り敢えず宿に移動しましょう。詳しい話はそこで」
「……ふぅ」
部屋に入ったところでフードを取る。
「さて、レイシアさん、いろいろ聞きたいことがあるとは思いますが、まずは我々とその行動についての簡単な説明を聞いてください」
「はい」
「では私から説明します。私と彼――ケイは、<特務管理者>という地位にあります。そして貴女は恐らく自覚は無いでしょうし、ご存じでないと思いますが、<管理者>という地位にあります。<特務管理者>は<管理者>の……まあ部下のようなものです」
「<管理者>……?」
「はい、詳しくは後で。さて、我々は、昨日、我々より上位、つまり<管理者>からの救援要請を受信いたしました。ちょうど皇都から北へ800キロほどの場所でしたが。そこから要請に応じるべく、急いでここまでやってきて、無事救出に成功した、というわけです」
「救助要請?」
「ええ、まあ貴女には自覚がないとのことでしたが……助けてほしいと願いはしませんでしたか?」
「……確かに願いましたけどでもそんな要請は出していませんわ。そんな力がある事も知りませんでしたし……」
「限りなく低い確率ではありますが、<管理者>の能力を無意識に行使したのかもしれません。何か心当たりは?」
「……おじい様、かしら」
「え?」
「小さい時からずっと、頭の中に一人、男性がいたのです。いえ、声だけですが」
「……憑依?」
「かもしれません、その人はラビラスと名乗りました。声がお年を召していらっしゃったので、おじい様と呼んでおりました」
ラビラス。その名前から俺が思いつくのはただ一人。初代リズヴァニア伯爵にしてその実<システム>の<管理者>権限を持った当時唯一の人間にして雷帝竜の化身。
「声だけか?」
「はい、でも色々……知識面や魔法など様々な事を教えていただきました」
「ふむ……その声はどうなりました?」
「……昨夜からもう聞こえなくなって……呼びかけても応答がございませんの」
「さくら」
「居ないわ。何がトリガーか知らないけれど、恐らくもう抜けてるわ」
「ふむ」
その男のおかげで、<雷魔導>と<竜魔法>を獲得できたのなら間違いなくその男は雷帝竜だろう。<竜魔法>なんて人族は知らないのだから。<雷魔導>もまず才能があってもこの年齢の少女単独では獲得は不可能。見せてくれる師が居なくては……
ん?見せてくれる師?
「そうか」
ならば<魔導>スキルまで持って行ったのは恐らくラビラスだ。竜種は、唯一単独で<魔導>スキルを獲得する存在。彼の魂か、その残滓かは知らないが、憑依していたのならそれくらいは出来よう。
待てよ? じゃあもしかして昨夜の救援要請は。
「なあ、さくら」
「なに?」
「<管理者>権限ってさ、憑依してたら動かせると思うか?」
「……そうね。余計な魔力は消費するでしょうし、そこまで大それた権限は行使できないでしょうけど。例えば――――付近の<管理者>への連絡とか」
「だな」
つまり、救援要請を送ったのも恐らくラビラス。昨夜消えたのも、恐らく自分を構成する精神体、つまるところ魂をエネルギー、魔力の代用として、<管理者>権限を発動させたのではないか。
というかそもそもその<管理者>権限も、そのラビラスの魂に付属していた物ではなかろうか。<管理者>の憑依など前例がないのだから、魂が消えた後も残ったとして不思議ではない。
これが俺の立てた推論だ。と言ってもこれ以外に考えようがないのだが……
「とりあえずレイシアさんに関する謎は解けたけど……話して良いのかねこれ」
一般人相手にはアウトな情報が混ざり過ぎてて説明できない。
「後で話せばいいんじゃない?どうせ国外まで連れて行く気でしょう、それまでに決断してもらえばいいわ。<管理者>権限は残っているようだし」
「だな……というわけで、レイシアさん、その声の持ち主は既に存在していないことをお伝えしておきます。では、次に、これからの事についてお話します」
「はい」
「今、貴女には二つの選択肢があります。一つ目は、このまま国を出るまで私達と行動を共にし、次の国で別れ、貴女自身で自分の人生を新しく始める選択肢。もう一つは、この国を出た後も、私達と行動を共にする選択肢です」
「ただし、後者には、多くの制約と義務が付属します。その代わりと言ってはなんですが、この世界における重大な事実を知ることが出来るでしょう」
「こんなことを言って、すぐに決めろと言うのは酷なのは私達も理解しています。ですので、考える時間を設けましょう。期限は明後日の朝です。そのころにはちょうどこの国を抜ける頃でしょうから」
「明後日……わかりました、ありがとうございます」
