第十二話 第一回・初代勇者の防衛戦④
数週間ぶりですクラリオンです。
思ったより改稿部分が多かったです。ハーメルン版の更新履歴を見返せば一年以上前に更新、その後今年に入ってから微妙に変化したプロットに合わせ改稿を行っていました。
つまるところ一年前の自分の文章が思った以上に酷かった事になります。一年で随分とまあ変わりました。
そんなわけで、初代勇者の防衛戦ラストです。どうぞ。
自分でも、何か悪役っぽい言い方だよなあと思ったセリフに、ビクッと相手が反応した瞬間に動いた。現在後衛に居るのは17人。うちこちらに攻撃が可能そうなのは<魔導師>2、<魔導士>2、<死霊術師>1、<傀儡術師>1、それから<調教師>は……動物を連れていないので無視できる。
しっかしほんと、28人もいると職業もより取り見取りじゃねえか、羨ましいな。俺達の時は4人だけだったのに……まあ多すぎてもいいことは無いか。
とりあえず攻撃可能な奴に対し、<光槍>を放つ。
が、当たる直前で、透明な障壁か何かに当たって消える。
「ああ、なるほどねえ」
<結界術師>か、なるほど。攻撃かける前は魔力の動きを感知しなかったから、多分あの一瞬で張ったんだろうな。
今代<勇者>パーティーも割と優秀ではあるんだろうな、性格に難があるだけで。
……それが一番駄目じゃねーか。なんだよ性格に難がある<勇者>って。
そんな事を考えながら、再びの<光槍>。ただし、今度は俺の全力で、連発。
パリン!
そんな音を立てて結界が砕け散る。当然と言えば当然。現時点で、たとえ第2級魔法であろうと、俺の全力を防げるのは始祖竜と春馬さんのみ。そして2発目の弾着。
6人全員が倒れていることを確認し、次は<縮地>を連続で使用。<結界術師>2人から順に、手刀で意識を刈り取ったあと、腱を斬り、止血だけして次の標的へ、という動きを繰り返す。
途中、今代が立ちふさがったが、蹴飛ばして排除。はっはっは、止められるものなら止めてみな!
「おしまい!」
今、地面に立てているのは俺と篠原のみ。
「……魔王を倒すとか言うから期待していたが、パーティーメンバーは大したこと無かったな。さて、次はお前の番だ、今代」
「どういう……意味だ」
「どういう意味も、つまり、お次はお前のテストだってことさ」
「テスト?」
「そうだ、<魔王>を倒す、それだけの力があるかどうか、をな。どうした? 怖気付いたか? お前のお友達の主張によれば俺は魔族らしいからな、俺くらい倒せないと、<魔王>なんて倒せないが?」
適当に挑発して煽る。これ煽るでいいんだよな?
「怖気づいて、なんか、いないっ!」
「なら上等だ、<聖剣>でかかってこい、俺も本気でやるから気ぃ抜いたら殺されるぞ」
<聖剣・犠牲>を握りなおす。かなり簡単に折るとか言っちゃったけど、<聖剣>自体はかなり頑丈な、この世界ではどの数値も最強級の武器。相手のステータスが低くても油断しているとやられる可能性もない事もない。
というわけで、気合入れていきましょう!気を抜かないように!
「オオオオオオオッ!」
「ほれよ」
真正面から振りかぶってきたのを、右側面に当てて軌道を逸らす。添えるようにではなく、半ば叩きつけるように。
「ッ!」
「せいっ!」
弾かれたそのままに今度は回転して左から真横に斬りつけたのを、下から跳ね上げる。
「やはり<聖剣>なだけあって丈夫だな」
普通の鍛造された剣ならば大抵初撃か、次の跳ね上げに耐えきれずに折れる。相手となる<聖剣>が頑丈過ぎて、衝撃によるダメージがすべてそちらに行くからだ。しかし、これは格が低く、完全ではないとはいえ<聖剣>。ダメージは大きいが、すべて受け止めているわけではなく、こちら側にも流れてきている。
だが、格はこちらが上。耐久――剣のHPもこちらが大きく、ダメージ量はこちらが小さい。こちらが負ける道理はない! はず。
すると、飛び下がって、詠唱を始めた。ふむ。
「『我が聖なる魔力を以て剣と為し、魔を打ち払え』!<光刃>」
ああ、ビームソード(仮)か。聖属性に変換した魔力を聖剣に流すという魔法。
まあ攻撃力は上がるし、魔物に対してはそれこそどこぞのビームソードクラスの攻撃力を発揮できる。
さて、魔法に対処するのに一番有効なのは反対属性同階位。ただ光の反対属性は闇なので魔族扱いされかねない。よって次善の策。
「<光刃><覚醒>」
同一属性同一階位の魔法。と言っても魔力量をやや多めにしたから威力的には篠原のより上だが。
さて、恐らくこれが今のこいつの最大火力状態だろう。なのでそれをポッキリ折ればそれで良いはず。一方で<勇者>パーティーの皆を起こす。そして短詠唱魔法に続き、特殊な魔法の詠唱にかかる。残念ながら俺は<犠牲>の本来の持ち主ではないので、未だにコレだけは詠唱せざるを得ない。
