第十三話 雷帝竜の竜巫女
本日二回目の投稿です、ご注意ください。一つ前の投稿は閑話です。
ようやく、ようやくです。この作品を執筆するにあたって一番書きたかった状況が入ってきます。
それでは第十三話です、どうぞ!
公国を発って5日後。俺達は無事スルヴァニア皇国に到着していた。伝達石にも異常はなく、つまりそれは王国対公国の戦争に<勇者>が介入していない事を示していた。
俺の忠告を聞いたのか、あるいは、<勇者>達にとって戦場がトラウマと化したのかまでは知らない。出来れば両方であってくれればと思う。
宰相執務室及び謁見室の<警戒地点設置>は解いていた。<勇者>撃退の翌日のことだった。最後のデータによれば、<勇者>はどうもその日までは寝ていたらしかった。宰相はまだ企みを諦めてはいないようだが……
一方で、こちらはと言うと、つい先ほど、<火竜討伐>の依頼を受諾し、完了させたところである。やはり現代兵器というのはこの世界では大分チートだと思う。
本来ならば、水属性魔法使いを数人投入し、ランクCのパーティー複数、人数としては数十人を投入すべき、火属性魔物としては炎帝竜を除く頂点たる火竜を、たった三人で討伐できてしまうのだから。いや、実際は一人だけでも済む。
01式軽MATこと01式軽対戦車誘導弾3発。これだけで火竜は、鱗を砕かれ、脚をもぎ取られ、あっさりと息絶えた。まあ相手のレベルも大して高くはなかったし、多分進化してそこまで経ってなかったなこいつ。
「エグっ」
「科学の勝利」
「サラマンダーが、こんな簡単に……」
これでまだスキルレベル2なのだ。スキルレベル10になったら世界とか滅びそう……いやそれはないか。
《<防衛装備召喚>がレベルアップしました》
《<防衛装備召喚>がレベルアップしました》
まさかの二回連続レベルアップ。レベル4。どれくらいまで召喚できるようになったのか。
……ふむふむ、最大で9×4×3メートルを一つ、か。それより小さければ、数は増える、ほうほう。ふむ……あれ?これってもしかして戦車とか召喚出来ちゃったりするんじゃなかろうか?
本来車が必要ではあったが、確かどっかのテレビ番組で見た時、陸自の戦車ってそこそこ速度が速いみたいな話を見たような気が……
生憎、陸軍装備は守備範囲外なので、詳細は知らないけれど。試してみよう。
無理でした。どうもぎりぎり大きさが足りなかったようだ。畜生め。
でも代わりになりそうな物は召喚できたので良しとしよう。
一六式機動戦闘車。
俺はタイヤ付き戦車と覚えているが、まあ外見はまさにそんな感じ。なぜか車内に存在したカタログによれば、最高時速は100キロ以上。走行しながら撃てる。しかも、召喚した物だからか、操縦はタブレット的な端末で行える。照準、射撃も、端末に外部の様子を映し、ボタンを押すだけで射撃可能。砲弾は数種類から選択が可能で、自動装填な上に弾薬無制限。
チートじゃねえか。
コレをチートと言わずして何と言おう。いやまあ取り扱いとか知らないからありがたいんだけど、まさにご都合主義?
「よくやった、褒めてやろう」
「上司かお前」
「……なんですかこれは……?」
「あー……俺らの世界で言う戦車だ」
「戦車……ですか?でも馬とかは」
「要らない。これは……まあ例の科学ってものの力で、自走する」
「ああ、科学の……」
それで流せるようになった辺り慣れてきたっぽいな。
「今度から移動はこれでしましょう、障害物も消しやすそうだし」
「まあ多分サラマンダーでも瞬殺できるだろうし……いや、待てよ?――<任務完了>」
一度消す。
「<防衛装備召喚>」
次に思い浮かべたのは、八九式装甲戦闘車と呼ばれる物。陸上自衛隊の車両で、春馬さんがやたら詳しかった車両。というか陸軍系の装備は根こそぎ春馬さんからの物だ。何度も聞かされたら嫌でも覚えるよな。
装軌車両ではあるが、こちらの方が使い勝手がよさそうだ。というのも、こちらに付いているのは、機関砲クラスの火砲と、重MATと呼ばれる誘導弾。魔物の群れ相手なら多分機関砲の方が良いだろう。
相変わらずお手軽操作の自動装填かつ弾薬無制限。
「これで良いか。次の街まではこれで移動しよう。そこで物資をそろえて、機動戦闘車で、一気に下る。海とかは……また考えよう」
「了解!」
「えぇーーーーーー?!さっ、火竜討伐できたんですか?!」
「おう、これが討伐証明部位、逆鱗だな」
「確か皆さんって冒険者ランクは……」
「Cだな」
「何で単独で火竜討伐出来るんですか?!」
「足止めして正面から水系魔法で撃ち抜きました」
「……セレスさんですね」
「ああ」
「ご兄弟で強い魔法使いがいらっしゃるとは羨ましい」
ギルドの受付の女性職員は恐らく本心でそう言っているのだろう。横目でセレスが引き攣った笑みを浮かべるのが見えた。実際の序列では、彼女が一番下に来るのだから無理もない。
とはいえ、<防衛魔法>や<防衛者>については、おいそれと口に出せるはずもない。特に<防衛装備召喚>は、その実際を知ればどの国も欲しがるであろうスキルなのだから、彼女が仕留めたことにするほかない。