「一応念のためですが、外出は控えるか、私かケイと一緒に動くようにお願いします」
「わかりました」
「部屋はさくらと一緒ですから、何か用があればさくらに言ってください」
「……あの」
「なんですか?」
「何も聞かないんですか?」
「色々質問した気がするんですが……」
「そうではなく……その……」
「ふむ、なんで処刑されそうだったか、とかですか?」
「! ……はい」
「興味ありません。大方冤罪でしょうし」
「どう、して、わかるの、ですか……?」
微妙に目が潤んでるのであの状態でどのような経緯を辿ったかはわかる。その中で俺達のようにあっさりと、あるいは無条件で無実を信じてくれる人間は居なかったのだろう。
無論俺達だって確証のないまま信じたわけではない。
「竜種は誇り高き種族です。雷帝竜――貴女の祖先たるラビラスが、貴女を助けることを意図した行動をしたという事は、そのまま処刑の理由がいわれのない物であるということにつながるのですよ」
竜種は嘘を嫌う。罪を嫌う。道に反した行為を嫌う。彼等にとって誇りとは絶対的なものだ。
その中の一人である雷帝竜、もしくはその残滓が、彼女を処刑から助けるような行動をとった。自分の存在を犠牲にしてまで。もし冤罪でなければ、そんなことをしないだろうし、そもそもその犯罪をどんな手を使ってでも止めに行くはずだ。
そうではないという事はつまり、彼女が冤罪という事である。
「だからわざわざ相手を……ましてや我々より上位の権限保有者を傷つけるようなことは言いません」
一応<聖女>と<勇者>ですし。あれなんかさくらの台詞がイケメン。
「吐き出したいことがあったら、今は私を頼ってください」
ちょそれ<勇者>の台詞じゃ……まあ良いか。
「そこでボケっとしてる男も、きっとストレスの捌け口にはなるので、むかついたら存分に八つ当たりしてください」
待って、ねえ、俺<勇者>ですよ? 外見アレだけど<勇者>ですよ? 扱い酷くない?
ほらレイシアちゃん感動のあまり泣いてるよ? この感動的な場面でそれは無くないか?
「ありがとう、ございます……」
泣きながら笑っためっちゃ可愛い。
翌朝、午前五時。身支度を全て終え、セレスが買ってきた食料品や消耗品を<空間収納>に放り込んだあと、宿を出る手続きを終える。外はまだ暗く、人もあまりいない。わずかに老人が散歩していたり、何かの店の店主が準備をしていたりするだけだ。
この時間を選んだ理由は二つ。と言っても最終的には一つに絞られるが。
まず一つは、スムーズにこの街を出るため、である。南の大国の首都なだけあって、皇都リゼヴァルトは人の出入りが多い。日の出以降は門がかなり混雑する。ベストなのは夜から夜明け前なのだが、昨日まで牢獄暮らしだったであろうレイシアの事を考え、休息をとった上での出発にした。
二つ目は、迅速な移動のためである。先ほども言った通り、この時間帯であれば、町の外はほとんど人気が無いはず。それならば八九式乃至一六式を皇都近くで出すことが出来る。元貴族令嬢だから、恐らく俺達に付いて行けるほどの体力があるとは思えない。ので迅速な移動をするには早い段階で車に乗る必要がある。
以上の理由からの早朝の出立。まあつまりレイシアさんの事を考えて、でまとめられるな。
「――こんな早朝にか?」
「ええ、両親から理由すら記されていない、早く帰ってこいとの手紙がありまして」
と、やや困った素振りでため息を吐く。この演技も手慣れたものだ。
「わかった。一応規則に則って身分証明と、あとフードを取れ」
「わかりました」
そう言って、全員が冒険者証を出し、フードを取る。うん?レイシアの?昨日さくらが代理で作りに行った。
「うむ……通って良し!」
普段金髪の人間が黒髪だと随分変わって見えるんだよね。それに俺とさくらは黒髪のままだし、セレスも腕輪のおかげで黒髪なので、余計紛れる。
門から出たら、しばらく街道を行く。適当なところで街道を外れる。
「――そろそろ、良いか」
「そうね――さて、レイシアさん、ここから何が起こっても驚かないようにね?」
「?はい」
「行くぞ――<防衛装備召喚>」
虚空から出現する八九式装甲戦闘車。説明その他をするなら歩兵を乗せるスペースのあるこっちの方が良いと思っての選択。
とはいえ、こちらの世界の人間にとっては、科学の集合体たる鋼鉄の悍馬なんて、どれも見慣れない物でしかない。さぞ驚いた事だろう。とりあえず説明でもしてやるか。
レイシアの方を振り向くと、驚きに目を見開いていた。そうだろうそうだろう、我が祖国の誇る防衛戦用兵器の一つだ。
「……戦……車……?」
……ん? 俺これ戦車だって説明したか?