「『我が魔力の全てを犠牲に、すべてを切り裂き防ぐこと敵わぬ力を』」
「行くぞ!」
「来い――<必断ノ剣>」
そして正面から交差。金属音が鳴り響く。
<勇者>が停止した直後に落ちてきたのは――――<聖剣・正義>の剣先だった。
「当然の結果、だな」
「<聖剣>が?!」
「……そ、そんな馬鹿な……<聖剣>は絶対に折れないんじゃ……」
「普通の剣じゃまず折れないな。だが、<聖剣>が複数存在する以上、格の違いもまた存在する。<犠牲>は、この世界で、数十年にわたり戦い続けた者の剣だ。召喚されて数か月の<勇者>の<聖剣>に負ける剣ではない」
まあ他に理由が……というかぶっちゃけるとさっき詠唱した<聖剣>の固有技能のおかげだけどな。
出来ればもっとボコりたかったけどね。<正義>が弱すぎたのと、<犠牲>の固有技能が強すぎたのと。
まあこれからまたボコるんだが。
「さて、<聖剣>は折れたが……まだ戦うか?」
「まだ、戦うさ……」
そう言って、<聖剣>の折れた断面を合わせる。へえ、その程度はわかったか。一瞬光を放ち、それが収まると、元通りの<聖剣>が現れた。じゃあ続きやるか。
まあ続きってものでもないけれど。
「<闇刃>」
全力を出す。距離を一瞬で詰めて、闇属性の魔法を付与した聖剣で一文字に今代<勇者>の首を刎ね、少し通り過ぎたところで、剣を振り切った状態で静止。
ゆっくりと地面に伏した首の無い篠原を見て、場を一瞬静寂が支配した。そして主に女子から悲鳴が上がった。
「……ゆう、と?」
「死んでるぞ?」
「……ゆ、勇人ぉ?!」
「……い、やあああああああああああああああっ?!」
さて、こいつらはどう思うんだろうか?この状態から蘇る友達・仲間を。
<システム>の機械音声が聞こえる。ここで聞こえているのは俺だけだろうが。
『HPの全損を確認。<聖剣・正義>の耐久度の減損なし。<勇者>再生プログラム起動、シークエンス開始。<聖剣>の効果により<再生魔法・完全再生>を発動。肉体の修復を開始、終了まで30分。完全再生まであと2時間』
だからこんなことを言える。相手からすればふざけるな、よりによってお前が言うな、と言われそうなこんな台詞を。
「まあ、そんな悲しむなよ、どうせ生き返るんだから、さ」
「さて、<勇者>パーティーの諸君、静粛に」
「ふざけっ……グッ!」
「無理に動くと傷が痛むぞ、帰るときには治療してやるから黙って待ってろ……さて。<賢者>はどこだ?いくつか親切心で教えてやりたいことがあるんだが」
「……僕だ」
ああ、やはり高山か。
「お前何してたんだ?」
「へ?」
「へじゃねえ。お前<賢者>の意味わかってるのか?<勇者>パーティーにおける参謀だぞ」
「そんなの知って……」
「じゃあなぜのこのこと戦場に出てきた。本当にこの国が魔族と協力関係にあるならば、<魔王>とまではいかなくとも、上級クラスの魔族が出てきていたかもしれない、そうは考えなかったのか?」
「あ……」
どうやら彼らは自分で考える頭を持たないようだ。性格云々の前にオツムの問題だったか。なんて、まあそりゃあこないだまで一般人だったからこれを求めるのは無理があるか。
それでもやってもらわなくちゃ困るんだよ。お前らの双肩には人族の運命(期間限定)が掛かってるんだからさ。
「あ、じゃねえ。全く……王国は一体どんな教育をしているんだ。今回は、結局魔族との関わり合いは無くて、かつたまたま俺が、初代<勇者>が居たからいいものの……まかり間違っていれば、お前ら全滅してたり、<正義>の名のもとに大量虐殺していたかもしれなかったってことを肝に銘じておけ」
「たい、りょう……ぎゃく、さつ?」
「わからないのか?俺が居なかったらお前らが相手していたのは誰だ?公国騎士団だろう。さて問題です。チート級能力を持った異世界人VSこの世界の一般人よりちょい高めステなだけの人種。どうなるでしょうか?」
正解は、人種が瞬殺される、だ。今さっき俺は、圧倒的なレベルと戦闘経験の差で<勇者>を瞬殺したわけだが、例えば普通の騎士団員相手であれば、レベルは敵わなくともステータスだけでごり押しできるはずだ。
騎士団長相手でも、多分勝てる奴は多い。
<召喚>された<勇者>とは、それほどのチートなのだ。だから人に向けてはならない。<システム>の意味がなくなってしまう。
「いいか、良く聞け<賢者>。お前の役割は、<勇者>の行先を正すことだ。一緒になって人の考えに乗っかってんじゃねえ。<勇者>の役割を果たすように、自分で考えて行動しろ。また同じことを繰り返したら、次は手加減できないからな」
本当は竜種とかが来るって言った方が良いんだろうけど、それじゃあ脅しにならない気がした。ああ、そういえばこいつらは竜種は魔族の手先だと言われてるんだったか。