「はい、こちらが討伐報酬となります。あと三人ともランクが上がりまして、Bとなります」
「ありがとうございます」
「もう出発なさるんですよね?」
「ええ、この後は皇都リゼヴァルトによって、西大陸を目指します」
「ああ、親戚の方に会いに行くんでしたっけ?」
「ええ、両親ももう居ないのでそちらを頼ろうと」
「……それは。申し訳ありません」
「いえいえ、お気になさらずに。それでは」
組合を出て、途中で馬を売る。そして徒歩で南門を出る。
そして街道を進むも途中から少し外れる。
「この地方だとそろそろ森は少ないんだっけ?」
「そうね、もう少し進んで、それから皇都直行ルートなら、行く手に町も村も、森林も無いはずよ、地面は悪いけれど」
「ならよし――<防衛装備召喚>」
目の前に現れる鋼鉄の悍馬。
悪路でも難なく乗り越えられる履帯と、大抵の魔物どころか、下位竜すら仕留めきれるであろう兵装。
「出発!」
そして、リゼヴァルトで俺達が見つけたのは、今にも処刑されそうな一人の少女だった。
突然だが、竜種についての話をしよう。現在世界で、人族により“竜種”だと認定されているのは6体。全ての竜種の親たる始祖竜と、魔法の基本属性である火、水、風、地、雷をつかさどる属性竜5体。
が、この認識には大いなる誤りが二つ存在する。
まず一つ目。
存在する属性竜は、7体である。
人族に認識されていないのは2体。
魔族領に住むことから人族の目に触れない、闇の属性竜。
そして<システム>本拠地近郊に存在するが、それを認識できるのは、竜種と<魔王>、<勇者>、<防衛者>のみの、空間属性竜。
そして二つ目。
雷の属性竜はこの世には既に存在しない。俺も会ったことがない。彼が消えたのは、俺が<召喚>されるかなり前、<システム>起動時からだ。
では普段人族が雷の属性竜と認識しているのは、誰なのか。
それは光の属性竜である。
ではなぜ消えたのか。
彼は詳しく言えば、消えたのではなく、その力のほとんどを失い死んだということになる。スキルや魔力さえ失った。いや、返上したのだ、世界もしくは神に。ただ一つ彼が手元に残したスキルは<人化>。自らの外見、体力、寿命などを全て人族にし、人族としてのステータスを手に入れられる<変化魔法>の一つ。彼はそれを発動したまま、元の住処から人里に下り、やがて人族と結婚し、子孫を残し、人族として死んだ。
彼の人族としての名は、ラビラス・フォン・リズヴァニア。彼の子孫は後に、ヴァルキリア皇国の時代、リズヴァニア伯爵家となり、リズヴァニア伯爵領を治めていた。
そしてヴァルキリア崩壊後の今日でも、その名を取ったリゼヴァルト皇国において、伯爵家として存続していた。
存続していた。
なぜ過去形なのかと言うと、俺の目の前で、彼らの処刑が執行されつつあるからである。
ここは皇都リゼヴァルト、王宮前広場。
本来、組合と店にしか行かない予定だった俺達がここに居るのは、昨日の夜、つまりリゼヴァルトへ移動中に、システムメッセージが届いたからである。
《<システム>上位管理者権限所有者より、救助要請を受信》
上位管理者権限所有者とはつまり、竜種と同等の権限を持つ者。しかし、なぜそれほどの者が、救助を求めるのか。
とはいえ、上位管理者からの要請ならば、下位の特務管理者たる俺達は動かざるを得ない。
という事で、車両を|八九式(履帯)から一六式に乗り換えて、皇都へと急ぎ、郊外で収納し皇都入り。すると目の前で処刑が始まるところだったというわけだ。
「……なあ、つまりリズヴァニア伯爵家って、雷帝の子孫なんだろ?」
「……そうね、魔力に竜種の反応が出ているわ」
魔力封じの枷がはめてあるため、感じ取れる魔力は微弱でしかないが、それでも<魔力感知>を持ち、竜種との接触経験がある俺とさくらには十分だった。
「……てことはつまりあの娘って」
「竜の加護を受けし竜巫女。多分要請してきた上位管理者もあの娘よ」
「あそこの……親っぽい奴らじゃなくてか?」
「あの2人は魔力反応が薄いし、そもそも女の方は竜の魔力は感じ取れない。はめてあるのは恐らく同等の魔力封じ、なら魔力が大きいあの娘が管理者、多分ね。自覚はないと思うけれど」
丁度その時、ギロチンが落ち、1人の男の首が刎ねられた。
「……あの娘の血族もあの男が最後ね。それ以外に竜種の魔力は感じ取れないわ」
男に続き、断頭台に連行される女。
「ふむ、じゃああの娘は俺が助けに行こう。さくらとセレスは待機しといてくれ」
「お姫様のピンチに颯爽と現れる勇者サマか」
「絵面的には間違ってはいないが、実態が悲しすぎるな」
絵面的にはそうなのだが、内面は上位者の要請に逆らえなかった下位者である。
とか悠長な事をしゃべっていたら女の処刑が終了した。次はいよいよ少女の番。
「じゃ、行ってきます」
「行ってら」
「<空歩>」
空中に魔力で足場を作って飛び出す。途中で<聖鎧>を身にまとい、<犠牲>を抜く。下から構えて、落ちてきたギロチンを、跳ね上げる!