「日の……丸……自衛隊の?」
ちょっと待て。何で国籍表示見てわかるんだよ。
「じゃあ……もしかして貴方達日本人?」
そして何で国名知ってるんだよ。
「「転生者?」」
驚いた。そんなものは小説の中だけのものだと思っていた。いや異世界勇者召喚の時点で小説だろと言いたくなるが。
元日本人現貴族令嬢。しかもどこぞの小説投稿サイトによくあるテンプレ付き――ゲーム乃至小説の悪役転生――で。何その偶然。
「ちなみに前世は?」
「一生病院暮らしでした、享年……は17です」
「よし同級生ね、以後タメ口オッケー?」
「お、オッケー……」
おうおう随分強引に……
「はい、じゃあとりあえず、前世の事は放置! 移動しましょう! 話は中でも出来るから。ケイ、運転よろしく」
「……了解」
乗り込む、エンジン始動。自動的に装填される機関砲。
「それはまた随分な目にあったわねえ……」
後から聞こえる会話によれば、レイシアは、ただの転生者ではなく、いわゆるループ――同じ人生を繰り返していたらしい。おまけにいずれも国外追放か処刑あるいは修道院エンドだったとか。
乙女ゲームだったか小説だったか漫画だったかは聞こえなかったが、とにかく、俺達の世界にもある作品中設定と同じような世界であったらしい。そこではリズヴァニア伯爵家は悪役なんだとか。
おいおい竜種の末裔が悪役とか無理にもほどがあるだろう。
そう思ったら、なんか今回の世界だけ違ったらしい。少なくとも今までは、髪はともかく瞳は碧だったらしいし、そもそも雷帝竜の存在は無かった。そして何より、ラビラスなんて存在も居なかった。
「でも啓斗……が<勇者>だったなんて……」
今までの世界では<勇者>はいわゆる隠しキャラ的存在で、立ち位置に恥じぬイケメンだったとか。
なんだ俺は立ち位置に恥じろってか。すまんなフツメンで。良いだろ召喚は基本ランダムのはずなんだ、何でイケメンばっか召喚されるんだよ。あれか術式にフィルタリングでもかけてるのか。
「今は違うわよ、今代には今代でちゃんと<勇者>も、その相手になり得る<聖女>も居るわ」
「じゃあそっちが隠しキャラ? それはヒロインちゃん残念」
「それに、こっちに来る時期も大分ずれるだろ」
首チョンパして、侵攻を遅らせたからな。あれで上手く戦場に対する恐怖を煽れたらいいのだが……あれは警告と忠告、そして<勇者>パーティーに対しての見せしめ――<勇者>とて相手によっては殺られる側に回ることのデモンストレーション――としてやったことだ。
だが同時に彼らの希望にして中心たる<勇者>が不死であることを示すことでもある。この事実によって、彼らが調子に乗る可能性もある。言わば両刃の剣なのだ。
「調子乗らなきゃ良いんだけどな」
「乗ったら乗ったでまた潰しに行けば済む話でしょう?」
お前<聖女>でクラスメイトの癖にエグイ事言うなおい。つまりそれって「もっかい殺してこい」ってことだろう、それで良いのか<聖女>。
「……それにしてもループ転生かぁ……<システム>のあるこの世界じゃありえないと思ってたんだけどなあ」
同じ時間軸を何回も繰り返すという地獄のような転生、ループ転生。だが、ほぼ全ての生命体の死が、かなり大雑把とは言え管理され、時空属性竜が存在するこの世界で、それが生じうるのか。
いや、そんなことを<システム>が許すはずがない。アレは世界の永久の存続を目的に作られたモノ。ループは確かに永久に続く世界の実現の一つの手法。だがそれは常に閉じている。常に同じ人物が、同じ立場で、同じ終わりを迎える世界。それは<システム>の二つ目の目的に反する。
逆に考えろ、逆に。
経験者が居る以上は、それは実際に起きた出来事だ。<システム>がそれを許容するだけの何かがあった。いや、もしくは<システム>が意図してそれを行った?