「じゃあな<勇者>諸君、そこに転がってる死体は二時間放置すれば生き返るから埋めたりするなよ。最後に、もう一度忠告しておく、これが最後だ。<勇者>の力を人族に振るうな――――<完全治癒><聖結界><転移>」
約束通り、身体欠損とHPを範囲回復させる聖属性魔法を使ってから撤退する。
身体の正面を向けたまま、転移。
撤退するときは、後ろから撃たれないように、ね。
陣営に戻ると、既に騎士団長以下も居た。なんでも<勇者>が討たれたことは、王国軍の中でもすぐに広まり、すぐに撤退していったらしい。まあ、<勇者>が討たれたとなると、士気は駄々下がりだよなあ……相手側にそれだけの強者がいるってことになるんだから。
「<勇者>は殺した、だが生き返る。まあすぐに戻ってこれるとは思えない。時間はとりあえず稼いだ。もしまた<勇者>が出たら、これを使ってくれ」
そう告げて、団長に石を渡す。
魔法石の一種で伝達石という品物。魔法石としてのランクは低く、効果も、二個一組の片方が割れた時、もう片方が激しく発光し熱を持つというだけ。まあ非常事態発生の報せはそれで十分だろう。
可能性としては決して低くはない、警告が通じなかったときの保険のつもりで渡した。
「は、承知いたしました」
「ではな――<転移>」
「おかえり、殺ってきた?」
「首チョンパ」
「……意趣返し?」
「いや、一番楽だったから」
「成長具合は?」
「まだ固有スキルは出せてない。レベル的にも2から4くらいじゃないかな?」
これで公国の騎士団長と互角以上なのだ。公国自体がそもそもそこまで強い人間がいないが、それを考慮してもなおちょっと頭がおかしいステータスである。
「まあ召喚して一週間程度なら、上出来かしら」
「うむ、ああ、あと折ってきたぞ」
「他のは?」
「腱斬ったか腕と足奪った。止血は火属性魔法」
「鬼か。まあでも、うまくやれば戦場に出てこれない……うん、上出来」
貶してるのか褒めてるのかどっちだ。
「え、と、お疲れ様でした、ケイ」
「ああ。……あれで少しは<賢者>がストッパーになってくれるとありがたいんだが」
「無理でしょ。<賢者>は確か……高山でしょ?あいつ頭は良いけど」
「ストッパーに向いては……いないね。桑原とか田中とかに押し切られそうだ」
「わかっててやったの?」
当然。ほかの連中とのやり取りと当人の能力を見ていればどんな性格かは想像がつく。
「一縷の望みをかけてって奴だな。一応騎士団長に伝達石を渡してきた。何かあれば連絡が来る。<転移>も記録しなおしたしな」
役に立たない事を祈る。
「ああ、何度でもボコれるってわけね」
何でそういう結論に直結するんですかね。いや正解だけど。
「その通り。ところで住民の避難はどうなった?」
「大分時間を稼げたみたいで、もう希望者はほとんど南方に逃げたわ。残っているのは政府首脳とか大公、あるいはこの地に骨を埋める決意をした人たちだけよ」
「ふむ、無用な犠牲は避けられたか」
「一時的に、ね。最終的に公国騎士団は全滅するでしょうし、王国騎士団もかなりの被害を受ける」
戦争がそのまま続けばな。
「その数十倍の一般人が巻き込まれるよりゃましだ」
「えっと、その、ケイ?」
「ん?どうしたセレス」
「公国を助けるんじゃない、の?」
「違うよ、そんなことはしない。<勇者>は、人族同士の争いに関与してはならない。これは俺にも適用されるからね」
具体的に言うならば俺は<管理者>だがこの状況では大して変わらない。
「え、じゃあさっきまで行ってたのは……?」
「ああ、あれは相手に<勇者>が居たからね、俺はあくまで調整役だ。相手が戦闘不能になればこちらも撤退する。それが<システム>の規定、約定だ」
調整役、あるいはカウンターと言ったほうが分かりやすいだろうか。
「……<システム>?何ソレ?」
「それは「ケイ」……悪い。すまんセレス、軽々しく話せる事じゃなかった」
誰が聞いてるともわからないところで話す事じゃなかった、危ない危ない。さくらナイス。
「……そう、なら深くは聞かない」
「まあ、いずれ嫌でも話すことになるからその時に聞いてくれ……と言ってもそれがいつになることやら……」
いや本当にいつになるのやら。
「アンタがレベル上げして戦車とか召喚できるようになったら済む話でしょ?特に自衛隊装備はほぼ確実に召喚できるんだから」
「わかったわかった、急ぐから。じゃあ次の国行くか?」
「そうね、どうせしばらくは攻めてこないでしょう、距離を稼がなくては」
「次行くのってどこだっけ?」
「南の大国、スルヴァニア皇国よ」
以上です。
次は閑話をハーメルン側で三話に分けているところを一話に統合してアップします。年内には、その次辺りまで上げようと考えております。
それでは、感想評価批評など、お待ちしております。