パンッ
そんな軽い音と同時に、ギロチンの刃が砕け散った。相変わらず頑丈な<犠牲>には傷一つない。これ何製?
じゃなくて。
ギロチンに掛けられていた少女の魔力封じの枷を叩き割り解放、その前に跪く。
未だ静寂に包まれた広場中に響き渡るように、風魔法<拡声>を使って。<勇者>ロール始まり!
「お初にお目にかかります、雷帝竜の巫女殿。私は特務管理者、ケイト・カンザキ、<勇者>です。救援要請に基づき参上いたしました!」
完!
「……え……え?」
盛大に戸惑っている。それもそうか、さっきまでもう死ぬんだろうと思ったら、甲冑付けた不審人物(俺)に跪かれてるんだから。
「お怪我はございませんか?健康状態は……失礼、<清浄><聖光>」
健康状態はあまりよさそうには見えない。あまりまじまじと見るのは気が引けるが、汚いし傷だらけだし目の下クマ出来てるし。
汚れを消し、<聖属性魔導>で使える1人用の回復・治癒魔法の内、最も効果が高いものを発動。
淡い光に包まれると同時に、腕や足の痣、おそらく折れていたと思われる指の骨などが全快する。あと囚人服がボロボロ過ぎて目のやり場に困るので、さっきまで羽織っていたのと同じローブを渡す。
顔を見れば、金髪に、金色の瞳、そして漏れ出す、通常の人族とは異なる魔力。金色の瞳は、雷属性魔法の先天的適性の証。あとめっちゃ可愛い、とまあそれはさておく。異世界だからな!
<鑑定>をかけたが、一瞬弾かれた。表示されたステータスも、名前と年齢、職業のみ。間違いなく、俺より高位の管理者。でなければ<鑑定>レベル10を弾いたり、表示項目を減らせるわけがない。
と、そのころになって、漸くこの国の人族が再起動する。
「な、何者だ貴様は!」
なんだかんだと聞かれたら!
……相方いなかったわ。いやまあ冗談はさておき。
「何者かは先ほど名乗っただろう、<勇者>だ」
「ふざけるな!」
「ふざけてはいないな、むしろふざけているのはそちらであろうに」
「なんだと?」
えっ?
「……この少女の正体を、出自を知った上でのこの扱いか? だとすれば愚かな」
いや本当に滅ばなくてよかった。魔力封じ付けててあの魔力量なうえに竜巫女だぞ。怒りで理性飛ぶと同時に国が消し飛ぶ。雷だからまだマシかなぁ。
「ええい!何をしている!近衛、そこの者を捕らえよ!」
逃げるか。やる事やったし面倒だし。
「ちょっと失礼」
「……え?」
予め断りを入れてからお姫様抱っこ。これで俺が素顔さらしててその素顔がイケメンだったら絵になると思うんだ……現実は非情だよな。
「<空歩>」
<勇者>を捕まえられると思うなよ。空中へ退避、そのまま水平方向へ加速。
「<幻影><陽炎>」
続いて、闇属性魔法と光属性魔法を行使。俺達と同じ姿の影を複数作り、別々の方向へ向かわせ、俺たち自身は光を屈折させて、人の視界から消える。
人気のない路地に入り込んだところで魔法を解いた。ついでに<聖鎧>も消して、もとのローブ姿に。
「さて、流石にアレは追ってこれなかったか」
まあ万能型<勇者>の全力隠形追って来られたら相当ヤバいが。
少女を下ろして一息つく。
「遅かったじゃない」
「悪い、ちょっと問答をしていてな」
路地の物陰から、さくらが音もなく現れる。こっわ。
「……パッと行ってパッと攫ってくる予定だったんじゃ?」
「ごめん、誰だ貴様はって聞かれたから反射的に」
「……まあ、良いわ。で、その娘は?」
「レイシア・ウィルティ・リズヴァニア、雷帝竜の竜巫女。年齢は17、俺達と同級だな」
「そう」
「セレスは?」
「買い物」
「なるほど」
「……あのっ」
レイシアさんは漸く現在の状況を把握できたようだ。良かったですね、貴女助かったんですよ。しかも世界最強のCランク冒険者の護衛付きです!
以上です。感想評価質問批評などお待ちしております。
さて、なろう版は今回の本編第十三話を持ちまして本年の投稿を終了とします。作者の面倒くさがりのせいで投稿間隔が長い本作にお付き合いいただきありがとうございました。来年はハーメルン版同様のペースで投稿を続け、どうにか追い付かせる予定です。
それでは皆様良いお年を!