考えよう……アレは機械だ、目的達成のため、作業効率化のためなら俺達に思いつけないこともする。俺達とは根本的に着眼点が違う。
ネット小説での冤罪悪役小説のエンドは覚えちゃいないが……今回は処刑される令嬢は竜の加護を受けし巫女。そんなもん冤罪で処刑すれば途中で国が滅ぶぞ……国の、滅亡?
死者の大量発生。まさか。いや、それなら辻褄は合う。目的は分かった。ならループは手段。
ループじゃない、シミュレーション?
生まれる前の魂を使って、国を滅ぼし、出来得る限り多くの犠牲を出すことを目的とした予行? 鬼か<システム>。
「……なあレイシアさんよ、つかぬ事を聞くが、君の周りにループしたと思われる人間は?」
「居なかったけど……」
「転生者は?」
「居なかったはずよ」
「OK、大体理解できた。さくら、<システム>が大分はっちゃけてるらしい」
「今の質問で最後のピースでもはまった?私にも説明くらいしなさいよ……」
『……ループの正体はアレがやったシミュレーションだろう。実際にその場を構成するはずの、生まれる前の魂を使った、大規模な演習だ。目的は存在目的と一致。繰り返していたのは、どう調整すれば、死者が増えるか、だと考える。違うかもしれないが、現状というか本来の道筋を考えるならそれが妥当だ』
『それどっから思い付いたのよ……』
『ネット小説のあらすじとレイシアの竜巫女って職業。他にも考えられるかもしれないが、可能性が高く、一番合理的なのはこれだ。周りの記憶に無かったのは、魂そのものへ干渉されていた、もしくは複製だったから』
『ああ……レイシアは転生、つまり異世界の魂だからうかつに干渉できなかったのね』
『な、辻褄は合うだろ?』
『じゃあ今までの人生で雷帝竜が居なかったのは』
『システム内まで直にアクセスが出来なかったから、だろうな。竜巫女という職業そのものなら雷帝竜の憑依は無くても良い。ただ本当の人生では居た、多分<システム>も承知の上かもしれない』
『どうして?』
『じゃないとわざわざ異世界人転生者とかいう取り扱いが面倒な魂に、管理者権限付けたままにしないだろ。恐らくアレは全部見通してるぞ。流石に俺たちが助けに入ることを確実に予定していたわけでは無いと思うが』
『……まさに神ね』
まさに其の通り。皇国や今代から見れば確実に<デウス・エクス・マキナ>だ。そしてその本質もまた<機械神>。
これが、良くある小説なら、それに抗うのが主人公の役目なのだろうな。
でも俺はあえて<システム>に阿る。それがここでは最善であると知っているから。
そして俺の推測が当たっているならば、きっと彼女の運命は俺達に責任の一端がある。
俺が逃げたから、逃げざるを得ない状況をつくらせてしまったから。<システム>は死者を増やす手立てを考えなくてはならなかった。結果として現地の人々に負担を強いる事になった。
次は逃げない。あの時の借りはきっと、大きく大きく、利子がついて膨らんでいるだろう。
今度は逃げない。三年前の負債も全部、返しに行こう。これは、彼女を助けた事は、その第一歩。
合理的で、平和で、永遠に続いていく世界のために。<システム>を作った誰かの遺志のために。
さて、そろそろこの世界のからくりの一端が見えてまいりました。
機械<システム>によって統治されるこの世界、ならばどうして<勇者>と<魔王>が現われるのか。
かっこよく言うとそんな感じです。
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